オーストラリアでは、早期離乳食導入ガイドラインで食物アレルギーが7割減少した(先行研究との違いは?)

離乳食早期導入と食物アレルギーの関係

食物アレルギー予防における「早期導入」の効果を、実際の臨床現場で検証した大規模研究をご紹介します。2000年頃まで「アレルギーを防ぐために遅く与えましょう」と言われていた常識は、さまざまな研究で覆されてきました。

■ 2000年頃まで、「アレルギーを防ぐために、赤ちゃんには卵やピーナッツを遅く与えましょう」と指導されていました。例えば「卵は2歳から、ピーナッツは3歳から」という感じです。
■ しかし、2008年頃から「本当にそれで正しいのか」という疑問が出てきました。なぜなら、この「遅く与える」方法を使っている国々(オーストラリア、英国、米国など)で、逆に食物アレルギーの子どもが増えていたからです。「遅く与えることが逆効果なのでは」と考えられ始めました。

■ そこで、2010年代に世界中で大規模な実験が行われました。特に2015年、Du Toit らが発表したLEAP研究では、重症湿疹や卵アレルギー既往を持つ乳児640人を対象に、4-11か月でピーナッツを摂取するグループと除去するグループに分けて比較しました。5歳時のアレルギー有病率は摂取群1.9%、除去群13.7%と有意な差が見られ、アレルゲンは「遅らせるほど安全」という長年の常識を覆されることになりました。

Du Toit, G., et al. (2015). Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy. New England Journal of Medicine, 372(9), 803-813.

■ さらに、このLEAP研究の参加者を12歳まで追跡した2024年の研究では、乳児期に5年間ピーナッツを食べていた群は、思春期に入ってもアレルギー率4.4%で、幼少期以降ピーナッツ摂取頻度が減っても保護効果が持続することが示されました。これは早期導入が一時的な効果ではなく、長期的な免疫寛容を築くことを証明しています。

Du Toit, G., et al. (2024). Follow-up to Adolescence after Early Peanut Introduction for Allergy Prevention. NEJM Evidence, 3(6), EVIDoa2300311.

■ 同様に、日本のPETIT研究では、重症湿疹乳児147人に6か月から加熱卵パウダー50mg→250mgと段階的に投与した結果、1歳時の卵アレルギーは介入群8%、プラセボ38%となり、わずか50mgという微量の卵が強力な予防効果を示しました。

Natsume, O., et al. (2017). Two-step Egg Introduction for Prevention of Egg Allergy in High-Risk Infants with Eczema (PETIT). Lancet, 389(10066), 276-286.

■ これらの個別研究の結果は偶然ではないことが、2023年のメタアナリシスで確認されています。2-12か月児を対象としたランダム化比較試験18件を統合解析した結果、ピーナッツを4-11か月に導入するとアレルギー相対リスク0.29、卵4-6か月導入で0.56など一貫して予防効果が認められたのです。

Scarpone, R., et al. (2023). Timing of Allergenic Food Introduction and Risk of IgE-Mediated Food Allergy: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatrics, 177(5), 489-497.

■ この発見を受けて、2016年にオーストラリアの医学会は指導を大きく変更し、「ピーナッツ、卵、牛乳は1歳までに与えましょう」という新しいガイドラインを作りました。
■ 先行して、おなじオーストラリアで「社会実装で効果がなかった」という結果でしたが…結果は意外なものでした。

早期離乳食開始をしても食物アレルギー予防に結びつかなかったオーストラリアで、食物アレルギーの発症に関連した因子は何だったのか? 離乳食を早期導入しても、乳児期の食物アレルギーは減らない?早期導入後の食物アレルギーの発症要因を探る研究が発表されています pediatric-allergy.com

■ すなわち、この研究は、この新しいガイドラインが実際に効果があったかどうかを、要素を付加して確かめるために行われたものです。

※この早期導入にはピットフォールもあります。noteの後半で私見も交えて解説しました。

Walker SVM, D'Vaz N, Pretorius RA, Lo J, Christophersen C, Prescott SL, et al. Infant Diet Recommendations Reduce IgE-Mediated Egg, Peanut, and Cow's Milk Allergies. J Allergy Clin Immunol Pract 2025.

オーストラリアにおいて、アレルギー家族歴を持つ乳児1,072人(ガイドライン変更前506人、変更後566人)を対象に、新しい食物アレルギー予防ガイドラインの効果を6年間にわたって検証した前後比較研究を実施した。

背景

■ ランダム化比較試験のメタアナリシスにより、乳児期の早期における卵とピーナッツの導入が卵およびピーナッツアレルギーのリスクを軽減することが明らかになった。
■ したがって、乳児栄養に関するアドバイスは、従来の回避を推奨するものから、現在の乳児食における一般的な食物アレルゲンの摂取を推奨するものへと大きく変化した。

目的

■ 乳児栄養およびアレルギー予防ガイドラインの変更前後の2つのコホート間で、1歳時のIgE依存性食物アレルギーの有病率を比較すること。

方法

■ コホート1(2006-2014年生まれの乳児506名)では、参加者に乳児栄養に関するアドバイスは提供されなかった。
■ コホート2(2016-2022年生まれの乳児566名)では、乳児が生後6か月の時点で、すべての家族に更新された乳児栄養およびアレルギー予防ガイドラインが提供された。

■ すべての乳児は、アレルギー疾患の既往歴を有する一親等の親族を持っていた。
■ 1歳時に、乳児の食物アレルゲン感作およびIgE依存性食物アレルギーが評価された。

結果

■ ピーナッツ、卵、牛乳は、コホート1よりもコホート2でより早期に導入された(すべてP < .001)。

■ IgE依存性ピーナッツ、卵、および/または牛乳アレルギーの合併有病率は、コホート2で4.1%、コホート1で12.6%であった(調整オッズ比0.28、95%信頼区間:0.16-0.48、P < .001)。

■ 具体的には、ピーナッツアレルギーの有病率は1.1%対5.8%(調整オッズ比:0.24、95%信頼区間:0.08-0.76、P = .015)、卵アレルギーは2.8%対11.7%(調整オッズ比:0.23、95%信頼区間:0.12-0.45、P < .001)、牛乳アレルギーはそれぞれ0.5%対2.4%であった(調整オッズ比:0.14、95%信頼区間:0.04-0.55、P = .005)。

結論

更新された食物アレルギー予防ガイドラインの家族への直接提供により、早期導入が促進され、IgE依存性ピーナッツ、卵、牛乳アレルギーの有病率が低下した

 

 

 

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