
アトピー治療における汗の新たな位置づけ
■ アトピー性皮膚炎は、皮膚がかゆくなったり赤くなったりする病気で、一度良くなってもまた悪くなることを繰り返します。この病気を悪化させる原因はたくさんあり、その中の一つが汗と考えられています。
■ すなわち、汗はアトピー性皮膚炎の悪化因子とされてきました。実際に、先行研究では、アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、自分の汗を皮膚に付けるテストを行うと、アレルギー反応を示します。これは汗の中に、患者さんの免疫システムが「敵」だと認識するアレルゲンがあると言えます。
■ たとえば汗の中で問題となる物質は「MGL 1304」と呼ばれるもので、これはカビの一種(マラセチア)が作り出す物質です。
Hiragun, T., et al (2017). Sweat Allergy: Extrinsic or Intrinsic? Journal of Dermatological Science, 86(3), 190-195.
■ しかし近年、この「汗=悪者」という単純な図式に疑問を投げかける研究が相次いで発表されています。興味深いことに、1994年という早い時期から、入院中のアトピー性皮膚炎患者30例に週3回の運動で発汗を伴うトレーニングを実施したところ、皮疹の改善が認められ、しかも異常だった体温反応が正常化したという報告があります。
Salzer, B., et al (1994). Group Sports as Adjuvant Therapy for Patients with Atopic Eczema. Hautarzt, 45(11), 753-757.
■ さらに、アトピー性皮膚炎患者では汗の「量」が健常者より少なく、「質」も異常であることが明らかになってきました。重症患者ほど低発汗傾向が顕著で、電解質バランスも乱れているのです。
Wruhs, M., et al (2017). Quantity and quality of sweating in atopic dermatitis. Archives of Dermatological Research, 309(9), 719-729.
■ このような背景から、島根大学の研究グループが、「汗が本当に大人のアトピー性皮膚炎を悪化させるのか」「汗アレルギーがどのくらい関係しているのか」を詳しく調査し、発表されています。
■ この研究は、汗との「上手な付き合い方」という新しい治療アプローチの可能性を探る重要な試みと言えるでしょう。
Kaneko S, Murota H, Murata S, Katayama I, Morita E. Usefulness of Sweat Management for Patients with Adult Atopic Dermatitis, regardless of Sweat Allergy: A Pilot Study. Biomed Res Int 2017; 2017:8746745.
アトピー性皮膚炎患者34名(男性17名、女性17名;平均年齢27.8歳)を対象に、汗による症状悪化の自己評価と血液検査による汗アレルギーの関係を調査し、24名には発汗管理指導を実施し、指導前後での症状変化を1ヶ月間にわたって観察した。
背景
■ 汗は年齢に関わらずアトピー性皮膚炎(AD)の悪化因子である。
■ 発汗により悪化するADには汗アレルギーが関与している可能性がある。
目的
■ 汗が成人AD症状を悪化させるかどうかを調査し、汗アレルギーの関与の程度を検討した。
方法
■ AD患者34名(男性17名、女性17名;平均年齢27.8歳)に対し、汗が症状をどの程度悪化させるかを10点数値スケールで記録してもらった。
■ 参加者の回答をヒスタミン遊離試験(HRT)と比較した。
■ さらに、患者のうち24名が発汗管理方法の指導を受け、その結果を10点スケールで評価した。
結果
■ 汗HRT結果がクラス≥2であった患者は13名であったが、HRT結果と患者の汗による症状悪化の自己評価との間に相関は認められなかった。
■ 発汗管理指導を受けてから1ヶ月後、積極的な発汗が良いかどうかについては低い平均スコア4.6が得られたが、発汗管理指導が役に立ったかどうかについては高い平均スコア7.0が得られた。
結論
■ 本調査により、患者の汗に対する否定的な印象は、通常発汗と関連する粗雑な個人的経験に由来する可能性があることが示された。
■ 成人アトピー性皮膚炎患者に対する発汗管理は汗アレルギーに関わらず極めて有用であった。
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