アトピー性皮膚炎治療の「かゆみと皮膚」の両方を高い目標で治すことの重要性とは?

アトピー性皮膚炎の治療目標を、より高みをめざせるようになった時代の再定義とは?

■ アトピー性皮膚炎のかゆみがひどいと、夜眠れなくなったり、痛みを感じたりして、日常生活に大きな支障が出ます。

■ ある研究によると、アトピー性皮膚炎の患者の91%が毎日かゆみを感じていて、かゆみが強い人ほどうつ病になりやすいことも分かっています。

■ これまでの治療では、「ある程度良くなればいい」という考え方もありますが、それでは患者は十分に楽にならないともいえます。かゆみや睡眠の問題が残ると、不安やうつ病などの心の問題も続くからです。実際、かゆみの改善は皮膚の見た目の改善と同じくらい、あるいはそれ以上に患者の生活の質に大きく影響することが、複数の研究で示されています。

Boehncke, W. H., et al. (2024). Itch improvement has a major and comparable effect on the patients' quality of life in psoriasis as well as atopic dermatitis. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology.

■ 近年、生物学的製剤やJAK阻害薬など、アトピー性皮膚炎に対する新しい治療薬が次々と登場しています。これらの薬剤は、従来の治療では難しかった「皮膚のほぼ完全な改善(EASI90やEASI100)」や「かゆみのほぼ完全な消失」を実現できる可能性を示しています。例えば、JAK阻害薬とデュピルマブを直接比較した研究では、16週時点でEASI90達成率が30-40%に達したという報告があります。

Blauvelt, A., Simpson, E. L., et al. (2021). Efficacy and Safety of Upadacitinib vs Dupilumab in Adults With Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis (Heads Up). JAMA Dermatology, 157(9), 1047-1055.

Silverberg, J. I., Guttman-Yassky, E., et al. (2023). Two Phase 3 Trials of Lebrikizumab for Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis (ADvocate1/2). New England Journal of Medicine, 388(12), 1080-1091.

■ こうした治療の進歩を背景に、最近では「できるだけしっかり治す」ことを目指す考え方もでてきました。AHEAD(エイヘッド)という国際的な専門家グループは、かゆみや皮膚の状態、生活の質などについて、具体的な「最適な目標」を示しました。例えば、かゆみのスコアを0か1(10段階評価で)にすることなどです。

■ なお、患者が自分で報告するかゆみのスコア(PP-NRSやWP-NRS)は、一見すると主観的な評価に思えるかもしれません。しかし、これらの評価方法は科学的に検証されており、信頼性と妥当性が確認されています。つまり、「かゆみをほとんどない状態にする」という目標は、きちんと測定でき、患者の生活の質や睡眠の改善と強く関連することが分かっているのです。

Yosipovitch, G., Silverberg, J. I., et al. (2019-2023). Patient-reported outcome instruments and the validity of Peak/Worst Pruritus NRS in AD (psychometric validation studies).

■ 最近の臨床試験では、こうした目標を達成した患者は、生活の質や睡眠の質が、より大きく改善することが分かってきました。

■ そして、実際の医療現場で治療を受けている1920人の患者のデータを使って、かゆみや皮膚の改善の程度が、生活の質や睡眠、痛みなどにどう関係しているかを詳しく調査されました。

Silverberg JI, Calimlim BM, Grada A, Bunick CG, Gooderham MJ, Shi VY, et al. Real-world evidence on the benefits of optimal itch relief and skin clearance in atopic dermatitis management: a study from the TARGET-DERM AD registry. Journal of Dermatological treatment 2024; 35:2428729.

アトピー性皮膚炎で標準治療を受けている成人患者1,920名を対象に、かゆみの重症度と皮膚病変の重症度が、患者が報告する生活の質、睡眠の質、皮膚の痛みとどのように関連しているかを分析した横断研究を実施した。

背景

■ アトピー性皮膚炎(AD)において、治療によって症状が部分的に改善した場合と比較して、かゆみと皮膚の症状が治療目標まで改善した場合の実際の効果がどの程度違うのかは、まだよくわかっていない。

目的

■ 本研究では、痒みの軽減(Worst Itch Numeric Rating Scale [WI-NRS]の減少)および皮膚の改善度(Investigator Global Assessment [IGA] 0/1)と、患者自身が報告する他の結果とどのように関連しているかを調べた。

方法

■ 標準治療を受けている成人を対象としたTARGET-DERM ADレジストリのデータを用いて、痒みの重症度(Worst Itch Numeric Rating Scale [WI-NRS])および皮膚病変の重症度(IGA)が、患者が報告する生活の質([DLQI])、AD重症度[(POEM])、睡眠の質([Sleep-NRS])、皮膚の痛み[(Pain-NRS])とどう関係しているかを分析した。

結果

■ 1,920名の参加者(女性58.6%、非ヒスパニック系白人54.5%、米国在住93.8%、平均年齢45歳)のうち、理想的な状態(生活の質DLQI 0/1、症状の程度POEM 0-2、睡眠の質Sleep-NRS 0/1、痛みPain-NRS 0/1)に達した割合は、かゆみが最もよく改善した人(WI-NRS 0/1:それぞれ52.1%、53.7%、57.3%、83.1%)と皮膚の状態が最もよく改善した人(IGA 0/1:それぞれ44.7%、44.3%、44.7%、74.3%)で最も高かった。

■ 理想的な状態に達する確率(オッズ比)は、かゆみと皮膚の状態の両方がほぼ完全に良くなった参加者で最も高く(生活の質DLQI 0/1:20.0倍、症状の程度POEM 0-2:41.7倍、睡眠の質Sleep-NRS:16.1倍、痛みPain-NRS:6.0倍)、治療効果が非常に大きいことが示された。

結論

かゆみと皮膚の症状の両方について、最も良い状態まで改善させることが、患者が感じるアトピー性皮膚炎の全体的な状態を大きく向上させる
■ 本研究の結果は、治療がどれだけ効いているかを評価する際に、最小限の病気の活動性(最小疾患活動性基準:ほとんど症状がない状態)を基準として使うことが有用であることを示している。

 

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