
アトピー性皮膚炎と保湿剤。日本でよく使用されるヘパリン類似物質クリームの効果は?
■ アトピー性皮膚炎は、皮膚が炎症を起こしたり、痒くなったり、乾燥したりする慢性的な病気です。原因は複雑で、遺伝と環境の両方が関係しています。
■ 多くの場合は命に関わる病気ではありませんが、患者の生活の質を大きく下げてしまい、医療費もかかります。
■ 保湿剤はとても重要です。なぜなら、アトピー性皮膚炎患者は皮膚のバリア機能が弱く、乾燥しやすいからです。
■ ただし、すべての保湿剤が同じように効くわけではありません。例えば、イギリスで行われた大規模な研究では、お風呂に入れるタイプの保湿剤(エモリエント)を追加しても、子どものアトピー性皮膚炎は改善しないことが示されました。つまり、保湿剤の「種類」や「使い方」によって効果が大きく変わる可能性があるのです。
Santer, M., et al. (2018). Bath emollient additives for the treatment of childhood eczema (BATHE trial). BMJ, 361, k1332.
■ 保湿剤には色々な種類があり、それぞれ違う働きをします。例えば、尿素やグリセロールは皮膚に水分を保持させ、ワセリンは水分の蒸発を防ぎます。
■ 近年、「セラミド」という皮膚のバリア機能に重要な成分を含む保湿剤が注目されています。セラミドは皮膚の表面で水分を保つ役割を果たしますが、アトピー性皮膚炎の患者さんではこのセラミドが不足していることが知られています。セラミドを含む保湿剤は、皮膚の症状やかゆみを改善することが複数の研究で報告されています。
Nugroho WT, Sawitri S, Astindari A, Utomo B, Listiawan MY, Ervianti E, et al. The Efficacy of Moisturisers Containing Ceramide Compared with Other Moisturisers in the Management of Atopic Dermatitis: A Systematic Literature Review and Meta-Analysis. Indian J Dermatol 2023; 68:53-8.
■ ヒルドイドクリーム(別名:MPSクリーム)は、ヘパリン類似物質という成分を含む保湿剤です。このクリームは、アトピー性皮膚炎だけでなく、乾癬や放射線による皮膚炎など、様々な皮膚の問題に使われています。
■ 日本では、アトピー性湿疹の患者さんの95%以上がヘパリン類似物質含有の保湿剤を使っており、1ヶ月使うと乾燥や痒み、湿疹の症状が改善したという報告もあります。
Kawakami T, Soma Y. Questionnaire survey of the efficacy of emollients for adult patients with atopic dermatitis. J Dermatol. (2011) 38:531–5.
■ MPSクリームについては、単に水分を保つだけでなく、皮膚のバリア機能そのものを修復する可能性が、最近の実験室レベルの研究で示されています。具体的には、皮膚の細胞同士をつなぐ「タイトジャンクション」という構造を強化することで、皮膚のバリアを根本から改善する作用があることが分かってきました。
Fujikawa, M., et al. (2022). Effects of mucopolysaccharide polysulphate on tight junctions and epidermal barrier. Experimental Dermatology, DOI: 10.1111/exd.14637.
■ しかし、これまで非滲出性湿疹(じくじくしていない湿疹)に対するMPSクリームの効果と安全性を、複数の研究をまとめて評価したメタアナリシスはなかったそうです。というか、今まで「MPSクリーム」ということを、私が知らなくて、十分な検索ができていませんでした…
■ そして最近、MPSクリームとして検索すると、メタアナリシスがあることを知りました。
Li M, Li Y, Xiang L, Li L. Efficacy and Safety of Mucopolysaccharide Polysulfate Cream for Non-Exudative Eczema: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med (Lausanne) 2021; 8:788324.
非滲出性湿疹(じくじくしていない湿疹)の患者2,389人を対象に、MPSクリーム(ヘパリン類似物質クリーム)を単独または他の治療と組み合わせて使用した20件のランダム化比較試験をメタアナリシスで評価した。
背景
■ ムコ多糖ポリ硫酸エステル(MPS)クリームは保湿剤として湿疹の治療に広く使われており、多くの臨床試験でその効果と安全性が確認されている。
■ しかし、これまでにこれらの研究をまとめて分析したさらなる研究は行われていない。
目的
■ 本メタアナリシスは、非滲出性湿疹(ジュクジュクしていない湿疹)に対して、MPSクリームを単独で使用した場合、または他の治療と組み合わせて使用した場合の効果と安全性を評価することを目的とした。
方法
■ 2021年7月31日までに公開された適切なランダム化比較試験を見つけるため、10のデータベースを検索した。
■ メタアナリシスにはRevman 5.3を使用した。
結果
■ 合計20件の適切な研究が対象となった。
■ 20件の研究のうち、2件はMPSクリームと他の保湿剤を比較し、14件はMPSクリームとステロイド外用薬の組み合わせとステロイド外用薬(TCS)だけの効果を比較し、4件はMPSクリームとタクロリムス軟膏の組み合わせとタクロリムス軟膏だけの効果を比較した。
■ 統合した結果、MPSクリームは尿素クリームやワセリン軟膏と比べて、治療効果が高いことが示された(リスク比1.21、95%信頼区間: 1.12から1.30、統計的に非常に有意でP値 < 0.00001)。
■ また、再発率が低いこと(リスク比0.44、95%信頼区間: 0.26から0.74、P値 = 0.002)および掻痒スコアも低いこと(平均差−1.78、95%信頼区間: −2.16から−1.40、P値 < 0.00001)が示された。
■ さらに、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏だけを使った場合と比べて、MPSクリームと組み合わせた治療では、治療効果、症状スコア、再発率、かゆみスコアのすべての面でより良い結果が得られた。
■ 安全性については、皮膚の副作用は軽いものであり、MPSクリームを単独または他の治療と組み合わせて使っても、皮膚の副作用が起こる危険性は増えなかった。
結論
■ MPSクリームを単独で使用する場合でも、他の治療と組み合わせて使用する場合でも、軽度で我慢できる程度の皮膚の副作用を伴いながら、非滲出性湿疹の治療に良い効果をもたらすことができる。
■ ただし、今回対象とした研究の質が必ずしも十分とは言えないため、今後はより質の高い大規模な研究が必要である。
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