
アトピー性皮膚炎治療の新時代とデュピルマブの実際
■ アトピー性皮膚炎(AD)は、子どもに最もよく見られる皮膚の病気で、世界中で増えてきています。5人に1人くらいの子どもがこの病気にかかっており、その多くは小児期に発症します。
■ 今までは、ステロイド外用薬などで治療していましたが、症状が重い子どもたちには十分効かないことがありました。そのような場合、ステロイド内服薬や免疫抑制剤などが使用されてきましたが、長期使用に関しては、心配があります。
■ そこで注目されているのが、「デュピルマブ」です。この薬は、体の中で炎症を引き起こす物質の働きを邪魔することで、症状を改善します。具体的には、IL-4とIL-13という物質が細胞に作用するのを防ぎます。
■ しかし、実際の診療現場で最も重要なのは、「薬が本当に効くか」だけでなく、「患者さんが長く続けられるか」という点です。国際的な実世界研究では、デュピルマブは他の生物学的製剤と比べて12か月後、24か月後の継続率が高いことが示されています。これは、効果が持続し、副作用も許容範囲内であることを意味する重要な結果と言えましょう。
Torres, T., et al. (2025). Drug Survival of Dupilumab, Tralokinumab and Upadacitinib in Patients with Atopic Dermatitis: An International Real-World Comparative Study. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 39(9), e756-e761.
■ さらに、デュピルマブ以外にも、同じように炎症を抑える新しい薬(トラロキヌマブやネモリズマブなど)が登場してきており、患者さんの状態や副作用の出方に応じて薬を選んだり、切り替えたりすることも可能になってきました。
Kim, Y. S. (2025). Comparative Efficacy and Safety of Tralokinumab and Dupilumab in Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis: A Narrative Review. Journal of Clinical Medicine, 14(14), 4960.
■ しかし、子どもで実際にこの薬を使ったときのデータはまだ少なく、特に長く使った場合のデータが不足していました。最近、中国における報告があり、アジア人種における実世界のデータは、欧米のデータと異なる特徴を示す可能性があるため重要です。
■ そこで、中国の病院でデュピルマブを使っている子どもたちのデータを集めて、本当に効果があるのか、どんな副作用が起きるのか、そして長期間使い続けられるのかを詳しく調査された研究を確認してみました。
■ デュピルマブは、我々にとっても重要な薬剤で、私も実臨床で使用しています。アジア人種における、実世界研究は重要でしょう。そして、いくつかの問題点も報告されました。
Xu Y, Li B, Wang W. Effectiveness and safety of dupilumab in the treatment of pediatric atopic dermatitis: a real-world study from China. Frontiers in Immunology 2025; Volume 16 - 2025.
中等症から重症のアトピー性皮膚炎を持つ中国人小児患者59例(生後6か月~12歳)に対して、デュピルマブを投与し、追跡期間中央値33週間(最長96週間)にわたり有効性と安全性を評価した。
背景
■ アトピー性皮膚炎(AD)は小児における代表的な慢性炎症性皮膚疾患であるが、従来の治療法では効果が限定的であり、かつ潜在的な副作用を伴うことが多い。
方法
■ 本実世界研究では、IL-4/IL-13シグナル伝達を標的とするモノクローナル抗体であるデュピルマブを、中等症から重症のADを有する中国人小児患者59例(生後6ヶ月~12歳)を対象に評価した。
■ 体重により層別化し、追跡期間中央値33週間(最長96週間)にわたり、湿疹面積・重症度指数(EASI)、最大そう痒症数値評価スケール、皮膚科生活の質指数などの有効性指標を動的に評価するとともに、治療関連有害事象(TEAEs)の系統的サーベイランスを実施した。
結果
■ 第16週時点で68.97%(40/58例)がEASI-75を達成し、有意な症状緩和(そう痒感68.17%減少、QOL 77.4%改善)が認められた。
■ 有効性は第16週以降持続し(58.82%超がEASI-75を維持)、年齢や性別による差異は認められなかった。
■ TEAEsは25.42%(15/59例)の患者に発現し、主なものは結膜炎(10.17%)および一時的な皮膚症状の悪化(5.08%)であった。
■ 特に注目すべき点として、初回投与後72時間以内に発疹が一時的に悪化した例をはじめて報告(3例、EASI増加:39.90%ー61.13%)し、さらに発熱を伴う遅発性膿疱性皮膚炎の稀な症例も確認した。
結論
■ 本知見は、中国人小児ADにおけるデュピルマブの持続的有効性と管理可能な安全性を実証したが、治療開始直後の一時的な症状悪化や、稀な炎症反応に対する警戒の必要性を強調し、本集団における長期使用のための重要な実世界エビデンスを提供するものである。
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