患者の声を反映する「PROM」は、医療現場でどれくらい活用されている?世界的調査から見えた課題

患者の声を診療に活かすツール「PROM」の現状と課題

■ アトピー性皮膚炎と慢性蕁麻疹は、長期間続く皮膚の病気で、多くの人を悩ませています。これらの病気は、肌のかゆみや赤みだけでなく、よく眠れなくなったり、学校や仕事に集中できなくなったりと、生活全体に影響します。

■ これらの病気の困った点は、症状が日によって変わることです。アトピー性皮膚炎は突然悪化することがありますし、蕁麻疹は出たり消えたりします。そのため、医師が診察室で見る状態が、患者さんのいつもの状態とは限りません。

■ 血液検査などで病気の状態を調べる方法もありますが、これらはいつもできるわけではありません。そこで役立つのが「患者報告アウトカム指標(PROM)」です。これは患者さん自身が記入するアンケートで、症状の重さや生活への影響を測ることができます

■ アトピー性皮膚炎用のPROMには、Patient-Oriented Scoring Atopic Dermatitis Index(POEM)やDermatology Life Quality Index(DLQI)などがあります。POEMは、小児においても週単位の症状変化を鋭敏に捉えることができ、医師による評価と組み合わせることで、より正確な病気の把握が可能になることが示されています。

Gaunt, D. M., et al. (2016). The Patient-Oriented Eczema Measure in young children: responsiveness and minimal clinically important difference. Allergy, 71(11), 1620-1625.

■ 特に小児では、年齢に応じた適切なツールの選択が重要です。6歳未満の小さな子どもでは保護者が代わりに答える形式が使われ、6歳以上では子ども自身が答えられるツールも開発されています。また、「どれくらい改善すれば意味があるか」という基準も研究されており、POEMでは約3〜6点の改善が臨床的に意味のある変化とされています。

Simpson, E. L., et al. (2021). Definition of Clinically Meaningful Within-Patient Changes in POEM and CDLQI in Children 6–11 Years of Age with Severe Atopic Dermatitis. Dermatology and Therapy, 11(3), 767-782.

蕁麻疹用には、Urticaria Activity Score(1週間の症状を点数化)、Urticaria Control Test(病気がどれだけコントロールできているか)、Chronic Urticaria Quality of Life Questionnaire(生活の質への影響)などがあります。

■ 国際的には、アトピー性皮膚炎の臨床試験や日常診療で使うべきツールについて、専門家による合意形成も進められています。このような標準化の動きにより、世界中のデータを比較しやすくなり、より良い治療法の開発につながることが期待されています。

Williams, H. C., et al. (2022). The HOME Core Outcome Set for clinical trials of atopic dermatitis. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 149(6), 1899-1911.

■ これらのツールは臨床試験ではよく使われていますが、普段の診療ではあまり使われていないようです。そこで、これらのツールが実際にどのくらい使われているかが調査されました。

Cherrez-Ojeda I, Bousquet J, Giménez-Arnau A, Godse K, Krasowska D, Bartosińska J, et al. Patient-Reported Outcome Measures in Atopic Dermatitis and Chronic Urticaria Are Underused in Clinical Practice. The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice 2024; 12:1575-83.e1.

世界73カ国の72の専門的なアレルギー・皮膚科センターおよびその地域ネットワークで、2,534名の医師がアトピー性皮膚炎(AD)および慢性蕁麻疹(CU)に対する患者報告アウトカム指標(PROMs)の使用について53項目の質問に回答した。

背景

■ 患者報告アウトカム指標(PROMs)は、医師による診察を補い、治療方針を決める際の指針となる、信頼性が確認された標準的な方法である。
■ これらはアトピー性皮膚炎(AD)および慢性蕁麻疹(CU)を日々の診療で経過観察するために重要であるが、実際の臨床現場での活用についてはまだ満たされていない課題や知識の不足が存在する。

目的

■ アレルギー科および皮膚科のクリニック、ならびにその関連する地域の医療機関において、ADおよびCUに対するPROMsが世界中でどのように実際に使われているかを調査した。

方法

■ 世界73カ国の72の専門的なアレルギー・皮膚科センターおよびその地域ネットワークで、2,534名の医師がADおよびCUに対するPROMsの使用について53項目の質問に回答した。

結果

■ 2,534名の医師のうち、1,308名がPROMsを認知していた。
■ そのうち、ADに対してPROMsを実際に使用していたのはわずか14%、CUに対しては15%だけであった。
■ PROMsを使う医師の半数は、たまにしか、あるいは時々しか使用していなかった。
■ ADおよびCUのPROMsを使うのは、女性医師、若い医師、皮膚科医に多い傾向があった。
■ ADではPatient-Oriented Scoring Atopic Dermatitis Index(患者中心のアトピー性皮膚炎評価指標)、CUではUrticaria Activity Score(蕁麻疹活動性スコア)が、それぞれ最もよく使われるPROMsであった。
■ 疾患コントロールおよび活動性のモニタリングが、PROMs使用の主な動機であった。
■ 時間が足りないことがPROMs使用の最大の障害であり、次に患者が質問票を嫌がるだろうという医師の思い込みが挙げられた。
■ ADおよびCUのPROMsを使う医師は、どのPROMsを選べばよいかについてのトレーニング(研修)を受けたいと考えていた。

結論

■ PROMsには多くの利点があるにもかかわらず、日常診療での使用は十分とは言えず、医師はその使用に障害があると感じている。
■ 国内および国際的な指針に沿って、PROMs活用のレベルをさらに高めることが必要不可欠である。

 

 

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