大気汚染と気候変動がアトピー性皮膚炎を悪化させる？：メタアナリシス

環境とアトピー性皮膚炎の深い関係

■ 近年、地球温暖化や大気汚染が問題になっています。空気中の汚染物質が増えると、心臓の病気や呼吸器の病気が悪化することが知られています。また、異常な暑さや寒さ、極端な天気も、人々の健康に悪い影響を与えることがわかってきました。

■ アトピー性皮膚炎も、環境の影響を受けるのではないかと考えられています。アトピー性皮膚炎は、肌がかゆくなったり赤くなったりする慢性的な病気で、世界中で多くの人が悩んでいます。

■ これまでの研究では、空気の汚れや気温がアトピー性皮膚炎に影響するかどうかについて、まちまちな結果が出ていました。ある研究では「汚染物質が増えるとアトピーがひどくなる」と報告されていますが、別の研究では「関係がない」という結果になっています。また、「寒い天気が肌を乾燥させてアトピーを悪化させる」という研究もあれば、「暑い天気の方が悪い」という研究もあります。

■ 最近の研究では、大気汚染の影響は子どもだけでなく大人にも及ぶことがわかってきました。たとえば、アメリカの大規模な研究では、PM2.5(細かいちり)が多い地域に住む成人ほど湿疹(アトピー性皮膚炎を含む)を持っている割合が高いことが明らかになりました。

Chen, G. F., et al. (2024). Association between fine particulate matter and eczema: A cross-sectional study of the All of Us Research Program and the Center for Air, Climate, and Energy Solutions. PLOS ONE, 19, e0310498.

■ また、韓国の約21万人を追跡した研究では、長期間にわたって空気の汚れにさらされると、新たにアトピー性皮膚炎を発症するリスクが高まることが示されました。

Park, S. K., Kim, J. S., & Seo, H. M. (2022). Exposure to air pollution and incidence of atopic dermatitis in the general population: A national population-based retrospective cohort study. Journal of the American Academy of Dermatology, 87(6), 1321-1327.

■ さらに驚くべきことに、台湾の大規模な出生コホート研究では、お母さんのお腹の中にいる時期(妊娠後期)から生まれた直後の短い期間に空気の汚れにさらされることが、将来のアトピー性皮膚炎の発症に影響する可能性があることがわかりました。

Lin, L. H., Hwang, B. F., et al. (2025). Fine particulate matter exposure and incident atopic dermatitis: a birth cohort study. British Journal of Dermatology, 192(6), 1038-1046.

■ これまでの研究では、子どもを対象にした研究は多くありましたが、大人を対象にした研究はあまり詳しく調べられていませんでした。また、世界中の研究結果を統合して、どの環境要因が本当にアトピー性皮膚炎に影響しているのかを明確にする必要がありました。

■ そこで、メタアナリシスにより、大人のアトピー性皮膚炎が、大気汚染や天候、気候とどのように関係しているかを、これまでの研究結果をまとめて分析されました。

Park M, et al. Climate Conditions, Weather Changes, and Air Pollutants and Atopic Dermatitis: A Meta-Analysis. JAMA Dermatol. 2025 Aug 1;161(8):828-839. doi: 10.1001/jamadermatol.2025.1790. Erratum in: JAMA Dermatol. 2025 Aug 01;161(8):890.

18歳以上の成人を対象に、11,402件の論文から選別した42件の観察研究(コホート研究、症例対照研究、横断研究)をメタアナリシスし、気候条件(大気汚染、天候、気候)とアトピー性皮膚炎の症状との関連を系統的に評価した。

背景

■ 気候変動と汚染は人々の健康にとって大きな脅威であり、環境の影響を受けやすいアトピー性皮膚炎のような一般的な病気の負担を悪化させる可能性がある。

目的

■ 環境要因とアトピー性皮膚炎の症状との関連について、科学的証拠をまとめ、その信頼性を評価すること。

データソース

■ MEDLINE、EMBASE、Cochraneデータベースを、開始時から2024年6月28日まで系統的に検索した。

研究の選択

■ 観察研究(コホート研究、症例対照研究、横断研究)を含み、気候条件(例:大気汚染、天候、気候)とアトピー性皮膚炎の症状との関連を調べた、18歳以上の成人を対象とした研究を選んだ。
■ 検索では、アトピー性皮膚炎と各環境要因に関する専門用語とキーワードを組み合わせ、言語、日付、地域による制限は設けなかった。

データ抽出と統合

■ データはランダム効果モデル(統計的手法)を用いてまとめられ、統合された推定値は95%信頼区間とともに報告された。
■ 各症状についての証拠の信頼性を評価するために、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)が使用された。

主要アウトカムと測定指標

■ アトピー性皮膚炎の有病率または重症度。

結果

■ 11,402件の論文が見つかり、そのうち42件の研究が分析に含まれた。
■ PM10(直径10マイクロメートル以下の微小粒子状物質)が10μg/m³増加するごとに、アトピー性皮膚炎の外来受診が増加した(リスク比[RR]、1.008;95%信頼区間、1.003-1.012;高い信頼性)。
■ PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質)が10μg/m³増加するごとに、アトピー性皮膚炎の外来受診が増加する可能性があった(RR、1.013;95%信頼区間、0.999-1.027;中程度の信頼性)。
■ 二酸化硫黄(SO2)が10μg/m³増加するごとに、アトピー性皮膚炎の外来受診が増加した(RR、1.029;95%信頼区間、1.020-1.039;高い信頼性)。
■ 二酸化窒素(NO2)が10μg/m³増加するごとに、アトピー性皮膚炎の外来受診が増加する可能性があった(RR、1.014;95%信頼区間、0.999-1.030;中程度の信頼性)。

■ 極端な気温(非常に暑い、または非常に寒い)は、アトピー性皮膚炎関連の外来受診の増加と関連していた(中程度から高い信頼性)。

■ 雨を含むより多い降水量は、アトピー性皮膚炎の重症度が増す可能性があった(低い信頼性)。
■ より高い湿度は、おそらくアトピー性皮膚炎の重症度増加と関連していた(中程度の信頼性)。
■ 日光に当たる時間が長くなることとアトピー性皮膚炎の重症度との関連は不明確だった(非常に低い信頼性)。

■ 受動喫煙への曝露、交通や工場からの汚染への曝露は、おそらくアトピー性皮膚炎の発症率増加と関連していた(中程度の信頼性)。

結論と関連性

■ このシステマティックレビューとメタアナリシスの結果は、環境汚染物質のレベルが高まることと極端な気温が、アトピー性皮膚炎を持つ人々の数の増加と関連していることを示している。
■ 汚染と気候変動を減らすための対策は、アトピー性皮膚炎の症状を改善する可能性がある。

論文内容を、さまざまな媒体で配信しています。お好きな方法で御覧ください。

※論文の背景や内容の深掘り、全体のまとめ、図解、個人的な感想などは、noteメンバーシップにまとめています。

※論文の内容を、音声ラジオVoicyで放送しています（無料回・有料回の両方ありますが、無料回が多くなる予定です）。
※Voicyの内容を文字起こししたnoteマガジンも提供しています（noteメンバーシップの特典です。）。

ニュースレターでは、さまざまな医療の疑問を扱っています。

※登録無料のニュースレター（メールマガジン）は、2025年以降の実績で月8本程度、さまざまな記事をわかりやすく深掘り配信しています。定期的に無料記事も公開していますのでご興味がございましたらリンクからご登録ください。