
働き盛り世代を悩ませる「よくある手荒れ」の多くは慢性化している
■ 慢性手湿疹(Chronic Hand Eczema; CHE)は、手に生じる湿疹が3か月以上持続するか、過去12か月間に2回以上再発する病態として定義されます。一見すると「よくある手荒れ」と思われがちですが、実は一般人口における負担が予想以上に大きい疾患です。
■ 最近の大規模疫学調査により、CHEの実態が明らかになってきました。デンマークで実施された約4万人を対象とした調査では、手湿疹の1年有病率が13.3%に達し、そのうち82.6%が慢性化の基準を満たしていました。つまり、1年間のCHE有病率は約11%と推定され、「一時的な手荒れ」という従来の常識に反して、実際には多くの患者が慢性化に苦しんでいることが判明しています。
Quaade, A. S., et al. (2023). Chronic hand eczema: A prevalent disease in the general population associated with reduced quality of life and poor overall health measures. Contact Dermatitis, 89(6), 453–463.
■ さらに、欧州6か国とカナダで実施された6万人以上を対象とした国際調査でも、医師診断によるCHEの12か月有病率は4.7%と報告されました。この研究では、女性、就労者、都市部居住者、30–39歳の年代で有病率が高いことが示され、CHEが単なる「職業病」の枠を超えて、働き盛り世代の日常生活に深く関わる公衆衛生上の問題であることが浮き彫りになりました。
Apfelbacher, C., Bewley, A., et al. (2025). Prevalence of chronic hand eczema in adults: a cross-sectional survey of over 60 000 respondents from the general population of Canada, France, Germany, Italy, Spain and the UK. British Journal of Dermatology, 192(6), 1047–1054.
■ Lancetの最新総説でも、CHEは「公衆衛生上の問題」として強調されており、従来の「軽症の皮膚トラブル」という認識が誤りであることを示しています。CHEは患者の生活の質(QOL)を大きく低下させ、病欠や就労能力の損失にもつながるため、適切な治療介入が社会的にも重要です。
Weidinger, S., et al. (2024). Hand eczema. The Lancet.
■ こうした背景のもと、CHEの治療選択肢として外用JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬が注目されています。デルゴシチニブクリーム(日本でアトピーに使用されている0.5%製剤の4倍の濃度である2%製剤;Anzupgoという商品名)では、中等症から重症のCHE成人患者を対象とした国際第3相試験(DELTA 1およびDELTA 2試験)で有効性が実証され、さらに重症例では従来の標準治療である経口アリトレチノインとの直接比較(DELTA FORCE試験)でも優越性を示しました。
■ 従来、ステロイド外用薬が第一選択とされてきましたが、長期使用による副作用への懸念や効果不十分例の存在が課題でした。また、重症例に対しては全身療法(アリトレチノインや光線療法)が選択肢となるものの、副作用リスクが問題となります。
■ そして、先行しているデルゴシチニブ軟膏に対し、今回取り上げるルキソリチニブクリームも、最近、アトピー性皮膚炎に関係しない慢性手湿疹に対する効果が検討されています。第2相試験の結果が公開されていましたので共有します。
※現状では、外用JAK阻害薬は、日本では慢性手湿疹に保険適用はありません。
Zirwas M, Fowler JF, Jr., Tsianakas A, Devani AR, Halden P, Lai Z, et al. Efficacy and safety of ruxolitinib cream for the treatment of moderate to severe chronic hand eczema: Results from a 16-week, multicenter, randomized, double-blind study. J Am Acad Dermatol 2025.
中等度から重度の慢性手湿疹を持つ成人患者186名を対象に、1.5%ルキソリチニブクリームまたはプラセボ(偽薬)クリームを1日2回、16週間塗布する無作為化比較試験を実施した。
背景
■ 慢性手湿疹(CHE)は、よく知られている炎症性の皮膚疾患である。
目的
■ 中等度から重度の慢性手湿疹を持つ成人患者に対して、1.5%ルキソリチニブクリームがどれくらい効くか、そして安全に使えるかを調べること。
方法
■ この第2相試験では、北米および欧州から、慢性手湿疹、Investigator's Global Assessment-CHE(IGA-CHE; 医師による重症度評価)スコア3/4(中等度から重度)、過去に少なくとも1回は治療を受けたことがあり、現在またはここ5年以内にアトピー性皮膚炎(アレルギー性の皮膚炎)の既往がない成人を対象とした。
■ 患者は1:1の割合で2つのグループに分けられ、1.5%ルキソリチニブクリームまたは有効成分を含まないクリーム(基剤)を1日2回、16週間塗ってもらった。
結果
■ 無作為化された186名の患者のうち、ルキソリチニブクリームを使った患者の半数以上が、16週目に皮膚の状態がほぼ消失または完全に消失し、治療開始時から2段階以上の改善を達成した(53.2% vs ビヒクル群10.9%; P < .0001、主要な評価項目)。
■ 痒みの改善(Numerical Rating Scaleで4ポイント以上の改善)は2日目には報告され始め(9.1% vs 2.4%)、7日目には統計学的に明らかな差が見られた(27.4% vs 9.0%; P = .0024)。
■ 試験期間を通じて、皮膚の痛みや生活の質(QOL)の改善も報告された。
■ ルキソリチニブクリームは良好な忍容性を示し、これまでに報告されていない新しい副作用はなく、塗った部分に起きる反応も(3.2%)だった。
限界
■ 参加した患者数が比較的少なかったこと。
結論
■ ルキソリチニブクリームは、通常の治療ではうまくコントロールできない、アトピー性ではないタイプの慢性手湿疹に対して、効果的な治療の選択肢となる可能性がある。
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