湿疹の有無で、ピーナッツアレルギー予防の「機会の窓」は異なる?

「常識」を覆した食物アレルギー予防の新しい戦略

■ ピーナッツアレルギーは近年増加しています。以前は、「赤ちゃんにピーナッツを食べさせないようにすれば、アレルギーを予防できる」と考えられていました。しかし、実際にピーナッツを避けても、アレルギーは減らないという結果になりました。

■ そこで、「逆に早い時期からピーナッツを食べさせたらどうなるか?」を調べることにしました。実際に、観察研究では、イスラエルと英国の子どもたちを比較した研究で、イスラエルでは赤ちゃんの頃からピーナッツ入りのスナックを食べる習慣があり、英国よりもピーナッツアレルギーがずっと少ないことが分かりました。

du Toit G, Katz Y, Sasieni P, et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J Allergy Clin Immunol. 2008;122(5):984-991

■ その後、2つの大きな臨床試験が英国で行われました。

LEAP試験:湿疹などがあってアレルギーになりやすい赤ちゃん(高リスク群)を対象にした研究。ピーナッツを早くから食べた子は、避けた子に比べて81%もアレルギーが少なくなりました

Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015; 372(9):803-813.

EAT試験:普通の赤ちゃん(低リスク群を含む)を対象にした研究。こちらでもアレルギーは51%減りましたが、統計的にはっきりした差とは言えない結果でした。

Perkin MR, Logan K, Tseng A, et al. Randomized trial of introduction of allergenic foods in breast-fed infants. N Engl J Med. 2016;374(18): 1733-1743.

■ この違いが生じた理由の一つは、「アドヒアランス」(どれだけ指示通りにピーナッツを食べたか)の違いです。LEAP試験では92%の家族が指示通りにピーナッツを食べさせましたが、EAT試験では48%の家族しか守れませんでした。

■ EAT試験で守れなかった理由としては、6種類もの食品を同時に導入しなければならず大変だったこと、文化的な違い、母親の忙しさなどがありました。

■ しかし、この2つの研究結果からは、さらに重要な疑問が浮かび上がってきました。それは**「機会の窓」の問題**です。別の研究では、中等度から重症の湿疹がある乳児の場合、平均生後7か月の時点で既に約2割がピーナッツアレルギーを発症していたことが報告されています。つまり、湿疹がある赤ちゃんでは、ほんの数か月の遅れが食物アレルギーを発症させる結果につながる可能性があるのです。

Keet C, Togias A, Wood R, et al. Age and eczema severity, but not family history, are major risk factors for peanut allergy in infancy. J Allergy Clin Immunol. 2021;147(3):984-991.e5.

■ さらに、最近の解析では、湿疹がある乳児では生後4か月での導入が最も効果的で、導入時期が遅れるほど予防効果が急速に低下し、12か月での導入では効果が約33%まで減少すると推定されています。これは、湿疹の有無によって「機会の窓」の大きさや閉じる速度が大きく異なることを示しています(4ヶ月から始めようという話をしているわけではありません)。

Roberts G, Lack G, et al. Defining the window of opportunity and target populations to prevent peanut allergy. J Allergy Clin Immunol. 2023;151(5):1329-1336.

■ ここで重要なのは、研究の結果を分析する方法です。

ITT解析(Intention-To-Treat):「グループ分けされた通りに」分析する方法。実際に食べなかった人も「食べるグループ」として数える。

PP解析(Per-Protocol):「実際に指示通りにした人だけ」を分析する方法。

■ ITT解析は公平ですが、守らなかった人も含めるため効果が薄まって見えることがあります。PP解析は効果がはっきり見えますが、バイアス(偏り)が入る可能性があります。

■ そこでこの研究では、「因果推論」という新しい統計手法を使って、バイアスを取り除きながら本当の効果を調べました

■ また、以下のような疑問にも答えようとしました。

    • 湿疹がない健康な赤ちゃんにも効果があるのか?

    • 何歳から始めるのが一番効果的なのか?

    • どんな民族の子にも効果があるのか?

    • すでにピーナッツに反応する体質(感作)がある子にも効果があるのか?

■ これらの疑問に答えるため、2つの大きな研究のデータを統合して、約1900人分のデータを詳しく分析したのがこの論文です。

※湿疹重症度と関係なく、早期導入に効果があったという研究結果ですが、「湿疹を治療しなくても食べれば良いという意味ではありません。後半に、別の研究などを含めて解説しました。個人的には、特に湿疹がある場合に「早期に摂取する」という「機会の窓」が想像以上に狭く、短期間で閉じてしまうことを、複数の視点から確認するために読んだ論文です。

 

Logan K, Bahnson HT, Ylescupidez A, Beyer K, Bellach J, Campbell DE, et al. Early introduction of peanut reduces peanut allergy across risk groups in pooled and causal inference analyses. Allergy 2023; 78:1307-18.

生後4~11か月の乳児1,943人(高リスク児と一般集団を含む)を対象に、ピーナッツを早期に摂取するグループと避けるグループに分け、3~5歳時点でのピーナッツアレルギー発症率を比較し統合解析を実施した。

背景

■ Learning Early About Peanut allergy(LEAP)試験は、ピーナッツアレルギー(PA)の予防において、早い時期にピーナッツを食事に取り入れることが効果的であることが示された。
■ Enquiring About Tolerance(EAT)試験では、統計的に有意なPAの減少がper-protocol(PP)解析においてのみ認められたが、この解析方法は偏り(バイアス)の影響を受ける可能性がある。

目的

■ 本研究の目的は、LEAPとEAT試験の個々の参加者のデータを統合し、早期ピーナッツ導入の偏りを補正した因果効果(原因と結果の関係)に関する信頼性の高いエビデンスを提供することである。

方法

■ 欧州連合が資金提供するiFAAMプロジェクトの一環として、本統合解析では小児患者の個別データを統合し、異なるリスク群と解析手法の間で、経口耐性誘導(食べることで体を慣れさせる方法)の有効性と効力の推定値を比較した。

結果

■ 統合データのintention-to-treat(ITT)解析(無作為化された治療群に割り付けられたすべての参加者を含む解析)では、乳児期早期からピーナッツ摂取に割り付けられた小児において、PAが75%減少した(p < .0001)
■ 防御効果は、登録時のピーナッツ感作の有無にかかわらず、すべての湿疹(皮膚に起こる炎症性の病変)の重症度群および異なる民族群において認められた。
■ ピーナッツをより早い月齢で導入することは、介入の有効性向上と関連していた。
■ 統合プロトコル遵守解析では、ピーナッツ摂取によりPAのリスク(ピーナッツアレルギーになる可能性)が98%減少した(p < .0001)
■ 因果推論解析(因果関係を明らかにする統計手法)により、強力なプロトコル遵守効果が確認された(平均治療効果の相対リスク減少89%、p < .0001)。
■ 多変量因果推論解析(複数の要因を考慮した統計分析)では、湿疹のない小児において大幅な(100%)PA減少が推定された(p = .004)

結論

■ 統合された大規模な無作為化参加者集団において、早期ピーナッツ導入によるPAの顕著な減少を実証された。
■ この有意な減少は、湿疹のない小児を含むすべてのリスクサブグループ(危険因子による分類グループ)にわたって示された。
■ さらに、この結果は、より早い月齢で導入することで介入の効力が増大することを示している。

 

 

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