
重症アトピーは子どもの成長を妨げるのか?デュピルマブによるアトピーの改善と身長の関係
■ アトピー性皮膚炎は、肌が赤くなってかゆくなる慢性的な病気で、特に子どもたちの日常生活に大きな影響を与えます。 そして、デュピルマブは、この病気を治療するための新しくて効果的な薬です。この薬は、体の中で炎症を引き起こす特定の物質(IL-4受容体α)をブロックすることで働きます。生後6か月という非常に小さな赤ちゃんにも使え、多くの研究で症状の改善と生活の質の向上が確認されています(全員に適用できるという意味ではありません)。
■ アトピー性皮膚炎を持つ子どもたちの身長が伸びにくくなる可能性については、これまで多くの研究で調べられてきましたが、結果は必ずしも一致していませんでした。 例えば、1993年の古典的な研究では、体の50%以上に病変がある重症の子どもたちで明らかな低身長が見られたことが報告されています。
Massarano, A. A., et al. (1993). Growth in atopic eczema. Archives of Disease in Childhood, 68(5), 677-679.
■ 一方で、2022年にカナダで行われた約1万人の出生コホート研究では、アトピー性皮膚炎の子どもたちは幼少期にわずかに背が低い傾向があったものの、その差は年齢とともに小さくなり、思春期までにはほぼ解消されたという結果が示されました。
Nicholas, M. N., et al. (2022). Association Between Atopic Dermatitis and Height, Body Mass Index, and Weight in Children. JAMA Dermatology, 158(1), 26-32.
■ 2024年に発表された系統的レビューでは、14の研究(5万人以上のデータ)を総合的に分析した結果、アトピー性皮膚炎と身長の関係についてのエビデンスは一貫していないものの、重症度が高い場合、早期に発症した場合、睡眠障害がある場合、食事制限がある場合には、成長が遅れるリスクが高まる可能性が指摘されました。
Gerard, G., et al. (2024). The association between atopic dermatitis and linear growth in children — a systematic review. European Journal of Pediatrics, 183(12), 5113-5128.
■ 日本で行われた大規模な出生コホート研究(約6万組)でも、早期に発症して持続する湿疹を持つ子どもたちは、2〜3歳時点で身長・体重・BMIのZスコア(標準からのずれを示す値)が低下していることが確認されています。
Yamamoto-Hanada, K., et al. (2021). Persistent eczema leads to both impaired growth and food allergy: JECS birth cohort. PLOS ONE, 16(12), e0260447.
■ このように、アトピー性皮膚炎と成長の関係は、病気の重さ、続いている期間、睡眠の質、栄養状態など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているため、単純に「アトピー性皮膚炎があると背が伸びにくい」とは言い切れません。特に、軽症の場合や適切に管理されている場合には、成長への影響が限定的である可能性も示唆されていました。
■ デュピルマブについては、興味深い観察結果が報告されています。骨を強くするマーカー(骨アルカリホスファターゼ)が増えることや、1年間の観察で身長の伸びが良かったという報告に加えて、2025年に報告された症例報告では、重症アトピー性皮膚炎の男児がデュピルマブを48週間使用したところ、皮膚症状が劇的に改善しただけでなく、体重と身長が標準的な成長曲線に「追いつく」ような改善を示したことが報告されています。
Piccolo, V., et al. (2025). The Effect of Dupilumab on Growth Parameters in Pediatric Atopic Dermatitis Patients. Dermatology Practical & Conceptual, 15(3), 5420.
■ しかし、実際の医療現場で、多数の患者さんのデータを使って、アトピー性皮膚炎、成長、デュピルマブの関係を包括的に調べた大規模な研究はまだ十分ではありませんでした。
■ 子どもたちの成長は重要なテーマです。アトピー性皮膚炎やその治療薬が成長に影響する可能性を考えると、これは見逃せない問題でしょう。そこで研究者たちは、大規模なデータベースを使って、2つの重要な質問に答えようとしました。
■ 1つ目は、アトピー性皮膚炎を持つ子どもたちは本当に身長が低くなりやすいのか。2つ目は、デュピルマブという薬を使うと、従来の薬と比べて成長の問題が減るのか、ということです。
※この論文は、オープンアクセスではないため、noteの深堀り記事でも、FigureやTableは提示を控えています。
※この研究は、デュピルマブのみで身長への影響を少なくすることを意味するのではなく、アトピー性皮膚炎の重症度と治療に関係すると考えられます。noteの後半に、その考察をいたしました。
Chen TL, Ma SH, Ou WF, Chen CC, Wu CY. Decreased risk of reduced linear growth among children with atopic dermatitis receiving dupilumab: A cohort study. J Am Acad Dermatol. 2025 Aug 18:S0190-9622(25)02646-5. Epub ahead of print.
18歳未満の小児約74万5千人を対象に、アトピー性皮膚炎と低身長の関連、およびデュピルマブ治療と従来の免疫調節薬治療の比較、後ろ向きに実施した。
背景
■ これまでの研究では、アトピー性皮膚炎(湿疹の一種で慢性的なかゆみを伴う皮膚の病気)と子どもの身長の伸びとの関係について、はっきりしない結果が報告されている。
■ また、デュピルマブと身長との関係もまだよく分かっていない。
目的
■ この研究では、子どものアトピー性皮膚炎と低身長との関連を調べ、実際の診療現場でデュピルマブが子どもの成長にどのような影響を与えるかを評価することを目的とした。
方法
■ TriNetX US Collaborative Network(米国の大規模な医療データベース)を用いて、2018年1月から2023年12月までの18歳未満の小児を対象とした後ろ向きコホート研究を実施した。
■ AD患児を傾向スコアマッチングした非AD対照群と比較し、身長が標準より低くなるリスク(5パーセンタイル未満、25パーセンタイル未満、50パーセンタイル未満)を評価した。
■ AD患児の中で、target trial emulationフレームワークを適用し、デュピルマブを使い始めた子どもと従来の免疫を調整する薬を使った子どもとで、成長の違いを比較した。
■ 関連する交絡因子で調整したCox比例ハザードモデルを用い、5年間の追跡期間における低身長の相対リスク(RR)を推定した。
結果
■ この研究には745,046名の子どもが含まれた。
■ AD患児は、マッチングした対照群と比較して、身長低下のリスクが有意に増加していた(5パーセンタイル未満:RR 1.15(95% CI 1.12-1.18); 25パーセンタイル未満:RR 1.13(95% CI 1.08-1.21); 50パーセンタイル未満:RR 1.22(95% CI 1.20-1.25))。
■ このリスクの高さは、特に男の子と6歳以上の子どもで目立っていた。
■ 睡眠障害およびステロイドの使用が潜在的な効果修飾因子として浮上した。
■ さらに、AD患児の中で、DUPI治療は、5パーセンタイル未満(RR 0.69、95% CI 0.57-0.84、P<.001)、25パーセンタイル未満(RR 0.70、95% CI 0.54-0.91、P<.001)、および50パーセンタイル未満(RR 0.74、95% CI 0.58-0.95、P<.001)の身長パーセンタイルを下回るリスクの有意な低下と関連していた。
■ この効果は、男の子、6歳以上の子ども、およびBMI(肥満度を示す指標)が20以上の子どもで最も強く見られた。
限界
■ 使用したデータには、アトピー性皮膚炎の重症度に関する情報が含まれていなかった。
結論
■ アトピー性皮膚炎の子どもは身長の伸びが妨げられるリスクが高いが、デュピルマブによる治療はこのリスクを軽減する可能性がある。
■ これらの結果は、小児アトピー性皮膚炎の治療においてデュピルマブが成長を守る効果を持つ可能性を示しており、この病気を持つ子どもたちの成長を定期的に確認することの大切さを強調している。
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