
結節性痒疹とネモリズマブの有効性
■ 結節性痒疹(PN)は、とても強いかゆみを伴う皮膚病で、皮膚にゴツゴツした結節(こぶのようなもの)ができます。このかゆみはひどく、夜も眠れなくなったり、気分が落ち込んだりするなど、患者の生活に大きな影響を与えます。
■ この病気がなぜ起こるのか、まだ完全にはわかっていませんが、皮膚の神経が増えすぎたり、「インターロイキン-31(IL-31)」という物質が炎症を引き起こしたりすることが関係していると考えられています。IL-31は特に「かゆみを引き起こすサイトカイン(itch cytokine)」として知られており、神経を直接刺激してかゆみを生じさせることが研究で明らかになっています。
ネモリズマブの登場と効果発現速度
■ Nemolizumab(ネモリズマブ)は、このIL-31が働くのを邪魔する新しい薬です。これまでの研究で、結節性痒疹の患者に効果があることがわかり、アメリカ、ヨーロッパ、日本で使えるようになりました。注目すべきは、ネモリズマブがかゆみに対して極めて速く効果を示す点です。実際に、投与後わずか48時間以内にかゆみと睡眠障害の改善が観察され、治療開始から4週間時点ですでにかゆみスコアが約53%減少したという報告があります。
Ständer, S., et al. (2022). Nemolizumab efficacy in prurigo nodularis: onset of action on itch and sleep disturbances. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 36(12), e960-e962.
■ 大規模な研究(OLYMPIA 1と2という名前の研究)では、nemolizumabを使うと、偽薬(プラセボ)と比べて、かゆみが大きく減り、皮膚の状態も良くなることが示されました。しかも、この効果は治療を始めて16週間(約4ヶ月)という早い時期から現れ、24週間(約6ヶ月)まで続きました。OLYMPIA 1試験では、特に治療開始後の早期段階(4〜16週)で高い達成率が観察され、睡眠障害の改善も早期に認められました。
Ständer, S., Yosipovitch, G., Legat, F. J., et al. (2025). Efficacy and Safety of Nemolizumab in Patients With Moderate to Severe Prurigo Nodularis: The OLYMPIA 1 Randomized Clinical Phase 3 Trial. JAMA Dermatology, 161(2), 147-156.
もう一つの選択肢:デュピルマブ
■ 別の薬で、Dupilumab(デュピルマブ)もあります。これはIL-4とIL-13という別の物質をブロックする薬で、やはり結節性痒疹に効果があり、承認されています。個人的には、小児のアトピー性皮膚炎の全身治療薬としては、もっとも多く使っている生物学的製剤です。
■ 普通なら、nemolizumabとdupilumabのどちらが効くかを知るために、両方の薬を直接比べる研究をするのが一番良いのですが、そういう研究を行うのは難しい面があります。
モデルベースメタアナリシスという手法
■ そこで、最近、「モデルベースメタアナリシス(MBMA)」という方法を用いた研究が実施されました。これは、それぞれの薬とプラセボ(偽薬)を比べた複数の研究結果を統合して、数学的なモデルを作り、間接的に2つの薬の効果を比べる方法です。
■ 実際に、複数の研究を網羅的に比較したネットワークメタアナリシスでも、ネモリズマブが「かゆみ」の指標で上位にランクされる傾向が示されており、IL-31受容体を標的とする戦略の臨床的な有用性が支持されています(すべての指標で上位という意味ではありません)。
Wang, X. Y., Jia, Q. N., Wu, M. Y., et al. (2024). Comparing the Efficacy of Updated Treatment Choices for Prurigo Nodularis: A Network Meta-Analysis. Journal of Investigative Dermatology, 144(6), 1409-1412.e7.
■ この研究チームは以前、アトピー性皮膚炎という別の皮膚病の患者のデータを使って、nemolizumabが体内でどう動くかを予測する数学モデルを作っていました。今回は、そのモデルに新しいデータを加えて改良し、結節性痒疹の患者にも使えるかを確認したことになります。
■ さらに、かゆみの強さを測る「PP-NRS」というスケールを使って、nemolizumabがどれくらいかゆみを減らすかを予測する別のモデルも作りました。そして、MBMAという方法を使って、nemolizumabとdupilumabの効果を比較しました。比較したのは、「PP-NRSが4点以上良くなった患者の割合」と「IGA(医師が評価する皮膚の重症度)が2点以上良くなった患者の割合」です。
■ この研究の目標は、nemolizumabがどれくらい効くのか、dupilumabと比べてどうなのかを、できるだけ科学的に正確に調べることでした。
※この研究では、nemolizumab有利な結果ですが、他の試験では必ずしもそうでもなく、さまざまな視点から自分の中で評価を定めるために読んだ研究結果とご理解ください。詳細はnoteメンバーシップの後半で考察しました。
Takechi T, Shimizu J, Kabashima K, Ieiri I. Quantitative Evaluation of Nemolizumab Pharmacokinetics and Efficacy in Prurigo Nodularis: A Population Pharmacokinetics and Model-Based Meta-analysis Approach. Dermatology and Therapy 2025.
結節性痒疹患者305名(うちnemolizumab群229名、プラセボ群76名)を対象に、アトピー性皮膚炎患者で開発された薬物動態モデルを更新・適用し、24週間にわたってnemolizumabとdupilumabの有効性を間接比較した。
背景
■ Nemolizumabは、インターロイキン-31受容体Aを標的とするヒト化モノクローナル抗体である。
■ この薬剤は、痒疹結節(PN)患者の治療において有効性を示している。
■ 本研究では、PN患者におけるnemolizumabの薬物動態(PK)および薬力学(PD)の特徴を明らかにし、モデルベースメタアナリシス(複数の研究データを統合して比較する手法、MBMA)を用いて、別の承認治療薬であるdupilumabと有効性を比較した。
方法
■ アトピー性皮膚炎(AD)患者を対象に開発された既存の母集団PK(患者集団全体での薬の動きを予測するモデル、PopPK)モデルを、4つの臨床試験データを加えて更新した。
■ 更新されたモデルは、PN患者におけるnemolizumabの体内での動き(PK)を検証し、その妥当性と精度を確認した。
■ さらに、治療反応を特徴付けるために母集団PD(PopPD)モデルを開発し、このモデルを用いて、週平均ピークそう痒感数値評価尺度(PP-NRS)の経時的変化を評価した。
■ MBMAを実施するため、公開データベースの系統的文献検索を行い、PP-NRSの4ポイント以上の改善(かゆみの大幅な軽減)および医師による全般的評価(IGA)の2ポイント以上の減少を達成する成功率をモデル化する研究を特定した。
結果
■ 更新されたPopPKモデルは、PN患者におけるnemolizumabの血液中濃度の推移を適切に予測し、ADとPNの間で薬の動き(PK)の特性が類似していることを示唆した。
■ PopPDモデルは、PP-NRSに対するプラセボおよびnemolizumabの効果を良好に記述した。
■ 6つの個別のランダム化比較試験がMBMAの適格基準を満たした。
■ モデルによる予測の結果、PP-NRSおよびIGAの成功率(治療目標を達成した患者の割合)は、24週までnemolizumabがdupilumabと比較して一貫して高いことが示された。
結論
■ PopPKおよびPopPDモデルは、PN患者におけるnemolizumabの体内での動き(PK)と効果の現れ方(PD)を良好に予測した。
■ MBMAは、nemolizumabがPN患者の反応率改善においてdupilumabより優れていることを実証した。
■ 薬物動態学的モデリングと間接比較から得られたこれらの知見は、将来の臨床試験に情報を提供し、PNにおけるnemolizumabの継続的評価を支援する可能性がある。
論文内容を、さまざまな媒体で配信しています。お好きな方法で御覧ください。
※論文の背景や内容の深掘り、全体のまとめ、図解、個人的な感想などは、noteメンバーシップにまとめています。
※論文の内容を、音声ラジオVoicyで放送しています(無料回・有料回の両方ありますが、無料回が多くなる予定です)。
※Voicyの内容を文字起こししたnoteマガジンも提供しています(noteメンバーシップの特典です。)。
ニュースレターでは、さまざまな医療の疑問を扱っています。
※登録無料のニュースレター(メールマガジン)は、2025年以降の実績で月8本程度、さまざまな記事をわかりやすく深掘り配信しています。定期的に無料記事も公開していますのでご興味がございましたらリンクからご登録ください。

基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。

所属するいかなる団体の立場も代表するものではありませんし、すべての方に向いているという情報でもありません。予めご了承いただきたく存じます。

しかし、文章やアイデアを盗用・剽窃・不適切な引用したり、許可なくメディア(動画を含む)に寄稿することはご遠慮ください。
クローズドな場での勉強会などに使用していただくことは構いません。








