超低用量から始める経口免疫療法の安全性と効果とは?

従来の経口免疫療法の課題と新しいアプローチの可能性

 日本では1歳の子どもの約5.4%が卵アレルギーを持っています。確かに多くの場合、子どもが成長するにつれて卵アレルギーは自然に治りますが、最初に重い症状が出た子どもや血液検査の数値(IgE抗体)が高い子どもでは、アレルギーが長く続く傾向があります

■ 「経口免疫療法」は、少しずつ卵の量を増やしていき、最終的にはアレルギー症状が出る量よりも多い量を食べられるようにする治療法です。しかし、この治療中にアレルギー反応が起きることがよくあり、これが大きな問題となっています。実際、大規模な研究によると、経口免疫療法を受けた患者の約22%がアナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)を経験するのに対し、治療を避けていた群では約7%にとどまっていました。

Chu, D. K., et al (2019). Oral immunotherapy for peanut allergy (PACE): a systematic review and meta-analysis of efficacy and safety. Lancet, 393(10187), 2222-2232.

■ さらに興味深いことに、実際の臨床現場では医学的な副作用だけでなく、社会的要因(家族の負担、服薬の手間、生活上の事情)が治療継続の最大の障壁となっていることが明らかになっています。

Plessis, A. A., et al (2024). Real-world experience: a retrospective pediatric chart review to determine why patients and caregivers discontinue oral immunotherapy. Allergy, Asthma & Clinical Immunology, 20, 54.

■ そのため、アメリカやヨーロッパ、日本の医学ガイドラインでも、この治療法は専門医のもとでのみ、しかも他の治療法では良くならない重症の場合にのみ行うべきだとされています。

■ そこで、もっと安全な方法がないかが求められており、従来よりもずっと少ない量から始めて、アレルギー反応が起きにくい範囲で治療を続ける方法が考えられました。実際に、日本の研究者らによって「わずか3mLの牛乳を目標とした微量導入療法」や「ゆっくり少量で行うSLOIT(Slow Low-Dose Oral Immunotherapy)」といった革新的な低用量アプローチが開発され、従来の常識「高用量が必要」に挑戦する結果を示してきました

Yanagida, N., et al (2015). A Single-Center, Case-Control Study of Low-Dose-Induction Oral Immunotherapy with Cow's Milk (3 mL). International Archives of Allergy and Immunology, 168(2), 131-137.

Sugiura, S., et al (2020). Slow Low-Dose Oral Immunotherapy (SLOIT): Threshold and Immunological Change for Egg, Milk and Wheat. Allergology International.

■ 今回共有する研究論文は、この「超」低用量から始める方法が、本当に従来の方法よりも安全で効果的なのかを確かめるために行われました

Ishikawa F, Miyaji Y, Yamamoto-Hanada K, Shimada M, Kiguchi T, Hirai S, et al. Safer oral immunotherapy with very low-dose introduction for pediatric hen's egg allergy. J Allergy Clin Immunol Glob 2025; 4:100542.

1歳から18歳の鶏卵アレルギー小児20名を対象に、極低用量開始療法(ET群)と固定量維持療法(ST群)にランダムに割り付け、48週間の経口免疫療法を実施した。

背景

■ 鶏卵アレルギー小児における経口免疫療法(OIT)の実施において、有害事象が障壁となる可能性があり、より安全なOIT法の必要性が強調されている。

目的

■ 単一施設、第II相、二重盲検、並行群間、ランダム化比較試験において、新しいOIT法の安全性と有効性を検討すること。

方法

■ 経口食物負荷試験(OFC)において累積耐用量(CTD)が0.1g以上10g未満の範囲にある1歳から18歳の鶏卵アレルギー小児を、極低用量開始療法(ET)群または固定量維持療法(ST)群にランダムに割り付けた。

■ 主要評価項目は安全性であり、IgE介在性即時型反応が初回発生するまでのOIT実施日数で測定した。
■ OITの有効性は累積耐用量(CTD)の変化として評価することとした。

結果

■ 登録時の参加者20名のうち、ET群に12名(60%)、ST群に8名(40%)が割り付けられた。

■ 治療用食品の安全な供給が困難になり、研究が早期終了したものの、IgE介在性即時型反応の初回発生までの日数はET群でST群より有意に長かった(P = 0.033、log-rank検定)。

 ET群では有害事象発生率も低く、これらの結果は治療の継続しやすさの改善につながる可能性がある。

■ CTDの変化については2群間で比較できなかった。

結論

 極低用量開始によるOITは、鶏卵アレルギー小児にとってより安全で治療負担の低いアプローチである可能性がある。

 

 

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