「フルミスト」を接種した子どもから、他の子どもにインフルエンザはうつる?うつらない?保育園での調査が明らかにした伝播リスク

なぜ保育園で鼻スプレー型ワクチンの研究を行ったのか?

■ インフルエンザワクチンには注射するタイプと鼻にスプレーするタイプがあります。この研究で使われたのは、鼻にスプレーするタイプの「生インフルエンザワクチン(LAIV)」です。「生」というのは、生きているけれど弱められたウイルスを使っているという意味です。

■ このワクチンに使われているウイルスには特別な特徴があります。低い温度(25℃)でよく増えるが、体温に近い高い温度(37~39℃)では増えにくい性質を持ち、弱められているのでインフルエンザを発症しなようになっています。
■ このワクチンを受けた子どもから、ワクチンを受けていない他の子どもへウイルスがうつる(伝播する)かどうかは、外来でもよく尋ねられます。
「排出」はあることがわかっています。米国の大規模な追跡調査では、ウイルスの排出は年齢によって異なり(8歳で44%、18~49歳で17%)、いずれも排出期間は短く、周囲への感染リスクは非常に低いことが示されていました。

Block, S. L., et al. (2008). Shedding and immunogenicity of live attenuated influenza vaccine virus in subjects 5-49 years of age. Vaccine, 26(38), 4940-4946.

■ しかし、まだインフルエンザにかかったことのない幼い子どもは、体から多くのウイルスを出す(排出する)ことが知られています。

Mallory, R. M., et al. (2011). Shedding of Ann Arbor strain live attenuated influenza vaccine virus in children 6-59 months of age. Vaccine, 29(26), 4322-4327.

■ また、保育園では子ども同士が密接に接触するため、病気がうつりやすい環境です。そもそも、通常の野生型インフルエンザ(普通のインフルエンザ)では、家庭内での二次感染率が概ね10~30%程度と報告されており、子どもが感染源となった場合はさらに高くなることが知られています。
Tsang, T. K., et al. (2016). Household Transmission of Influenza Virus. Trends in Microbiology, 24(2), 123-133.

■ そこで研究者たちは、「もしワクチン株が伝播するとしたら、幼い子どもたちが集まる保育園で起こるだろう」と考え、あえてその環境で研究を行いました。これは「最悪の場合でもうつらないか」を確認するための研究デザインなわけです。
■ ワクチン株と野生型インフルエンザの伝播性を同じ年齢層の子どもたちで比較することで、LAIVの安全性をより客観的に評価できると期待されたのです。

Vesikari T, Karvonen A, Korhonen T, Edelman K, Vainionpää R, Salmi A, et al. A randomized, double-blind study of the safety, transmissibility and phenotypic and genotypic stability of cold-adapted influenza virus vaccine. Pediatr Infect Dis J 2006; 25:590-5.

フィンランドの保育園に通う生後9から36ヶ月の健康な小児197名を対象に、鼻スプレー型生インフルエンザワクチン(LAIV)または偽薬(プラセボ)を投与し、ワクチン接種後21日間にわたってウイルスの排出、安全性、他の子どもへの伝播確率を評価した。

背景

■ 生インフルエンザ弱毒化ワクチン(LAIV; FluMist)は、低温に適応させたインフルエンザワクチンウイルスを含む3価ワクチンであり、鼻やのどの粘膜の細胞に感染・増殖して免疫(病気への抵抗力)を作り出す。
■ ウイルスの排出(体外への放出)は、鼻から採取した検体を培養することで測定される。
■ ワクチンウイルスの排出は、必ずしも他の人への伝播(うつること)を意味しない。なぜなら、他の人にうつるには、鼻の綿棒で検出される量よりも多くのウイルスが必要だからである。
■ LAIVに関するこれまでの研究では、近くにいる人への伝播は見つかっていなかった。
本研究の主な目的は、(もっとも感染リスクが高いと考えられる)保育園という環境で、ワクチンを受けていない子どもにうつる確率を推定することであった。

方法

■ 保育園に通う生後9〜36ヶ月(約1〜3歳)の健康な小児197名を、ワクチンを投与するグループまたは偽薬(プラセボ)を投与するグループに無作為に分けた。
■ ワクチン接種後のウイルス排出、安全性、排出されたウイルスの遺伝子の型と性質、および他の子どもへの伝播確率を評価した。

結果

■ ワクチン接種者98名のうち80%が、少なくとも1つのワクチン株を排出した。

■ ワクチンに起因する臨床的に有意な募集副作用の差は認められず、両群の安全性プロファイルは同等だった。

排出されたワクチンウイルスは、その特性(低温での増殖能力と高温での増殖制限)を保っており、弱毒化表現型を付与することが知られているヌクレオチドにおいて復帰変異は認められなかった。

ワクチン株が他の子ども(偽薬を受けた1名)にうつったことが1例確認された。
統計モデル(Reed-Frostモデル)によると、ワクチンを接種した1人の子どもと接触した後に、別の子どもにうつる確率は0.58%(95%信頼区間、0〜1.7%)と計算された。
■ ワクチンがうつった子どもにおいて、副反応の増加やその他の安全上の問題は認められなかった。

結論

保育園にいる幼い子どもは、ウイルスを体外に多く排出したが、他の子どもへの伝播率は低かった。
■ ワクチンまたはプラセボを投与された小児、およびワクチンウイルスが伝播した小児において、臨床上問題となる病気は発生しなかった。

 

 

論文内容を、さまざまな媒体で配信しています。お好きな方法で御覧ください。

※論文の背景や内容の深掘り、全体のまとめ、図解、個人的な感想などは、noteメンバーシップにまとめています。

ニュースレターやVoicyでは、さまざまな医療の疑問を扱っています。

※登録無料のニュースレター(メールマガジン)は、さまざまな記事をわかりやすく深掘り配信しています。定期的に無料記事も公開していますのでご興味がございましたらリンクからご登録ください。

さなまざまな話題を扱う、音声ラジオVoicyで放送しています(無料回・有料回の両方ありますが、2025年11月現在、無料回が多めです)。

 

このブログは、私の普段の勉強の備忘録やメモを記録しているものですので、細かい誤字脱字はご容赦ください。
基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。

知識の共有を目的に公開しておりますが、追加して述べる管理人の意見はあくまでも個人としての私見です。
所属するいかなる団体の立場も代表するものではありませんし、すべての方に向いているという情報でもありません。予めご了承いただきたく存じます。

このブログの『リンク』は構いません。
しかし、文章やアイデアを盗用・剽窃・不適切な引用したり、許可なくメディア(動画を含む)に寄稿することはご遠慮ください。
クローズドな場での勉強会などに使用していただくことは構いません。
Instagram:2ヶ月で10000フォロワーを超えました!!!

Xでフォローしよう