
2000年代の「離乳食開始を遅らせる」から2015年以降の「離乳食を早める」まで
■ 2000年頃、医師たちは「卵やピーナッツはアレルギーが怖いから、赤ちゃんが大きくなるまで食べさせないで」と指導していました。実際、2000年に米国小児科学会(AAP)は、アレルギーになりやすい家族歴のある赤ちゃんに対して、「牛乳は1歳まで、卵は2歳まで、ピーナッツ・ナッツ・魚は3歳まで導入を遅らせる」ことを公式に推奨していました。
American Academy of Pediatrics Committee on Nutrition. (2000). Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics, 106(2), 346-349.
■ この「遅らせることで予防できる」という考え方は、1990年代から2000年代初頭にかけて、世界中の医師の指導の基本となっていました。
Lavery, W. J., & Assa'ad, A. (2018). How to prevent food allergy during infancy: what has changed since 2013? Current Opinion in Allergy and Clinical Immunology, 18(3), 232-239.
■ しかし、そのアドバイスを守っていた国々で、逆に食物アレルギーの子どもが増えてしまったのです。この予期せぬ結果を受けて、「本当に遅らせることが正しいのか?」と疑問が広がりはじめました。2008年には、同じ米国小児科学会が「離乳食を4〜6か月より遅らせても、アレルギー疾患を防ぐ証拠はほとんどない」と発表し、従来の方針を後退させました。
Greer, F. R., Sicherer, S. H., & Burks, A. W. (2008). Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children. Pediatrics, 121(1), 183-191.
■ 2015年、イギリスで行われた画期的な研究(LEAP試験)が、「早期かつ継続的な摂取が、本当にアレルギー発症を予防できる」ことを初めて明確に証明しました。この研究では、アレルギーになりやすい赤ちゃんたちにピーナッツを早くから食べさせたグループと避けたグループを比べたところ、5歳時のピーナッツアレルギーの発症率が70〜80%も減少したのです。
Du Toit, G., et al. (2015). Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy. New England Journal of Medicine, 372(9), 803-813.
■ この結果を受けて、2019年に米国小児科学会は「ピーナッツ、卵、魚などのアレルゲン食品の導入を4〜6か月より遅らせても予防効果はない」「むしろピーナッツの早期導入には予防効果がある」と正式に推奨を変更しました。
Greer, F. R., Sicherer, S. H., & Burks, A. W. (2019). The Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children. Pediatrics, 143(4), e20190281.
■ こうして、「早めに食べさせましょう」という新しいガイドラインが各国で作られました。しかし、ガイドラインを作るだけで本当に社会全体でアレルギーが減るのでしょうか?
■ 今回ご紹介する研究では、「昔のルールだった頃の赤ちゃんたち」と「新しいルールで育てられた赤ちゃんたち」を比べて、本当にアレルギーが減ったのかを確かめています。結果はどうだったでしょうか?
Walker SVM, D'Vaz N, Pretorius RA, Lo J, Christophersen C, Prescott SL, et al. Infant Diet Recommendations Reduce IgE-Mediated Egg, Peanut, and Cow's Milk Allergies. J Allergy Clin Immunol Pract 2025.
オーストラリアの家族にアレルギー歴がある赤ちゃん1,072名(2006〜2022年生まれ)を対象に、新しい食物アレルギー予防ガイドラインに基づく直接指導を受けたグループ(566名)と受けなかったグループ(506名)で、生後6ヶ月時点での指導介入と1歳時点でのアレルギー発症率を比較した。
背景
■ ランダム化比較試験のメタ解析において、乳児期の早期に卵やピーナッツを導入することで、卵およびピーナッツアレルギーのリスクが低下することが判明している。
■ そのため、以前は「アレルギーの原因になりやすい食品は避けるべき」とされていた食事指導が、現在では「一般的な食品は積極的に食事に取り入れるべき」という内容へ劇的に変化している。
目的
■ 授乳およびアレルギー予防ガイドラインが変わる前と変わった後の2つのグループを比べ、1歳時点での食物アレルギー(食べた直後に症状が出る即時型アレルギー)を持つ子供の割合を比較すること。
方法
■ 第1グループ(2006~2014年生まれの赤ちゃん506名)には、食事に関する特別なアドバイスを行わなかった。
■ 第2グループ(2016~2022年生まれの赤ちゃん566名)には、生後6ヶ月の時点で、すべての家族に最新の食事およびアレルギー予防ガイドラインを提供した。
■ 参加したすべての赤ちゃんは、両親やきょうだいなどの近い親族にアレルギーの病歴があった。
■ 1歳時点で、乳児の食物アレルゲン感作およびIgE依存性食物アレルギーの評価を行った。
結果
■ 第2グループは第1グループに比べて、ピーナッツ、卵、牛乳をより早い時期から食べ始めていた(すべてにおいて P<.001)。
■ IgE依存性の ピーナッツ、卵、牛乳のいずれかに対するアレルギーを持つ子供の複合有病率は、第1グループの12.6%に対し、第2グループでは4.1%であった(調整オッズ比 [aOR]: 0.28, 95%信頼区間 [CI]: 0.16-0.48, P<.001)。
■ 具体的には、ピーナッツアレルギーの有病率は5.8%から1.1%へ(aOR: 0.24, P=.015)、卵アレルギーは11.7%から2.8%へ(aOR: 0.23, P<.001)、牛乳アレルギーは2.4%から0.5%(aOR: 0.14, P=.005)だった。
結論
■家族に対して最新のアレルギー予防ガイドラインを直接伝えることで、アレルギーの原因となりやすい食品を早くから食べさせることが促され、その結果、IgE依存性のピーナッツ、卵、牛乳アレルギーの有病率が減少した。
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