PACI-ONの結果が公開されました

■ 乳児期のアトピー性皮膚炎に対して「早く・しっかり・proactiveに」ステロイド外用を行うと、3歳時の食物アレルギーが約11ポイント減る。PACI-ONという日本の多施設RCTの3年追跡データが公開されました。

■ 590人(追跡率91%)を追跡した結果、食物アレルギー有病率は強化群47.4%対通常群58.8%(p=0.006)でした。
■ 差は 控えめ(大きくはない)ですし、喘息や鼻炎には差がつきませんでした。

■ でも「皮膚を早く整えることで、食物アレルギーの一部を減らせる可能性がある」というエビデンスが、日本人集団のRCTで示された意義は大きいです。
■ ただし、これを聞いて「じゃあ予防のためにステロイドを塗ろう」と短絡するのは危険です。まずはアトピー性皮膚炎の適切な管理を目的とし、その結果として食物アレルギーリスクが下がる可能性がある、という理解がいいのかなと思います。

 

【論文タイトル】
Three-Year Follow-Up of the PACI Randomized Controlled Trial (PACI-ON): Effects of Early Intervention for Atopic Dermatitis on Atopic March
(PACI-ON:乳児期アトピー性皮膚炎への早期介入がアトピーマーチに及ぼす効果――RCTの3年追跡)

一言:「早く・しっかり塗る」だけで、3歳時の食物アレルギーが約11ポイント減った日本発RCT

【主要著者名】 Kiwako Yamamoto-Hanada ほか
【掲載誌名】 Allergy
【発表年】 2026年(2026年2月21日 Epub)
【DOI】 10.1111/all.70262
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.70262

【忙しい人のための3行まとめ】

【背景/課題】 乳児期ADへの早期強化ステロイド外用(proactive治療)が28週時点で食物アレルギーを減少させたPACI試験の、3歳時追跡結果が報告された。
【結果/数値】 590人(追跡率91%)の3歳時、食物アレルギー有病率は強化群47.4% vs 通常群58.8%(p=0.006)。生卵アレルギーは30.4% vs 40.5%(p=0.013)。喘鳴・喘息・鼻炎には有意差なし。スギ花粉感作は2歳時に強化群で低値(6.1% vs 12.2%、p=0.026)だが3歳で差は消失。成長抑制(1歳時)は3歳で回復
【臨床的意義】 乳児ADを早期からproactiveに治療することで、食物アレルギー(特に生卵)の発症を 控えめながら抑制できる可能性がある。ただし差は大きくなく、通常診療に戻った後の持続効果か、早期の耐性獲得促進かは議論が残る。呼吸器アレルギーへの効果は示されなかった。
Action Plan:乳児ADには「待つ」のではなく「早期から十分に塗る」方針を支持するが、これだけでアトピーマーチ全体を止められるわけではない点に注意。

【概要】

PACI試験は、生後7〜13週のAD乳児650人を早期強化(proactive)群と通常反応的(reactive)群に1:1で割り付けた多施設RCTです。

結果を判定する医師には割り付けを知らせない「評価者盲検」方式が採用されています。28週時点で強化群の鶏卵アレルギーが31.4% vs 41.9%(p=0.0028)と有意に低下したことが既に報告されていました。

今回のPACI-ON追跡では、28週以降は介入を終了し通常診療に戻した状態で、590人(91%)を3歳まで前向きに追跡しました。
主要評価項目である3歳時の食物アレルギー有病率は、強化群47.4% vs 通常群58.8%(p=0.006)と強化群で有意に低値でした。この差は主に生卵アレルギーの減少(30.4% vs 40.5%、p=0.013)によるもので、著者らは生卵に対する耐性(食べられるようになる力)が早めに獲得されたことが寄与していると考察しています。
一方、喘鳴、喘息、アレルギー性鼻炎には群間差が認められませんでした。スギ花粉感作は2歳時に強化群で低値(6.1% vs 12.2%、p=0.026)でしたが、3歳で差は消失しました。AD自体のコントロールとQOL(生活の質)は両群とも良好で、90%以上が軽症以下を維持しました。28週時に認められた成長抑制(体重差−422g)は3歳時点で回復しており、安全性の懸念は長期的には解消されています。

この研究の限界として、追跡期間中は通常診療であり、観察された差が乳児期介入の「持ち越し効果」なのか、両群の標準的管理が向上した結果なのかの区別が困難な点があります。また呼吸器系アトピーマーチへの効果は示されておらず、食物アレルギー以外の経路には別の戦略が必要です。

【管理人の考察】

PACI-ONの最大の意義は、「乳児期に数か月間proactiveにしっかり塗った効果が、介入終了後2年以上経っても食物アレルギーの差として残る」というデータを、日本人集団のRCTで示した点です。皮膚バリアを早期に整えることで、皮膚を通じたアレルゲン感作(経皮感作)を減らし、結果として食物アレルギーの一部を予防しうるという仮説を支持する重要なエビデンスと言えます。
ただし、いくつかの注意点があります。第一に、差は控えめ(約11ポイント)であり、NNTに換算すると「約9人を治療して1人の食物アレルギーを防げる」程度の食物アレルギーを防ぐ程度です。
第二に、論文2(メタ解析)が示すように食物アレルギーの予測因子は多因子であり、皮膚治療だけですべてを防げるわけではありません。第三に、呼吸器アレルギーへの効果は認められておらず、アトピーマーチの「後半」(喘息・鼻炎)には別の介入が必要です。
臨床的には、乳児期ADに対する「早期・十分・proactive」な外用療法を推奨する根拠がさらに強まったと言えます。ただし、これを「アレルギー予防のためにステロイドを塗りましょう」と安易に伝えるのは過度な一般化です。まずはADの適切な管理自体を目的とし、その結果として食物アレルギーリスクが 控えめに下がる可能性がある、という伝え方が正確です。

 

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今回は「アトピーマーチ」を軸に6本を厳選しました。
論文1のRCT追跡(PACI-ON)を中核に、約280万人のメタ解析(論文2)が示すリスク因子の全体像、ピーナッツ感作と喘息の関連(論文3)、鼻炎の3表現型(論文4)、湿疹発症時期と多抗原型FA(論文5)、日本24万人のレセプトデータ(論文6)まで、アトピーマーチを多角的に読み解いています。
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