新生児の保湿剤塗布によるアトピー性皮膚炎予防の効果:気候による影響の可能性
■ リスクの高い乳児から保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎を予防できる可能性が指摘されています。
■ この予防法は、英国、米国、日本の研究によって支持されていますが、英国の大規模試験BEEP試験やスウェーデンで行われたPreventADALL試験では、1年間毎日保湿剤を使用してもアトピー性皮膚炎の発症予防ができなかったとが示されました。むしろ、感染症のリスクが増加する可能性すら指摘されています。
■ この矛盾する結果に対して、現在、さまざまな考え方が提示されています。保湿剤になにを使用するか、回数をどうするか、またはアドヒアランスをどう考えるかなど様々なテーマなど、検討する課題があります。
■ そしてさらに、『気候』も考慮するべき因子として提案されています。
■ では、熱帯地域でこのテーマの検討を行うとどのような結果になるでしょうか?タイで行われたランダム化比較試験があります。
Techasatian L, Kiatchoosakun P. Effects of an emollient application on newborn skin from birth for prevention of atopic dermatitis: a randomized controlled study in Thai neonates. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 2022; 36:76-83.
妊娠週数37週以上のアトピー性皮膚炎ハイリスクに満期産児154人を、保湿剤とスキンケアアドバイスを受ける保湿剤塗布群とスキンケアアドバイスのみを受ける対照群にランダム化し、出生後3週以内に塗布開始、6ヶ月まで継続した。
背景
■ 乳児期に乳児に毎日エモリエント剤を使用することで、アトピー性皮膚炎(AD)を予防できる可能性がある。
■ しかし、熱帯気候の国でこのトピックに関する研究は行われていない。
■ 気候は、AD予防のための乳児のエモリエント剤の使用についての研究結果に影響を与える可能性がある。
目的
■ 熱帯気候の国で、乳児期にエモリエント剤を使用することでハイリスクの乳児においてADを予防できるという仮説を検証し、この集団における他の有害な皮膚発疹を評価することを目的とする。
方法
■ 本試験は、3次病院における6ヵ月間のランダム化比較試験だった。
■ 適格な乳児は、エモリエント剤とスキンケアアドバイス(エモリエント剤群)またはスキンケアアドバイスのみ(対照群)を受けるようにランダム化された。
■ 介入は出生後3週以内に開始された。
結果
■ エモリエント剤群は、6ヶ月時点でのADの累積発生率が有意に低下した(相対リスク 0.39; 95% CI 0.24–0.64; P < 0.001)。
■ エモリエント剤群は、ADの発症が遅く、ADの重症度が対照群よりも低くなった(P < 0.001)。
■ エモリエント剤の塗布に対するアドヒアランスが低いことは、AD患者の数が少ないことと関連した(P = 0.008)。
■ 稗粒腫のようなエモリエントに関連する可能性のある皮膚発疹、膿痂疹のような皮膚感染症は、エモリエント群でより頻度が高かった。
■ 妊娠中および出生後の受動喫煙暴露は、ADの発症と有意な差が認められた(P < 0.001)。
結論
■ この研究は、熱帯気候において、リスクのある乳児の皮膚にエモリエント剤を "毎日 "ではなく、"必要に応じて"(環境要因や皮膚の乾燥程度に応じて)塗布することで、AD予防に効果があることを示唆している。
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