
子育て環境の変化とアレルギー研究。きょうだいの数と出生順によるアレルギー疾患の発症しやすさはかわったか?
■ 岡山大学の研究者たちは約20年前に、兄弟姉妹の有無がアレルギーにどう影響するかを調査されました。しかし、その後の20年間で日本の社会は大きく変わりました。
■ 例えば、保育園に通う子どもが増えたり、アレルギーの子ども自体が増えたり減ったりしました。そこで研究者たちは「20年前の結果が今でも当てはまるのか?」という疑問を持ちました。
■ 「兄弟姉妹がいるとアレルギーになりにくい」という考え方は1989年に英国の研究者ストラカン博士が初めて提唱した「衛生仮説」から始まりました。この仮説は、兄姉が多いほど花粉症が少ないという観察から生まれ、現在でもアレルギー研究の重要な理論となっています。
Strachan, D. P. (1989). Hay fever, hygiene, and household size. BMJ, 299(6710), 1259–1260.
■ しかし近年の研究では、この「きょうだい効果」が時代とともに変化している可能性が指摘されています。
■ スウェーデンで行われた10年間の比較研究では、1996年には保護的だった「きょうだいが多い」という要因が、2006年には保護効果を失っていたと報告されています。また、200万人を超える大規模なメタ解析でも、2000年以降に発表された研究ほど、きょうだいによる保護効果が弱くなっている傾向が示されています。
Rönmark, E., et al. (2009). Major increase in allergic sensitization in schoolchildren from 1996 to 2006 in Northern Sweden. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 124(2), 357–363.
Lisik, D., et al. (2023). Is sibship composition a risk factor for childhood asthma? Systematic review and meta-analysis. World Journal of Pediatrics, 19(12), 1127–1138.
■ そこで岡山大学のグループは、2010年に生まれた子どもたちを新たに調査して、20年前の結果と比較することにしたのです。これにより、時代が変わってもアレルギーと兄弟姉妹の関係は同じなのかを確かめることができるかもしれないと考えたわけです。
Kobayashi M, Ikeda M, Matsumoto N, Tsuge M, Yashiro M, Yorifuji T, et al. Impact of Birth Order on Paediatric Allergic Diseases: A National Birth Cohort in Japan. Clin Exp Allergy 2025; 55:508-10.
2010年5月に日本で出生した38,554世帯の子どもを対象に、生後6か月から9歳まで追跡し、出生順位と小児アレルギー疾患(気管支喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎)の関連を調査した。
背景
■ 兄弟姉妹の存在がアレルギー疾患に対して保護的に働く可能性は報告されているが、その効果はなお十分に解明されていない。
■ 我々(この研究グループ)は2001年出生コホートで出生順位と小児の気管支喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎との関連を評価してきた。
■ その後、日本の小児アレルギーの有病状況は変化し、全体としては増加した一方で、気管支喘息とアトピー性皮膚炎は減少傾向に転じ、保育施設への通園率も上昇している。
■ 本研究では2010年出生コホートを用いて、これらの知見が時間が経過しても維持されているかを検証した。
方法
■ 厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」を用いた全国コホート研究であり、2010年5月10日~5月24日に日本で出生した全児を対象とした。
■ ベースライン質問票は43,767世帯に送付し、38,554世帯から回答を得た(回答率88%)。
■ 追跡質問票は以後毎年送付され、アウトカムは生後6か月~9歳の各期間における、上記アレルギー疾患での外来受診の有無と定義した。
■ ログ二項線形回帰を実施し、第1子を参照として調整相対リスク(aRR)を推定し、交絡因子を調整した。
■ 1歳半時点の保育園等への通園の有無で層別解析を行い、出生順位×早期通園の交互作用も評価した。
■ 調整因子の詳細や有意水準は図1の脚注に示されている(例:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
結果
■ 出生順位が高いほど、乳幼児期の喘息リスク増加がみられた一方、学童期では低下した。
■ 第3子以降は第1子に比べ、生後6~18か月でaRR 2.65(95%CI 2.23–3.13)、7~8歳で学童期の喘息リスク低下(aRR 0.73[0.60–0.90])を示した。
■ 食物アレルギーは出生順位が高いほど一貫して低下し、生後6~18か月では第2子でaRR 0.76(0.69–0.84)、第3子以降で0.58(0.49–0.68)であった。
■ 一方、アトピー性皮膚炎は兄や姉の存在で乳幼児期にリスク増加がみられ、生後30~42か月の第3子以降で**aRR 1.39(1.19–1.63)であった。
■ これらの結果は性別で層別しても同様であった。
■ 保育園通園による修飾が認められ、非通園児では全体コホートと同様の傾向であったが、通園児では乳児期の喘息リスクが第1子で特に高くなり、出生順位による差が縮小した。
■ 通園児では乳児期の食物アレルギーおよび観察期間を通じたアトピー性皮膚炎のリスクが上昇し、出生順位による明瞭な関連はみられなかった。
結論
■ 人口学的背景の変化と9年の時間差があるにもかかわらず、2010年コホートの結果は先行コホートと概ね一致した。
■ 学童期の喘息における出生順位の保護的効果は衛生仮説と整合する一方、早期通園との交互作用は曝露のタイミング/強度の関与を示唆した。
■ 食物アレルギーでは早期からの保護効果がみられたが通園児では消失し、出生前起源仮説を支持する所見であった(ただし、早期離乳開始などの仲介因子は未評価)。
■ 本研究には、5月出生児に限定、追跡脱落約40%、保護者申告に基づく測定、日本国内での一般化可能性、親のアレルギー歴やペット飼育などの残余交絡の可能性といった限界がある。
■ 総じて、出生順位と小児アレルギー疾患の関連は疾患と年齢で異なることが示され、機序解明と予防策検討のための追加研究が必要である。
論文内容を、さまざまなカタチで理解しやすいように配信しています。お好きなカタチで御覧ください。
※論文の内容を、音声ラジオVoicyで放送しています(当面は無料回が多くなる予定です。無料で情報がほしい方はこちらでどうぞ)。
※Voicyの内容を文字起こししたnoteマガジンを提供しています(noteメンバーシップの特典で、有料になっています。無料希望の方はVoicyをどうぞ御覧ください)。
※論文の背景や内容の深掘り、全体のまとめ、図解、個人的な感想などは、noteメンバーシップにまとめています。個人的な私見を多く盛り込んでいる内容ですので、有料とさせていただいております。
以下は論文内容と関係なく、日頃おこるさまざまな疑問を扱っています。
※登録無料のニュースレター(メールマガジン)は、定期的に無料記事も公開しています。さまざまなテーマを深堀り解説していきますので、ご興味がございましたらリンクからご登録ください。

基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。

所属するいかなる団体の立場も代表するものではありませんし、すべての方に向いているという情報でもありません。予めご了承いただきたく存じます。

しかし、文章やアイデアを盗用・剽窃・不適切な引用したり、許可なくメディア(動画を含む)に寄稿することはご遠慮ください。
クローズドな場での勉強会などに使用していただくことは構いません。









