
FPIES~新生児乳児食物蛋白胃腸症の現在
FPIESという病気をご存知でしょうか。食物蛋白誘発胃腸炎症候群 ── 食物を食べてから1~4時間後に激しい嘔吐を繰り返し、重症ではショックに至ることもある、IgEが関与しないタイプの食物アレルギーです。
2017年に初めて国際的な診断基準が策定され、「主要基準1つ+副基準3項目以上」という枠組みが示されました。しかし、その基準を「完全に満たす」患者と「部分的にしか満たさない」患者との間に、本当に本質的な違いがあるのでしょうか?
日本の複数施設で登録された225例の急性FPIESを解析したHayashi 2024は、この問いに重要な手がかりを示しています。140例(62.2%)が国際基準を完全に満たし、79例(35.1%)が部分的に満たしました。完全充足群では顔色不良やぐったり、下痢の頻度が高かったものの、発症年齢、原因食物、合併症は両群でほぼ同じでした。これは、部分充足群が「別の病気」ではなく、FPIESの軽症側に位置している可能性を示唆しています。
繰り返し同じパターンの嘔吐がみられるのに副基準が3項目に届かない患者さんに対して、「FPIESではない」と安易に片付けず、経過観察やOFC(経口負荷試験)で丁寧に評価する姿勢が、早期診断と適切な管理への近道かもしれません。
【論文タイトル】
Differences in Characteristics Between Patients Who Met or Partly Met the Diagnostic Criteria for Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome (FPIES)
(FPIES診断基準を「完全に満たす」患者と「部分的に満たす」患者の特徴の違い:「基準を満たさなくてもFPIESかもしれない ── 日本発225例の大規模解析」)
【主要著者名】 Hayashi D ほか
【掲載誌名】 J Allergy Clin Immunol: In Practice
【発表年、巻(号):ページ】 2024, 12(7):1831-1839.e1
【DOI】 10.1016/j.jaip.2024.03.016IF: 6.6 Q1 国際基準を完全に満たすFPIES患者と、一部しか満たさないけれども繰り返し同じ症状が出る患者との間に、本当に違いがあるのかは分かっていませんでした。 日本の複数施設で2020年3月~2022年2月に登録された225例を解析しました。140例(62.2%)が国際基準を完全に満たし、79例(35.1%)が部分的に満たしていました。完全に満たした群では顔色不良・ぐったり・下痢の頻度が高かった一方、発症した年齢、原因となった食物、合併症、出産前後の情報は両群でほぼ同じでした。鶏卵FPIESに絞った解析では、部分的に満たした群のほうが卵白・卵黄に対するIgE値が高い傾向がみられました。 基準を部分的にしか満たさない患者のなかにもFPIESが含まれている可能性があります。「基準を満たさない=FPIESではない」と即断せず、症状に再現性があるならOFC(経口負荷試験:原因と疑われる食物を医師の管理下で少量ずつ食べてもらい反応をみる検査)や経過観察で診断を詰めていく姿勢が大切です。
【概要】
本研究は、日本の複数施設で前向きに登録されたデータを用いた横断研究(ある一時点での比較研究)です。食物を食べてから1~4時間以内に嘔吐が起きた、あるいは5~10時間以内に下痢が起きた小児が、2020年3月~2022年2月に登録されました。解析対象となったのは225例の急性FPIESです。
そのうち140例(62.2%)が2017年の国際基準を完全に満たし(以下「完全充足群」)、79例(35.1%)は部分的にしか満たさなかったものの、繰り返し同じパターンの症状がみられました(以下「部分充足群」)。残り6例は慢性FPIESの疑いがあったため除外されています。
完全充足群では、顔色不良(蒼白)、ぐったりして反応が鈍い状態(嗜眠)、下痢の頻度が明らかに高いという結果でした。一方、発症した年齢、原因食物、合併症、出産前後の情報は両群でほぼ同じでした。つまり、「発症のきっかけや時期は似ているのに、症状の強さだけが違う」ということになります。この結果は、部分充足群がまったく別の病気ではなく、FPIESという同じ疾患の軽症側に位置している可能性を示唆しています。
鶏卵FPIESに絞った解析では、部分充足群のほうが卵白や卵黄に対するIgE値が高い傾向がみられました。これは、IgE(通常のアレルギーに関わる抗体)が絡む非典型的なFPIES(atypical FPIES)との関連を考えるうえで興味深い所見です。著者らは、基準を部分的にしか満たさない患者にもFPIESが含まれる可能性があり、現行基準だけで統計や地域差を論じると実態を見誤るおそれがあると結論づけています。
【管理人の考察】
本研究は、FPIESの国際診断基準が実際の臨床現場でどこまで機能するかを検証した、日本発の貴重な大規模データです。225例という数は日本からの報告としては最大級であり、基準を部分的にしか満たさない79例(全体の約3分の1)の存在は、現行基準の「網の目」の粗さを浮き彫りにするものです。
とくに注目したいのは、両群で発症年齢や原因食物がほぼ同じだった点です。もし部分充足群がFPIESとは無関係な別の病気であれば、原因食物や発症時期にも違いが出るのが自然ですが、実際にはそうなりませんでした。このことは、「基準を完全に満たすか否か」は病気の有無ではなく、重さの違い(スペクトラム上の位置の違い)を反映しているにすぎない可能性を示しています。
外来でのAction Planとしては、繰り返し同じパターンの嘔吐がみられるにもかかわらず副基準が3項目に届かない患者さんに対して、「FPIESではない」と早合点せず、経過観察やOFC(経口負荷試験)で慎重に見極めていくことが大切です。なお、本研究は一時点での比較(横断デザイン)ですので、部分充足群のその後の経過や最終的な診断は、今後の追跡研究による検証が待たれます。

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今回のFPIES特集では、上記の論文1に加えて、日本で鶏卵FPIESが急増している報告(Akashi 2022)、FPIESを4つのタイプに分けて考えるべきとする最新の概念提案(Akashi 2024)、初の国際ガイドライン(2017年)、そして日本独自の4群分類を含む国内ガイドライン(2019年)を取り上げています。「外来でこの嘔吐、FPIESかもしれない」と考えるための判断材料が、ひと通り揃う構成です。
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