畳の部屋は、子どもの喘息を悪化させる?

日本の住環境と小児喘息。畳って喘息に悪影響?ならば、その程度はどれくらい?

■ 喘息は世界中で多くの子どもたちが苦しんでいる病気で、ここ40年間で患者数が増え続けています。WHOの予測では、2000年頃に3億人だった患者が、2025年には4億人になると言われています。2019年だけでも、世界中で45万人以上が喘息で亡くなっています。

WHO Asthma Fact Sheet 2024.

Wang Z et al. Global, regional, and national burden of asthma 1990–2019. Respir Res. 2023.

■ 喘息を引き起こす環境要因として、タバコの煙、ペット、カビなどが知られています。1日の多くの時間を家の中で過ごすので、室内環境が重要です。

Mitchell EA et al. Tobacco and risk of asthma/rhinoconjunctivitis/eczema: ISAAC Phase 3. Thorax 2012.

■ その中でも「床材料」に注目が集まっています。海外の研究では、カーペットが木の床と比べて喘息のリスクを高めることが報告されています。しかし、興味深いことに、床材の種類によって健康への影響は大きく異なることが分かってきました。例えば、スウェーデンでの10年間にわたる追跡調査では、PVC(ビニール)製の床材が幼児期から喘息の新規発症リスクを高めることが明らかになっています。

■ 上海での大規模研究でも、無垢の木の床は子どもの喘息に対して防御的に働く可能性がある一方、ラミネート(合板)フローリングは新しい住宅ではむしろリスクを高めるという、意外な結果が報告されています。これらの違いは、床材に含まれる化学物質や、その表面にたまるほこり・カビ・ダニの量が異なるためだと考えられています。

Shu, H., Bornehag, C.G., et al (2014). PVC flooring at home and development of asthma among young children in Sweden: a 10-year follow-up study. Indoor Air, 24(3), 236-247.

Ren, J., Bao, Y., et al (2022). Prevalence and Risk Factors of Asthma in Preschool Children in Shanghai, China: A Cross-Sectional Study. Front Pediatr, 9, Article 793452.

■ さらに、床材だけでなく、室内の湿気やカビの存在も重要な要因として注目されています。フランスで最近行われた大規模研究では、家庭内に湿気やカビがある子どもは、カビに対するアレルギーの有無に関わらず、喘息のコントロールが悪く、救急受診も多いことが示されました。つまり、「カビアレルギーのある子だけが問題」なのではなく、単に家が湿ってカビていると、多くの喘息の子どもに悪影響が出る可能性があるのです。

Sauvere, M., Deschildre, A., et al (2025). Home exposure to moisture and mold is associated with poorer asthma control in children: CHAMPIASTHMA study. J Allergy Clin Immunol Glob, 4(2), 100415.

■ しかし、日本の住環境は他の国と大きく異なります。日本では靴を脱いで家に上がる習慣があり、多くの家に「畳」という伝統的な床材があります。新しく建てられる家の約70%に、少なくとも1部屋は畳の部屋があるそうです。また、畳の上にカーペットを敷く家もあります。

■ つまり、日本の家には主に4種類の床があります。
すなわち、フローリング、フローリングの上のカーペット、畳、畳の上のカーペットです。過去のいくつかの研究で、畳と喘息に関係がありそうだという報告がありました。例えば、畳のホコリからはカーペットよりも多くのカビが見つかったり、畳のある家で育った子どもに喘鳴が多かったりしたそうです。

■ 喘息の子どもは確かに喘鳴がありますが、喘息ではなくても風邪などでそういう音がすることもあるので、正確ではありません。そこでこの研究では、日本全国で10万人以上を追跡調査している大規模なプロジェクト(JECS)のデータを使って、床材料と「喘息の発症」の関係を初めてきちんと調べることにしたわけです。

※畳による悪化へのリスク上昇は、有意とはいえ「1.1倍」と少ないものです。「畳が危ない」というといいすぎと思いますので、このような研究があったという共有とお考え下さい。

Iwata H, Ikeda A, Itoh M, Itoh S, Ketema RM, Tamura N, et al. The association between flooring materials and childhood asthma: A prospective birth cohort in the Japan Environment and Children's Study. PLoS One 2024; 19:e0305957.

日本全国の75,629名の乳児を対象に、妊娠中期から後期に家庭で使用されている床材の種類を調査し、4歳時点での喘息発症との関連を評価した。

背景

■ 小児喘息は、室内環境の状態を含む様々な要因によって影響を受けることが知られている。
■ 床の材料は室内の空気の状態に影響するが、床材と小児喘息との関係については、日本ではまだ十分に分かっていない。

目的

■ 本研究は、日本環境と子どもの全国調査(JECS)の進行中の全国規模出生コホートデータを用いて、小児喘息の発症と主要な床材との関連性を評価することを目的とする。

方法

■ JECSは、日本全国の15の地域センターを通じて、母親と子どもに関するデータを収集した。

■ この研究では、2011年から2014年に出生した小児を対象に、家庭で使用されている床材と4歳時の喘息発症を評価した。

■ 統計的な分析方法(ロジスティック回帰分析)を用いて、子どもの喘息の発症を結果とし、家の床のタイプを調べる要因として設定した。
■ さらに追加の分析として、畳の古さの目安として家の築年数で分類し、畳の床材による喘息リスクへの影響が畳の古さによって変わるかどうかを調べた。

結果

■ 本研究には合計75,629名の乳児が含まれた。
■ 畳床材について、主要な多変量回帰分析および築10年以上の住宅を対象としたサブグループ回帰分析では、硬い床材(フローリングなど)と比較してオッズ比がそれぞれ1.09(95%信頼区間[1.01–1.17])および1.10(95%信頼区間[1.00–1.21])を示した。

結論

■ これらの結果から、畳の床材にさらされること、特に古い家では、小児喘息の発症と関係がある可能性が示された。
■ さらに、この研究は、喘息と床材との関係を調べる際に、地域や文化による違いを考慮することの重要性を示している。

 

 

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