
なぜ保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防が注目されているのか
■ アトピー性皮膚炎は小児の有症率が高く、大きな問題になっています。湿疹がある子どもは、かゆみで眠れなくなったり、食物アレルギーや喘息にもなりやすくなる可能性が高まることがわかっています。
■ 皮膚のバリア機能が弱いとアトピー性皮膚炎を発症しやすいこともわかっており、「皮膚バリアを事前に補強すればアトピー性皮膚炎を予防できるのではないか」と考えられてきました。
■ これまでも保湿剤で湿疹を予防しようとする研究はありましたが、結果は驚くほど複雑で一貫していませんでした。例えば、我々の研究では生後1週間から低刺激性の保湿成分を含む乳液(資生堂デューエ)を使うことで湿疹のリスクが3割低下させたと報告しています。
Horimukai, K., et al (2014). Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol, 134(4), 824-830.e6.
■ 一方で、家族に湿疹の人がいる「高リスク」の赤ちゃん1,394人を対象にした大規模なBEEP研究では、毎日保湿剤を塗っても湿疹の予防効果は全くなく、むしろ皮膚感染症のリスクが増えるという意外な結果が出ました。
Chalmers, J. R., et al (2020). Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP RCT. The Lancet, 395(10228), 962-972.
■ さらに、北欧で行われた数千人を対象とした大規模研究でも、保湿剤の予防効果は確認できませんでした。
Skjerven, H. O., et al (2020). Skin emollient & early complementary feeding to prevent infant AD (PreventADALL). The Lancet, 395(10228), 951-961.
■ これらの矛盾する結果により、「保湿剤は本当に湿疹を予防するのか?」という疑問が専門家の間でも高まっていました。その問題の一つが、これまでの多くの研究が湿疹になりやすい家族がいる「高リスク」の赤ちゃんだけを対象にしていたことで、普通の赤ちゃんたちへの効果はまだ明らかとは言えませんでした。
■ そこで、特別なリスクがない普通の赤ちゃんたちに保湿剤を使うことで、本当に湿疹を予防できるのかを大規模に調査されました。CASCADE試験と呼ばれるこの大規模試験は、これまでの混乱した研究結果に明確な答えを出すことが期待されていましたが、結果はどうだったのでしょうか?
Simpson EL, Michaels LC, Ramsey K, Fagnan LJ, Nease DE, Henningfield M, et al. Emollients to Prevent Pediatric Eczema: A Randomized Clinical Trial. JAMA Dermatol 2025.
米国の25の医療機関で1,247組の生後0-8週間の新生児とその保護者を対象に、毎日の全身保湿剤使用群と対照群(保湿剤を控える群)に分け、24か月間追跡してアトピー性皮膚炎の発症率を比較した大規模ランダム化比較試験を実施した。
背景
■ アトピー性皮膚炎(AD)は小児にとって世界的な健康負担となっており、食物アレルギーや喘息発症のリスク因子である。
■ リスクで選択されていない乳児における一次AD予防のための保湿剤介入を評価した研究はほとんどない。
目的
■ リスクで選択されていない乳児における保湿剤介入が24ヶ月齢までのAD発症率を減少させるかどうかを判定すること。
研究デザイン、設定、参加者
■ 4つの州全体の診療ベース研究ネットワークのメンバーである25のコミュニティベースの小児科および家庭医学クリニックから募集された1247組の乳児-保護者ペアを対象としたランダム化、分散型実用的臨床試験が実施された。
■ 参加者は2018年7月から2021年2月まで募集され、2023年2月までフォローアップが完了した。
介入
■ ペアは2つのグループのうち1つにランダム化された:9週齢までに開始する毎日の全身保湿剤塗布群または保湿剤使用を控える対照群。
主要アウトカムと測定
■ 主要アウトカムは24ヶ月齢までに患者の医療記録に記録された医師診断ADであった。
■ 参加者は四半期ごとの電子調査を完了して有害事象を報告し、AD診断が下された場合にはチームに警告した。
■ 訓練された研究コーディネーターが参加者の医療記録を抽出した。
結果
■ 1247人の乳児のうち、553人(44.3%)が女性で、ランダム化時の平均(SD)日齢は23.9(16.3)日であった。
■ 24ヶ月時点で、ADの累積発症率は毎日保湿剤群で36.1%(標準誤差(
SE)2.1)、対照群で43.0%(SE 2.1)であり、相対リスク(RR)は0.84(95% CI 0.73-0.97;P = .02)であった。
■ 効果の大きさはADの高リスクでない集団においてより大きく(RR、0.75;95% CI、0.60-0.90;P = .01)、保護効果は家庭での犬の存在によって有意に修飾された(RR、0.68;95% CI、0.50-0.90;P = .01)。
■ 皮膚有害事象に群間差は認められなかった。
結論と関連性
■ このランダム化臨床試験では、リスクで選択されていない米国の代表的な集団において、9週齢前に開始した毎日の保湿剤塗布が24ヶ月齢でのADの累積発症率を減少させることが明らかになった。
■ この小児スキンケアアプローチの実装は、米国のコミュニティにおけるADの負担を軽減する実現可能な方法である可能性がある。
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