Arellano FM, et al. Risk of lymphoma following exposure to calcineurin inhibitors and topical steroids in patients with atopic dermatitis. J Invest Dermatol 2007; 127:808-16.
免疫抑制剤の全身的使用は、悪性リンパ腫の発生を増やします。
■ 免疫抑制剤(この場合タクロリムス)が、悪性リンパ腫の発症を増やすリスクになるのは確かです。
■ しかし、タクロリムス外用(プロトピック外用)はリンパ腫発症リスクはあげないという報告ばかりで、カルシニューリン阻害剤(=プロトピックとピメクロリムス)(21研究5825人)外用を使用している試験27件に対するシステマティックレビューでも、リンパ腫リスクはあげないと結論されています。
小児に対するステロイド外用とプロトピック外用の長期安全性は?
■ もちろん、プロトピック外用を長期間使いなさいと言っているわけではなく、減量を考慮しながら使っていく必要性がありますが、いたずらに恐れる理由もまたないでしょう。
■ 今回は、外来でよく使われる、やや古い報告を御紹介いたします。
大規模データベースのひとつであるPharMetricsデータベースに登録された293,253人においてリンパ腫症例を特定し、免疫抑制剤外用とリンパ腫の発生リスクの関連を検討した。
背景
■ 免疫抑制剤の全身的な使用は、移植時のリンパ腫のリスクを高める。
方法
■ アトピー性皮膚炎患者群における免疫抑制剤外用とリンパ腫との関連性を評価するため、PharMetricsデータベースに組み込まれた症例対照研究を行った。
■ まずリンパ腫の症例を特定し、各ケースについて、追跡期間の期間を一致させたランダムに4つの対照を選択した。
■ 免疫抑制外用剤とリンパ腫との関連に対するオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を計算するために、条件付きロジスティック回帰を使用した。
結果
■ 293,253人の患者において244例のリンパ腫が生じ、20歳未満に81人のリンパ腫が発生した。
■ 調整された解析は以下の通り。
■ アトピー性皮膚炎の重症度(OR 2.4; 95%CI 1.5-3.8)、経口ステロイド OR 1.5(1.0-2.4)、「とても強力な」ステロイド外用 OR 1.2(0.8-1.8)、低力価のステロイド外用薬 1.1(0.7-1.6)、ピメクロリムス外用 0.8(0.4-1.6)、タクロリムス外用 OR 0.8(0.4-1.7)、ステロイド外用・ピメクロリムス外用・タクロリムス外用の併用 1.0(0.3-1.4.1)。
論文から引用。外用薬に関して、リンパ腫発症リスクはあげていない。
結論
■ カルシニューリン阻害剤外用薬で治療した患者において、リンパ腫のリスクは増加していなかった。
■ アウトカムvs薬物の真の効果に対し、疾患の重症度の影響を分離することは困難である。
■ しかし、調整された解析では、ADの重症度がリンパ腫のリスク増加に関連する主要な要因であった。
結局、何がわかった?
✅293,253人に対する検討で、このうち免疫抑制薬外用薬(カルシニューリン阻害剤外用薬)で治療した患者において、リンパ腫のリスクは増加していなかった。
✅プロトピック外用に関してはリンパ腫発生リスクは OR 0.8(0.4~1.7)だった。
✅アトピー性皮膚炎の重症度はリンパ腫のリスクを増加させた(OR 2.4; 95%CI 1.5~3.8)。
今のところ、プロトピック外用がリンパ腫発生リスクを増加させるというエビデンスはない。アトピー性皮膚炎そのものはリンパ腫を増やすかもしれない。
■ 以前、プロトピックの安全性におけるシステマティックレビュー(Siegfried EC, et al. BMC pediatrics 2016; 16:75.)をご紹介し、まとめの表を翻訳してご紹介いたしました。
■ 現在、10年間の安全性試験が進行中で、もう数年で終わる予定の様で、現在のところリンパ腫は増加していないそうです。
■ この報告でむしろ重要なのは、「アトピー性皮膚炎の重症度」がリンパ腫のリスクをあげたということだろうと思われます。
■ もちろん、長期間ステロイド外用やプロトピック外用を使いなさいといいたいわけではなく、薬剤を過剰に怖がる必要はないということです。むしろ、アトピー性皮膚炎の重症度が高いままで経過する方がむしろ心配を増やしてしまうかもしれないという結果とよむことができるでしょう。
今日のまとめ!
✅プロトピック外用薬はリンパ腫発生リスクを増やさず、アトピー性皮膚炎の重症度はリンパ腫の発症率を増やした。