小児に対するステロイド外用薬やプロトピック外用薬は、長期間使用しても安全か?

ステロイド外用薬やプロトピック外用薬は長期使用しても安全か?

■ ステロイド外用薬や、タクロリムス(商品名;プロトピック)外用薬に関し、長期の安全性を心配される患者さんは多いです。

■ もちろん、ステロイド外用薬も薬である以上副作用がないわけではありませんから当然です。そのため、ステロイド外用薬やプロトピック外用薬に対する、長期使用の安全性を把握することはとても重要です。

 

 

Siegfried EC, et al. Systematic review of published trials: long-term safety of topical corticosteroids and topical calcineurin inhibitors in pediatric patients with atopic dermatitis. BMC pediatrics 2016; 16:75.

アトピー性皮膚炎の12歳未満の患者に対し、長期間のステロイド外用(6研究1999人)もしくはカルシニューリン阻害剤(=プロトピックとピメクロリムス)(21研究5825人)外用を使用している試験27件においてシステマティックレビューを行い、その安全性を検討した。

背景

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis ;AD)治療において、多くの臨床医は、安全性、特に長期間の毎日の維持療法を必要とする小児に対する安全性を懸念している。

ステロイド外用(topical corticosteroids ;TCS)は、50年以上にわたり広く使用されてきた。

■ 長期間のTCS単独治療は、皮膚萎縮、リバウンドによる紅皮症、有害な全身性副作用の可能性がある潜在的な経皮吸収の増加といった有害な皮膚副作用に関連する。

■ 10〜20年間で利用可能になったカルシニューリン阻害剤外用(Topical calcineurin inhibitors ; TCI)、すなわち、タクロリムスやピメクロリムスは、長期使用後の皮膚萎縮や経皮吸収の増加とは関連せず、全身性副作用の可能性がはるかに低い。

■ しかし、2006年以降、TCIによる標準的な維持療法に対し、悪性腫瘍(例えば、皮膚およびリンパ腫)が理論上リスクがあるということに基づき、制限付きの警告を行っている。

 

方法

ADに罹患している12歳未満の患者に対する長期間(12週間以上)のステロイド外用(TCS)もしくはカルシニューリン阻害剤外用(TCI)における臨床試験に対して、PubMedにおけるシステマティックレビューを行った

■ 引用文献は、MeSH用語に基づき、抄録、関連記事のテキストをレビューした。

■ 参加者の年齢が12歳未満、研究期間が12週未満、レトロスペクティブ研究、メタアナリシス、症例報告に限定された研究は除外された。

 

結果

基準を満たした27件のうち、カルシニューリン阻害剤外用(TCI)で治療された21研究5825人の小児患者が、ステロイド外用(TCS)による6研究1999人が含まれていた

論文から引用。長期試験の患者数と報告論文数。

 

■ TCSによる検討は低~中ランクの製品に限定されており、1研究を除くとすべての試験では基剤による対照が欠如していた。

■ TCIによる8研究には基剤による対照があり、安全性データがより報告され、副作用(discontinuation due to adverse effects ;DAE)による脱落は5%以下だった。

皮膚および全身性有害事象(AE)は、TCIおよび基剤群において同様であり、リンパ腫の報告はなかった

 

論文から引用。アトピー性皮膚炎の小児患者(<12歳)における長期(>12週)使用の安全性に関するサマリーステートメント。翻訳は管理人(一部意訳)。

 

■ TCSによる検討における安全性データの報告は不十分だった。

■ DAE発生率は2研究で焦点とされていたが、全身および皮膚AEはほとんど認めなかった。

 

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結論

カルシニューリン阻害剤外用(TCI)の長期使用を支持するデータは強力であり、安全性および有効性が報告されている一方で、ステロイド外用(TCS)の長期使用を支持するデータは、低~中ランクの製品に限られた

■ このレビューは、小児ADにおいて一般的に処方される中〜高ランクのTCSの長期単剤療法の安全性に関する情報が不足していることを明らかにし、紅斑に対するTCIや低~中ランクのTCSの間欠的な使用による標準的な維持療法を支持する。

 

付録; ステロイド外用薬の皮膚の副作用

(管理人注; 以下は抄録ではなく、本文にある記載です)

カルシニューリン阻害剤外用(TCI)による治療患者における皮膚感染の発生率は一般的に低く(下表)、基剤治療患者と同様だった。

ステロイドの副作用のまとめ

 

■ 1年未満の試験を除き、皮膚感染を報告したのは5%以下だった(24週間の対照のないオープンラベルのタクロリムスに対する試験では、13%の患者が膿痂疹を報告した)。

ほとんどの長期試験(1年以上)では、皮膚感染は10%未満しか起こらなかった。

■ 2年間のタクロリムスによる試験では18%に、1年間の試験では、ピメクロリムスおよび基剤患者では20%および16%の報告があった。

■ 別の1年間の臨床試験では、膿痂疹は基剤患者の27%に報告され、ピメクロリムス患者ではわずか8%のみの報告だった。

■ 5年間の小児における試験では、皮膚感染は、ピメクロリムスおよびTCS群で同様だった。すなわち、膿痂疹はピメクロリムス群の12%、低/中程度TCS患者の10%で報告され、水痘はそれぞれ25および23 %で報告された。

TCIにおける試験で皮膚萎縮の報告はなかった

■ 小児に対する試験の他に、TCS患者における皮膚感染の発生率は、2試験、16週間および28週間の試験で報告され、これらの研究での皮膚感染の発生率は2%以下であった。

■ TCSに対する3研究は、皮膚萎縮の徴候を評価するために様々​​な方法を使用した。

18週間の試験では、超音波スキャナーで皮膚厚を測定し、低/中ランクのTCSを使用している患者の8%および12%が皮膚の厚さが25%以上減少していた。

低ランクのTCSを25週間使用した試験は、8倍の拡大鏡を用いて皮膚萎縮の徴候を見出し得なかった

低/中ランクのTCSにおける16週間の2研究に対するメタアナリシスでは、研究者らは視覚的に皮膚を評価し、皮膚萎縮の兆候を認めなかった

 

 

結局、何がわかった?

 ✅小児アトピー性皮膚炎に対して、中〜高ランクのステロイド外用薬による長期単剤治療の安全性に関する情報は不足している。

 ✅カルシニューリン阻害剤外用(≒本邦ではプロトピック外用のみ)の使用や低~中ランクのステロイド外用薬による間欠的な使用による、標準的な維持療法は支持される。

 

 

ステロイド外用薬は低~中ランクを間欠塗布が支持され、プロトピック外用薬は安全性が高いとまとめられているが、、

■ ここで強調したいのは、私はアトピー性皮膚炎に対し、ステロイドやプロトピック外用を「毎日長期」連用することを支持していないということです。スキンケアの丁寧な継続により、「必ず、減らす・止める目標にする」ということを何度もお話しています。「ステロイド外用薬には、副作用はある」と考えているからです。

■ ただし、「全身的」な副作用ではなく、皮膚の副作用を考える必要があります。そのため、ここではステロイド外用の皮膚の副作用に関し、別個に翻訳して提示させていただいています。

■ 私は、「毎日複数回のスキンケアが出来ない場合」はいわゆるプロアクティブ治療を導入していません。私の患者さんは、「スキンケア、スキンケア、うるさいやつだなあ」と考えておられるに違いない、と思っています。スキンケアの丁寧さが、皮膚炎の再燃を抑え、最終的にステロイド外用薬を減らし中止していくための最大の武器になると考えているからです。

■ なお、プロアクティブ治療とは、ステロイド外用の間隔を徐々に延長して皮下の炎症をおさえ、保湿剤中心にランディングする治療です。

■ 一方で、プロアクティブ治療に入った場合は、間欠的に塗るところまで、毎回、塗る量・塗る回数も含め、紙に書いてお渡しします。また、間欠的な塗布で安定するまで、どんなに外来が混んでいても受診していただき、何度も治療の調整を行います。

■ 医療者に対する信頼を損ない、新たなステロイド忌避を作らないためには、適当にはどうしてもできないからです。

小児アトピー性皮膚炎は、低年齢に発症すればするほど、重症であればあるほど、長期になればなるほど、他のアレルギーを高率に発症し、治りにくくなります。ただ経過をみていれば、全員改善するわけではありません。長期化や重症化を防ぐ必要があります。

■ そして、成人までひっぱると、まず寛解を望むのがむずかしくなります。

■ 一方で、早期発症しても、感作がなければ、他のアレルギー疾患の発症リスクになりにくくなることもわかってきています。

■ そのため、アトピー性皮膚炎のお子さんの先を見据えて、ご家族のご協力をいただきながら、治療に介入することになります。私の患者さん方がもし、この拙いブログを見ておられたら、いつも待ち時間が長くて本当に申し訳なく思っております。また、スキンケアにうるさいことも煩わしく思われていることでしょう。しかし、譲れない一線ですので、この場を借りてお詫び申し上げると共に、よほど革新的でより安全な治療があらわれないかぎり、今後もこの点だけは変わらないこともまた、申し上げたいと思います。

 

今日のまとめ!

 ✅ステロイド外用薬のみの長期連日使用は勧められないが、低~中ランクのステロイド外用薬の間欠塗布は支持される。

 ✅プロトピック外用は連用でも安全性は高いと考えられる。

 

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