アトピー性皮膚炎に入浴剤は有効かを検討した大規模ランダム化比較試験をご紹介します。2018年時点では、この論文がもっともエビデンスとして有用です。
■ アトピー性皮膚炎に対する保湿剤は基本治療と言えます。
■ しかし、毎日の塗布は決して簡単ではありません。もし、入浴剤でその補助ができれば助かるのですが、入浴剤によるアトピー性皮膚炎治療の大規模ランダム化介入試験は、私の知る限りありませんでした。
■ 一方で、そのテーマでの研究計画のプロトコールは2015年に発表されていたので、結果を待ち続けていた訳です。
■ なかなか発表されないなあと思っていた矢先、たまたまネットに結果がUPされているのを見つけました。PDFで全文が閲覧できるのですが、PubMedやGoogle scholarではプロトコールにしかたどり着けず、結果が探せないのが少々不可解ですが、これからしかるべきjournalに発表されるのでしょう。
■ 結果は、多少残念ではありますが、日常臨床に有用でもありましょう。逆に、「この入浴剤が良い」と勧めているサイトは、すこし眉唾で読んだほうがよいかもしれません。
Santer M, et al. Emollient bath additives for the treatment of childhood eczema (BATHE): multi-centre pragmatic parallel group randomised controlled trial of clinical and cost-effectiveness. BMJ (Clinical research ed) 2018.
生後12ヵ月~12才未満のアトピー性皮膚炎児482人に関し、入浴剤使用群、使用なし群にランダム化し、12ヶ月間観察した。
目標
■ 小児のアトピー性皮膚炎治療における、保湿入浴剤の臨床的/費用対効果を決定する。
試験デザイン
■ 実用的な平行二群間ランダム化オープンラベル比較試験。
セッティングとリクルート
■ ウェールズ・イングランド西部・イングランド南部における、一般的な医療を行っている96施設で、個人的な私信や通常の臨床機会により研究に招待された。
参加者
■ 英国に居住している生後12ヵ月~12才未満の小児。
アトピー性皮膚炎の診断基準
■ 1週間に1回未満しか入浴していない児、ランダム化が受け入れられない保護者がいる児、非活動性または非常に軽症の湿疹(Nottingham Eczema Severity Scale 5以下)の児は除外された。
■ 483人がランダム化され、1人が脱落、482人が試験に参加した(女児51%、白人84%、平均年齢5歳)。
介入
■ 介入群は、保湿入浴剤を処方されて12ヶ月間定期的に使用するように指示された。
■ 対照群は、12ヶ月間入浴剤を使用しないように指示された。
■ 両群とも標準的なアトピー性皮膚炎管理を続け、洗浄方法に関して標準的なアドバイスを受けた。
プライマリアウトカム
■ Patient Oriented Eczema Measure(POEM、範囲0〜28)により評価した16週間の湿疹コントロール(管理人注;POEMはアトピー性皮膚炎の重症度スコア)。
セカンダリアウトカム
■ 1年にわたる湿疹重症度(試験開始から52週間までのPOEM [4週間毎]);プライマリケア医に受診する湿疹増悪の回数; 疾患特異的QOL(皮膚炎の家族への影響);一般的なQOL(Child Health Utility-9D);リソース使用。
■ 処方されたステロイド外用あるいはカルシニューリン阻害剤外用の種類および量。
ランダム化
■ オンラインソフトウェアを使用して483人をランダム化(1:1)し、センターで層別化した。
結果
■ 参加者の95.6%(482人中461人が、少なくとも1回の治療開始時・治療後のPOEMを完了し、分析に含められた。
論文から引用。プロトコール遵守率と入浴頻度。
■ そして、76.8%(482人中370人)が、プライマリアウトカムの時点の80% のアンケートを記入していた。
■ 試験開始時のPOEMの平均は、入浴剤使用群で9.5(s.d. 5.7)であり、入浴剤なし群で10.1(s.d. 5.8)だった。
■ 16週後のPOEMの平均は、入浴剤使用群は7.5(s.d. 6.0)であり、入浴剤なし群では8.4(6.0)だった。
■ 16週間にわたる週ごとのPOEMは、群間で統計学的に有意差はなかった。
論文より引用。入浴剤使用群と使用なし群で、POEM(アトピー性皮膚炎重症度)に有意差なし。
■ 試験開始時の重症度および交絡因子(民族、ステロイド外用使用、石けんに類するもの使用)で調整した後、入浴剤なし群のPOEMスコアは、入浴剤使用群よりも0.41(95%CI -0.27-1.10)高かったが、事前に公開したPOEMの臨床的に重要な差である最小値3ポイントよりも低かった。
■ セカンダリアウトカム、経済的アウトカム、副作用に関して、2群間に有意差はなかった。
結論
■ この試験では、小児のアトピー性皮膚炎の標準的な管理において、保湿入浴剤を使用することによる臨床的利益にエビデンスを見出させなかった。
■ 湿疹のある小児に対する、皮膚保湿剤や石けんに類する洗浄剤を使用するための最適な方法には、さらなる研究が必要である。
結局、何がわかった?
✅軽症を除く小児アトピー性皮膚炎482人に対し、入浴剤使用群と使用なし群にランダム化して12ヶ月間観察したが、アトピー性皮膚炎重症度(POEM)に有意差を認めなかった。
保湿入浴剤は、アトピー性皮膚炎の治療には不十分なようです。少なくとも「〇〇が良い」というようなことは現状では言えません。
■ 入浴習慣の異なる本邦と英国を直接比較することは難しいかもしれませんが、今回の検討では、保湿入浴剤はアトピー性皮膚炎の治療に有意な効果は無いという結果でした。
■ 「使用してはいけない」ではありませんので、患者さんに聞かれた場合は、「使用してかまわないけれど、保湿剤はやはり塗ってください」という指導になるでしょう。残念な結果とは言えますが、保湿剤は必要と言える有用な結果とも思います。
■ 小児アトピー性皮膚炎に対する保湿剤の効果は、最近、ランダム化比較試験でさらに強固になってきていると言えます。
■ 保湿剤で代用とせず、しっかり使用した方が良いでしょう。
今日のまとめ!
✅アトピー性皮膚炎治療に、保湿入浴剤の効果は不十分なようだ。