アトピー性皮膚炎に対し、さまざまな保湿剤が市販されているが、どのような保湿剤がより有効かに関する報告は十分ではない。
■ 外来でよく尋ねられる質問に、『どの保湿剤がよいでしょうか?』というものがあります。
■ しかし、なかなかその質問にクリアカットにお答えすることは難しいものです。
■ というのも、世の中にある市販の保湿剤は160種類以上もあり、個別に調査することが難しいからです。
■ それでも、ある程度の研究結果が公開されるようになってきています。
■ そのひとつを共有します。
Danby SG, Andrew PV, Taylor RN, Kay LJ, Chittock J, Pinnock A, et al. Different types of emollient cream exhibit diverse physiological effects on the skin barrier in adults with atopic dermatitis. Clinical and Experimental Dermatology 2022; 47:1154-64.
成人のアトピー性皮膚炎患者49人に対し、尿素とグリセロールを含む新規保湿剤(尿素-グリセロールクリーム:UGC)と、グリセロールを含む保湿剤(グリセロールクリーム:GC)、保湿剤を含まないパラフィンクリーム(PC)、無治療対照(NTC)にランダム化し、1日2回前腕の4つの部位のいずれかに塗布(4番目の部位は未治療のコントロール)し、4週間の治療を行って、皮膚の状態を調べた。
背景
■ アトピー性皮膚炎(AD)は、世界中で小児の5人に1人、成人の10人に1人が罹患する非常に一般的な皮膚疾患である。
■ 湿疹患者の皮膚には有効なバリアが形成されておらず、そのため刺激物、アレルゲン、微生物の侵入によって紅斑、炎症、乾燥が起こりやすいと考えられている。
■ 皮膚バリア機能不全はADの特徴である。
■ 全ての湿疹患者には、皮膚を柔らかくし落ち着かせるために、保湿剤を定期的に大量に(成人では600g/週)使用することが推奨されている。
■そして英国だけでも、2018年に保湿クリームの処方箋が約900万件発行され、その費用は5000万ポンドを超えている。
■ このように広く使用されているにもかかわらず、一般的に処方される保湿クリームが皮膚のバリアにどのような影響を与えるかはあまり知られていない。
■ したがってADの発症や悪化における保湿剤の役割も不明なままである。
■ そこで、3種類の保湿クリームと無治療対照を比較することを目的とした。
目的
■ 尿素とグリセロールを含む新規保湿剤(尿素-グリセロールクリーム:UGC)と、グリセロールを含む保湿剤(グリセロールクリーム:GC)、保湿剤を含まないシンプルなパラフィンクリーム(PC)、無治療対照(NTC)のバリア強化特性を比較した。
方法
■ 本試験は、成人ADを対象とした観察者盲検の前向き第2相被験者内多施設共同ランダム化比較試験である(臨床試験番号NCT03901144)。
■ 介入方法として、1日2回、3つの製品を前腕の4つの部位のいずれかに塗布し、4週間の治療を行った(4番目の部位は未治療のコントロールとした、無作為割付)。
■ 治療前、治療中、治療後に肌の特性(乾燥度、経表皮水分蒸散量[TEWL]、角質水分量、天然保湿因子[NMF])を評価し、皮膚バリアがどのように変化したかを確認した。
■ 主要評価項目は、治療後の刺激物であるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)に対する皮膚の反応だった。
■ 治療前と治療後の皮膚にテストを行い、皮膚のバリアがどのように変化したかを確認した。
結果
■ 計49名の患者が無作為に割り付けられ、治療を完了し、解析に含まれた。
■ 尿素-グリセロールクリーム(UGC)は、無治療対照(NTC)(-9.0g/m2/h、95% CI -12.56~-5.49)、パラフィンクリーム(PC)(-9.0g/m2/h、95% CI -12.60~-5.44)、グリセロールクリーム(GC)(-4.2 g/m2/h, 95% CI 7.76~-0.63)と比較して、SLSに対し反応したTEWL減少が有意だった。
■ UGCを使用した部位では、NTCやPCと比較して皮膚の保湿性が向上し、乾燥とNMFレベルの変化が一致していた。
■ サブグループ解析により、FLGに依存した治療効果の向上が示唆された。
結論
■ 本研究は、湿疹用の保湿クリームがすべて同じではないことを示した。
■ 英国で最も広く処方されているパラフィンベースのシンプルな保湿クリームは、皮膚のバリアに影響を与えず、皮膚のNMFを低下させた。
■ UGCは、皮膚バリア機能を有意に向上させ、刺激から保護した。
■ GCはPCよりも優れた性能を示したものの、UGCほどではなかった。
■ UGCは、皮膚のNMFの上昇を伴うメカニズムにより、皮膚バリア機能を強化し、SLSによる刺激から保護した。
■ UGCは、主要な病態生理学的プロセスの改善を補佐することにより、ADの長期的な管理を改善する可能性があると結論づけた。
■ この結果は、保湿クリームの種類によって皮膚への影響が異なり、特定の種類だけが皮膚のバリアを改善し、湿疹を誘発する刺激物から保護する能力があることを示している。
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