アトピー性皮膚炎に、抗菌機能のある衣服は有効か?:ABC試験

銀繊維衣服とキトサン衣服のアトピー性皮膚炎への効果は?

 『アトピー性皮膚炎には、どんな衣服が良いですか?』という質問は、少なくありません。
■ 以前、このテーマをまとめた記事を書きました。

■ しかし、アトピー性皮膚炎の治療において、機能性を付け加えた繊維で製造された衣服に関してのエビデンスは質が低く、推奨度は低いともいえます。

■ すなわち、エビデンスレベルの高い研究が求められていました。
■ そのようななか、『銀コーティングの衣服』や『キトサンで織った衣服』がアトピー性皮膚炎の治療に有効かをみた研究が、英国皮膚科学会雑誌(British Journal of Dermatology)に報告されました。

 

Ragamin A, Schappin R, de Graaf M, Tupker RA, Fieten KB, van Mierlo MMF, et al. The effectiveness of antibacterial therapeutic clothing compared with non-antibacterial therapeutic clothing in patients with moderate-to-severe atopic dermatitis: A randomized controlled, observer-blind pragmatic trial (ABC trial). British Journal of Dermatology 2023.

中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者171例で、キトサンベースの抗菌衣服、銀ベースの抗菌衣服、標準的な治療衣服をランダムに割り当て、52週間の効果を比較した。

背景

■ 黄色ブドウ球菌(SA)のコロニー形成の増加は、アトピー性皮膚炎(AD)の病因において重要な因子であると考えられている。
■ 抗菌薬を施した治療衣は、SAコロニー形成とADの炎症を軽減することを目的としている。
■ しかし、AD管理におけるその役割はまだ十分に理解されていない。

目的

■ 中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者における、抗菌治療衣+標準的外用療法の有効性を、標準的治療衣+標準的外用療法と比較し検討する。
■ 有効性が示された場合、費用対効果も評価する。

方法

■ 中等度から重度のAD患者を対象に、実用的な二重盲検多施設共同無作為化比較試験(NCT04297215)を実施した。
■ 患者は標準的な治療衣、キトサンベースの抗菌衣、銀ベースの抗菌衣のいずれかを受ける群に1:1:1の割合でランダム化された。
■ プライマリアウトカムは、52週にわたるEczema Area and Severity Index(EASI)の群間差であった。
■ セカンダリアウトカムには、患者報告アウトカム、ステロイド外用、SAコロニー形成、安全性、費用対効果などが含まれた。
■ アウトカムは一般化線形混合モデル解析により評価された。

結果

■ 2020年3月16日から2021年12月20日までに171例が登録され、解析には159例が含まれた(標準治療衣群54例、キトサン群50例、銀群55例)。
■ アドヒアランスは高かった(中央値7泊/週、IQR3-7)。
■ ベースライン、4週、12週、26週、52週のEASIスコアの中央値は、標準治療衣群で11.8、4.3、4.6、4.2、3.6であり、キトサン群では11.3、5.0、3.0、4.4、銀群では11.6、5.0、5.4、4.6、5.8であった。
■ 52週間のEASIでは、標準治療衣群、キトサン群(-0.1; 95%CI -0.3~0.2; p=0.53)、銀群(-0.1; 95%CI -0.3~0.2; p=0.58)に差はなかった。

■ 標準群と銀群間にはわずかながら有意な群間交互作用効果(P=0.035)が認められ、銀群は26週後に成績が悪化していた。
■ 患者報告によるアウトカム、ステロイド外用薬の使用、SA皮膚コロニー形成についても、群間で有意な差は認められなかった。
■ 副作用は、標準治療衣群で9%、キトサン群で7%、銀群で11%だった。
■ 費用対効果解析では、キトサン群と銀群のどちらも標準治療衣群と比較してコストが高くなり、QALY(quality-adjusted life year)の増加に対して追加コストがかかることが示された。

結論

■ この試験において、キトサンベースまたは銀ベースの抗菌治療衣は、中等度から重度のAD患者に対する標準的外用療法に対する追加的な臨床的利益を提供しなかった。
■ 費用対効果も示されなかった。
■ キトサンまたは銀ベースの抗菌治療衣の使用は、ADの管理における標準的な外用療法には推奨されない。

 

 

※ 論文の背景とその解説・管理人の感想は、noteメンバーシップでまとめました。

 

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