プロバイオティクスによるアトピー性皮膚炎発症予防に対する反対意見

アトピー性皮膚炎予防にプロバイオティクスを使用するのは正しいか?

■ Zuccottiらによるプロバイオティクス(乳酸菌製剤)はアトピー性皮膚炎予防に有効、というメタアナリシスが最近発表され話題を呼びました。

■ プロバイオティクス(乳酸菌製剤)はアトピー性皮膚炎発症を予防する: システマティックレビュー

■ さらに、最近、シンバイオティクス(プレバイオティクス+プロバイオティクス)によるメタアナリシスも発表されました。

■ シンバイオティクスはアトピー性皮膚炎の治療に効果がある

■ それに従い、WAOガイドラインでは、アレルギーハイリスク児の母に対するプロバイオティクスを推奨するようになりました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25628773)。一方、EAACIでは、現状では十分なエビデンスがないとして推奨していません(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24697491)。その矛盾に対する論評です。

 

Ricci G, Cipriani F. Probiotics and prevention of eczema: have we enough data to draw conclusions? Allergy 2016; 71:426-8. 

まとめ

■ EAACI Food AllergyとAnaphylaxis Guidelinesの勧告(Muraro A, et al. Allergy 2014; 69:590-601. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24697491)では、「母乳で育てる母親が、児のアレルギーを予防するために、食事を変更したり、プロバイオティクスのようなサプリメントを摂取することを推奨するエビデンスはない」、さらにまた、「食物アレルギーを予防するために、プレバイオティクスやプロバイオティクス、もしくは特定の栄養分に基づくその他の栄養補助食品を服用するよう勧めるエビデンスはない」としている。

■ 一方、WAOガイドライン(Fiocchi A, et al. World Allergy Organ J 2015; 8:4. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25628773)では、「アレルギーハイリスクの乳児に対する母乳栄養の母に対するプロバイオティクスの使用は、アトピー性皮膚炎の予防に有益である」としており、上記の勧告と一部矛盾している。
これらの矛盾は二つの疑問点から生じている。

■ 一つ目は、同じ患者が追跡調査の異なるフェーズ・異なる報告で含まれていることである。

■ 例えば、Rautawaらの報告(Rautava S, et al., J Allergy Clin Immunol 2002; 109:119-21.)は、Kalliomakiらの二重盲検プラセボ対照臨床試験(Kalliomaki M, et al., Lancet 2001; 357:1076-9. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11297958)の参加者の一部によって行われている。
(筆者注、同じ児を対象にしている他の論文に関しても記載があるが割愛)

■ 同じ集団の複数の追跡調査の場合には、そのうち1つの結果のみを考慮しなければ、正確な統計にならないと考えられる。

■ ふたつ目のの点は、プロバイオティクスの不均一性である。
Zuccottiらのメタアナリシスでは、生菌「混合物」による「sub-meta-analysis」と名付けられたサブグループ解析により、アトピー性皮膚炎が予防できたとしている(リスク比 0.54[95%CI:0.43-0.68]、P < 0.00001)。

■ 最も使用される生菌種である Lactobacillus rhamnosus は、100種類もの幅広いフェノタイプを示す。すなわち、Lactobacillus rhamnosus は生息地ごと、宿主に対して異なる抗菌活性で適応しているため、異なる機能特性を示す可能性がある。

■ これらの不均一性から考えて、正しい検討ではないのではないかと考えられる。

コメント

■ Zuccottiらのメタアナリシス結果を掲載した欧州免疫アレルギー学会誌(Allergy)自身から論評が加えられているのが興味深いです。つまり、メタアナリシスを掲載したJournal自身が、そのエビデンスを採用しなかったということです。

■ しかし、さらに批判的吟味を加えて、科学的に考えていく姿勢に感服します(WAOの考え方がいけないという訳でもありませんが、、、)

■ こういった現状ではプロバイオティクスのアトピー性皮膚炎予防に関して自分自身のスタンスも決められませんが、どちらにせよ本邦で「アトピー性皮膚炎予防目的にプロバイオティクスを使用」するにしても、どの菌株をどれくらい使用していいかも判明していません。

■ もし患者さんに聞かれたとしても、「乳酸菌製剤を摂取することは悪くはないですし、良いデータもあります。でも普通に処方できるような乳酸菌製剤でどれくらい効果があるかはわかりません」とお話するしかないかなあと思います。

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