Ohn M, Jaffe A, Selvadurai H. Persistent growth effects of inhaled corticosteroids. Journal of paediatrics and child health 2016; 52:964-6.
吸入ステロイド薬と身長抑制。
■ 今週の火曜日の午後が、久しぶりに研究日が研究日として使えたので、午後から勉強に時間がさけたのがうれしいです😊
■ さて、CAMPスタディのフォローアップ研究で、吸入ステロイド薬(ICS)が最終身長を1.2cm低くする可能性があることが指摘されたことは大きなインパクトを与えました(N. Engl. J. Med. 2012; 367: 904–12.)。
■ もちろん、ICSは喘息症状を貢献をし、本邦での喘息児の死亡数も著明に低下させました(図は厚労省の統計より管理人作成)。
■ ですので、ただICSが危ないといった短絡的な論調は慎むべきではありますが、その後、CAMPスタディの結果は、どのような展開を見せているのでしょうか?
■ 調べていると全文をフリーで紹介しているレビューがあり(コクランシステマティックレビューの解説のようです)、わかりやすかったので翻訳し(一部意訳)、その一部を整理してご紹介したいと思います。
吸入ステロイド薬の身長抑制に関し、2回ののコクランシステマティックレビューが実施された。
このレビューは何を述べているか?
■ 持続型喘息児の成長に対する吸入ステロイド(ICS)の効果に関し、2つのコクランシステマティックレビューがある。
■ 最初のレビューでは、持続型喘息と、効果の修飾因子(例えば、利用できる治療 [粒子、用量、曝露期間、吸入デバイス)、治療をうけている小児 [年齢、重症度、治療コンプライアンス]といった特徴)において、身長の伸びに対するICSの影響を評価した。
■ 二つ目のレビューは、ICSの用量を増加させると、身長抑制をより大きくしたり体重増加や骨格成熟にも関連するかどうかを評価した。
どのような知見があったか?
■ 連日のICS加療を受けた持続型喘息児では、
○1年目の治療期間中の成長速度が統計的に有意に低下する(Cochrane Database Syst. Rev. 2014; 7: CD009471)。
○治療1年目の最大成長抑制は、2年目において有意な回復は認められない(Cochrane Database Syst. Rev. 2014; 7: CD009471)
■ 低用量ICSと比較して高用量ICSを使用している児は成長速度が遅く、平均差は0.2cm /年である(Cochrane Database Syst. Rev. 2014; 7:CD009878)(図1)
レビューから引用。図1。
どのような研究結果に基づいているか?
■ 最初のコクランレビューには、軽症および中等症の持続型喘息児8471人(ICS群5128人、対象3343人)を対象とした並行群間ランダム化対照試験25試験が含まれていた。
■ 対照群は、一致するプラセボまたは非ステロイド薬(モンテルカストまたはクロモリンまたはアルブテロールまたはテオフィリン)のいずれかを投与されていた。
■ これらの知見は、高用量ICSを要する重症喘息児には適用されず、知見に関し、軽症vs中等/重症喘息の影響は解決することは困難だった。
■ 3か月から4〜6年間の低用量もしくは中用量の6種類の異なるICS(ベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、フルチカゾン、フルニソリド、モメタゾン)が使用されていた(表1)。
表1。使用されていたICS。
■ ほとんどの試験ではICSの100μg vs 200μgを比較したが、2試験では比較的新しいICS(ciclesonide)を使用した。
■ ciclesonideがより全身性でないバイオアベイラビリティがあるため理論的に副作用がより少ないと考えられている。
■ 2番目のコクランレビューには、軽症から中等症の喘息3394人の児が参加し、10試験における17群の比較を結合した。
■ 5種類のICS(ベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、フルチカゾン、モメタゾン)が使用されていた。
■ 低用量は50-100μgとして定義され、中用量が200μgのハイドロフルオロアルカン・ベクロメタゾン相当だった。
■ 主要評価項目(12ヵ月にわたる成長速度)は、4研究(728人学童期小児)によって報告された。
■ 22件中19件の研究で、身長測定がなされていない、もしくは不十分だった。
診療への影響
■ オーストラリアの小児喘息ガイドラインは、2歳未満の小児のクロモリンおよび2歳以上の小児のモンテルカストに対する反応が不適切である場合には、軽症持続型喘息において低用量ICS治療を考慮すべきであると述べている。
■ ICSは、中等症から重症の持続型喘息に対しても有効な治療法であるが、それらは副作用がなくとはいえず、成長に対するICSの悪影響が懸念されている。
■ この知見は、成長速度低下を最小限にするために、喘息の小児において、最小用量で有効なICS用量を使用するようにする必要を支持している。
■ 副流煙、アレルゲン、肥満のような修正可能な環境トリガーと併存疾患は、介入対象になり、ICS以外の手段として考慮する。
■ ウイルス性喘鳴または頻度の少ない間欠性喘息に対しては、通常のICSによるコントローラー治療は推奨されない。
■ ICSを開始、もしくは増量したすべての小児は、4週間後に見直しをする。
■ 可能な限りICS用量は減量し、ICSにかかわらず最小有効用量を使用する。
臨床的視点
■ 長い間、ICSを使用した喘息児は成長速度を抑制したものの、成人期の最終目標身長は達成していると考えられていたが、今回その原則を検証した。
■ Childhood Asthma Management Program(CAMP)研究(9年間のフォローアップで成人期の身長の長期のフォローアップを行った初の前向き二重盲検無作為プラセボ対照研究)には、5-13歳の軽症・中等症喘息児1041人が参加した]。
■ 4〜6年間、ブデソニド400μ吸入またはネドクロミル16mgまたはプラセボを投与し、ほとんどの(943人、90%)の参加者において、平均年齢25歳で身長を測定した。
■ ICS群はプラセボ群より平均1.2cm身長が低かった(95%CI 0.5〜1.9、P= 0.001)。CAMP研究は、2件のCochraneレビューに示されたICS身長抑制効果を確認しているが、それらが持続することを示している。
■ ただし、今後さらに、head to headのランダム化比較試験が、様々なICSの成長抑制の結果に関して検討する必要がある。
■ シクレソニドが副作用が少なく、成長障害が少ないかどうかを確認する必要がある。
結局、何がわかった?
✅CAMPスタディのフォローアップ研究は、吸入ステロイド薬が身長抑制をきたす可能性があることを示した。
✅ただし、2歳未満の小児のクロモリン(本邦ではインタール相当)および2歳以上の小児のモンテルカスト(シングレア)に対する反応が不適切である場合には、軽症持続型喘息においても低用量ICS治療を考慮すべきであるという原則は変更されていない。
✅小児喘息においては、最小用量で有効なICS用量を使用するようにする必要があり、 ICSを開始、もしくは増量した場合は4週間後に見直す必要がある。
✅ 副流煙、アレルゲン、肥満のような修正可能な環境トリガーと併存疾患は、介入対象になり、ICS以外の手段として考慮できる。
吸入ステロイド薬による身長抑制は、環境整備や肥満への介入の重要性や、必要最小限の投与量を考える理由を与えてくれている。
■ 吸入ステロイド薬(ICS)は、喘息のコントロールに劇的な効果をもたらしました。しかし、CAMPスタディのフォローアップ研究は、我々にICSの限界の一部も教えてくれます。
■ 一方で、ICSを恐れるあまり、子どもたちをさらなる喘息発作に晒すことはあってはならないでしょう。生活の質を下げるのみでなく、大きく減った死亡率を上昇させては本末転倒ですし、発作時の経口ステロイド薬もまた、副作用がないわけではないのです。
■ ただ漫然とICSを処方するのではなく、環境整備や肥満に対する介入を積極的に行い、ICSを必要最小限に少なくする努力が求められていると思います。
今日のまとめ!
✅吸入ステロイド薬(ICS)における身長抑制のレビューは、漫然としたICS処方継続ではなく、環境整備や肥満への対策、必要最小限に抑える努力が必要であることを我々に示唆している。