皮膚バリア機能異常を、手のしわ(palmar hyperlinearity)で予想できるかもしれない

皮膚バリアに関連するフィラグリン遺伝子。アトピー性皮膚炎にみられる症状の一つである「palmar hyperlinearity」。

「palmar hyperlinearity」というのは、親指の付け根の膨らみにある「母指球」にある皺(しわ)のことを指す用語で、アトピー性皮膚炎にみられる症状のひとつだそうです。

■ 「だそうです」というのは、私も数年前までその存在を知らず、以前学会で友人が発表しているのを聞いて、知ったのです。その後、フィラグリン遺伝子異常との関連がある報告をみつけました。

Wide spectrum of filaggrin‐null mutations in atopic dermatitis highlights differences between Singaporean Chinese and European populations

■ なお、フィラグリン遺伝子とは、皮膚バリアに関連する遺伝子のひとつで、アレルギー疾患の発症リスクになることが報告されています。

Filaggrin Mutations Associated with Skin and Allergic Diseases

■ そこで、当時の発表から引用文献を探して見つけたのが、今回ご紹介する論文。「palmar hyperlinearity」自体が、アトピー性皮膚炎に関連することはいくつかの論文の報告がありますが、この研究では「palmar hyperlinearity」に3パターンあることを初報告しています。

Brown S, et al. Filaggrin haploinsufficiency is highly penetrant and is associated with increased severity of eczema: further delineation of the skin phenotype in a prospective epidemiological study of 792 school children. British Journal of Dermatology 2009; 161(4): 884-9.

7〜9歳の小児 792人の臨床症状と、皮膚バリア遺伝子のひとつであるフィラグリン遺伝子異常を調査した。

背景

フィラグリン遺伝子(FLG)内のNull突然変異は、尋常性魚鱗癬を引き起こし、アトピー性皮膚炎に関連している。

■ しかし、フィラグリンのハプロ不全の皮膚科的特徴は、明確には定義されていない。

 

目標

■ この研究は、集団ベースの小児コホートにおける詳細な皮膚フェノタイプとFLG遺伝子型データの遺伝子型 - フェノタイプの関連性を調べた。

 

方法

7〜9歳の小児 792人に関し、皮膚科医が診察した。

■ 魚鱗癬、アトピー性皮膚炎、乾皮症の特徴を記録し、Three Item Severityスコアを用いて湿疹の重症度を評価した。

論文から引用。参加者の特徴。「palmar hyperlinearity」は21.1%に認めた。

■ 各小児は、6種類の最も一般的なFLG Null突然変異(R501X、2282del4、R2447X、S3247X、3702delG、3673delC)について遺伝子型を特定された。

■ フェノタイプ群の遺伝子型の頻度を比較するためにフィッシャー正確検定を用いた。

■ ロジスティック回帰分析が、FLGNull遺伝形質のオッズ比と表現率を推定するために使用され、順列検定は種々の遺伝形質群による湿疹重症度を調べるために実施された。

 

結果

■ この集団において、10人は尋常性魚鱗癬を有し、そのうち5人は軽度から中等度の湿疹を有していた。

■ 屈曲部の湿疹におけるFLGーNull突然変異のフェノタイプは、2箇所の突然変異を有する児では55.6%1箇所の突然変異を有する児では16.3%Wild typeでは14.2%だった。

論文から引用。FLG遺伝子異常を多く持つ方が、屈曲部の湿疹(Flexural eczema)や「palmar hyperlinearity」を持つ率が高い。

■ FLG Null突然変異と関連することが知られている皮膚の特徴(魚鱗癬、角化症の角膜浮腫、palmar hyperlinearity、屈曲部の湿疹)を総括すると、2箇所のFLG突然変異を有する小児において100%の表現率、1箇所のFLG突然変異を有する小児で87.8%の表現率、wild‐type で46.5%の表現率だった(P <0.0001、Fisher exact test)。

FLG Null突然変異はより重症の湿疹(P = 0.0042)に関連したが、重症度スコアの差は、平均1〜2ポイントにすぎなかった

■ 「palmar hyperlinearity」 の3種類の異なるパターンが観察され、これらは初めて報告された。

論文から引用。「palmar hyperlinearity」 の3種類の異なるパターン。

 

結論

■ フィラグリンのハプロ不全性は、すべての関連する皮膚の所見が解析に含めるとすれば、非常に(アトピー性皮膚炎の症状の)表現率に表れているようだった。

■ FLG Null突然変異はより重篤な湿疹と関連しているが、populationの設定では効果は小さい。

 

結局、何がわかった?

 ✅7〜9歳の小児に関し、皮膚バリア遺伝子のひとつであるフィラグリン(FLG)遺伝子異常を検討すると、アトピー性皮膚炎の症状に相関した。

 ✅屈曲部の湿疹に関し、FLG遺伝子異常を2箇所の突然変異を有する児では55.6%、1箇所の突然変異を有する児では16.3%、Wild typeでは14.2%認めた。

 ✅「palmar hyperlinearity」に関し、FLG遺伝子異常を2箇所の突然変異を有する児では100%、1箇所の突然変異を有する児では74.5%、Wild typeでは12.5%認めた。

 

 

「palmar hyperlinearity」は、フィラグリン遺伝子異常を予想するひとつの方法かもしれない。

■ 「palmar hyperlinearity」があれば、フィラグリン遺伝子異常があると確定できるわけではありませんし、アトピー性皮膚炎を必ず発症するわけではありません。

■ ただ、FLG遺伝子異常の数により、治療効果にも差があるかもしれないという報告もで始めており、普段の診療にいくらか役に立つ可能性があります。

Association of Filaggrin Loss of Function and Thymic Stromal Lymphopoietin Variation With Treatment Use in Pediatric Atopic Dermatitis

■ なお、皮膚バリアに関する知見は、すでにフィラグリン以外の要素にも広がってきており、フィラグリンのみで説明できるものでは無くなってきています。

 

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今日のまとめ!

 ✅「palmar hyperlinearity」は、皮膚バリア遺伝子のひとつであるフィラグリン遺伝子異常を反映する可能性がある。

 

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