麻疹ワクチンを接種していない場合、麻疹に狙い打ちされる?
■ 最近、アーミッシュの方々で喘息が少なく、それは伝統的な生活を守っているからという研究結果をお示ししました。
伝統的農法をしている環境の方が、新しい農法をしている環境より気管支喘息が少なくなる: 症例対照研究
■ そして、微生物群がアレルギー発症を抑えているという”衛生仮説”は、重要な仮説として証明されてきています。
■ では、アーミッシュの方々のような生活に戻ることが良いのでしょうか?
■ 今回は、予防接種をしていないアーミッシュの方が麻疹の輸入者となり、さらに麻疹が未接種者を狙い撃ちする可能性が十分にあることを示した報告です。麻疹の予防接種は2回以上が推奨されており、本邦でもすでに2回が定期接種化されています。しかし、最近本邦でも麻疹の小規模な集団発生があったことは記憶にあたらしいところでしょう。
* 今回の検討は症例集積研究に近く、下記のPECOは便宜的なものです。
P:2014年3月24日から2014年7月23日にかけてオハイオ州の9つの郡で発生した麻疹患者計383人 E: 麻疹感染者 C: 麻疹非感染者 O: 麻疹感染者の特徴 |
Gastanaduy PA, et al. A Measles Outbreak in an Underimmunized Amish Community in Ohio. N Engl J Med 2016; 375:1343-54.
麻疹を制圧したはずの米国で、2014年に麻疹が流行した。
■ 患者年齢の中央値は、15歳(範囲 1~53歳)だった。
■ 患者のうち178人(46%)は女性であり、340人(89%)はワクチン未接種だった。伝染の68%は家庭内で起こった。
■ ウイルス株は遺伝子型D9であり、その遺伝子型の麻疹は報告期間中にフィリピンで流行していた。 そして、2014年にWHOは、フィリピンにおいて21403例の麻疹発生と110人の死亡例があったと報告していた。
■ 一方、2014年3月に、台風の救済事業のためにフィリピンに行った2人のアーミッシュの男性が米国に戻り、知らずに麻疹に感染しており、感染拡大の端緒となった。
■ アーミッシュの14%とアーミッシュ以外の88%以上に少なくとも1回のMMRワクチン接種歴があると推定され、麻疹封じ込め策は、患者隔離・感受性の高い人の隔離・10000人以上へのMMRワクチン投与で行われた。
■ 麻疹の流行はほぼアーミッシュの居住地域(99%)に限られていたが、感染者は32630人のアーミッシュのわずか1%だった。
論文から引用。麻疹発生者の地図。アーミッシュの居住地域にほぼ限られている。
2014年の米国での麻疹流行は、大多数が予防接種をしていないひとが狙い撃ちにされた。
■ 今回の米国オハイオ州におけるアーミッシュ内での麻疹流行の特徴は、主に家庭内の伝染であったこと、おもったよりはアーミッシュでの感染率が少なかったとは言えるものの、大多数が予防接種をしていないアーミッシュだったとまとめられます。
■ 米国では、2000年に麻疹流行が排除されたと宣言されたにもかかわらず、麻疹が輸入されていると述べられていました。
■ もちろん、アーミッシュの方々の生活に関し批判するものではまったくないのですが、この事例からはやはり、麻疹は予防接種をしていない人を狙い撃ちするように感染することは間違いなさそうです。また、予防接種をしていない「高感受性」の方が輸入者となり、震源となることが多くあるということになります。
■ 一方で、予防接種率が高い社会では、”予防接種をしていないけど、今までかかってません”という患者さんがいらっしゃることも確かであるといえるのではないでしょうか。
■ こういったケースを踏まえ、少なくとも現在のようなグローバルな世界では、海外に勤務したり旅行に行くことが多いこれからの世代に対する予防接種の必要性はますます高まっているように思います。