Stein MM, et al. Innate Immunity and Asthma Risk in Amish and Hutterite Farm Children. N Engl J Med 2016; 375:411-21.
■ 衛生仮説とは、1989年に英国の疫学者であるストラカンが提唱した仮説であり、ざっくりまとめるならば感染が多くなるような環境の方がアレルギーが少なくなるという仮説です(Strachan DP. BMJ 1989; 299:1259-60.)。
■ この論文に出てくるアーミッシュの方々は、伝統的な生活様式を守り通している民族で、アレルギー発症に対する研究に大きな影響を与えています。
P: 7-14歳のアーミッシュとフッタライトの小児計 60 人
E: アーミッシュ30 人 血清IgE値、末梢血白血球の表現型、サイトカイン、遺伝子プロファイル、各家のハウスダスト抽出液(エンドトキシン、アレルゲン、微生物ゲノム C: フッタライトの小児30人 O: 喘息の発症率 |
※管理人注(2020/2/6); 最初、タイトルに『症例対照研究』と記載しておりましたが、栄養疫学者の今村先生より、『この研究は集団と集団との比較であり、症例の有無で比較しているのではないので「症例対照研究」とは呼ばず、横断研究に相当する』とコメントをいただきました。そこで、ご意見をいただきつつ、タイトルを修正いたしました。今村先生ありがとうございました!
結果
■ アーミッシュはフッタライトに比較し、喘息有症率が1/4、アレルゲン感作率は1/6だった。
■ 一般的なアレルゲン(ネコ、イヌ、チリダニ類、ゴキブリ)は、アーミッシュ10人中4人、フッタライト10人中1人のハウスダストから検出され、20世帯で測定されたエンドトキシンレベルは、アーミッシュがフッタライトより高かった(4399 endotoxin units [EU]/m3 vs. 648 EU/m3, P<0.001)。
■ IgE以外の血清Igアイソタイプレベルは両群で有意差は認められなかった。
■ アーミッシュ群は白血球組成で好中球が高く好酸球が低く、23種類のサイトカインレベルの中央値が低く、分布も有意に異なった(p<0.001)。
■ ovalbuminマウスに各家から採取したハウスダストを投与したところ、アーミッシュからのハウスダストは気道過敏反応・好酸球・ovalbumin特異的IgEレベルを抑制した。 サイトカインにおいても多種の炎症反応カスケードを抑制し、喘息に関与するサイトカインをより少なく発現した。
■ 自然免疫シグナル伝達に関与するMyD88 と Trif ノックアウトマウスでは,これらの抑制効果は認められなくなった。
コメント
■ 衛生仮説を支持する結果といえます。
■ アーミッシュは伝統的農法を家族単位で行っており、馬を仕事・移動に使用しています。一方、フッタライトは産業化した共同農法を行っているそうです。それ以外の両者の生活様式や遺伝的形質は類似しているため、今回の結果は、喘息が遺伝要因より環境因子が大きく関与していることを示唆していると結論されていました。
■ ただ、このような生活様式は、現代に生きる我々にはなかなか真似の出来ないものともいえます。日本で生活する以上、そう簡単にアーミッシュの方々のような生活は出来ません。また、エンドトキシンレベルが高く細菌も多い環境ならば、感染症も多くなり、乳児死亡も多くなるでしょう。
■ 衛生仮説に関しては、当ブログでも、食器を食洗機で洗うより手洗いしたほうがアレルギー疾患が少なくなる()、親指しゃぶりや爪噛みの癖は、アレルゲン感作を抑制する()などをUPしてきました。
食器を食洗機で洗うより手洗いしたほうがアレルギー疾患が少なくなる
親指しゃぶりや爪噛みの癖は、アレルゲン感作を抑制する: コホート研究
■ この知見を踏まえ、実際的な方法がでてくることを期待したいと思います。