Kaya A, et al., Food protein-induced enterocolitis syndrome in two exclusively breastfed infants. Pediatr Allergy Immunol 2016; 27:749-50.
* 2017/10/29 フォーマットを修正しました。
典型的でない牛乳アレルギー。
■ 今日、明日続けて、少し想定外の牛乳アレルギーの症例報告をUPしたいと思います。Letter(短報)ですが、こういう症例報告は重要です。
■ Food protein-induced enterocolitis syndrome (FPIES) は、繰り返す嘔吐や、重篤な下痢(本邦では血便も多いと考えられている)によって特徴づけられるIgE非依存性・食物依存性の消化管アレルギーです。牛乳が最も多いのですが、完全母乳児でも起こりうるとされています。完全母乳栄養児における牛乳FPIESの2例の報告です。
症例1
■ 男児、生後15日に発熱、嘔吐、下痢により、敗血症と脱水の診断でNICUで加療開始となった。
■ 患者は完全母乳栄養で育てられたが、頻回の下痢と体重増加不良が認められた。
■ 血液検査では、軽度の白血球増多と好中球増加を示したが、CRPとプロカルシトニンは陰性で、血液・尿培養も陰性だった。
■ 入院後、静脈輸液が開始され、入院翌日に乳ベースの人工乳を試みた。しかし、再度反復性嘔吐と顔色不良を発症し、乳によるFPIESを疑われた。
■ 母の食事の乳製品を除去が指導され、乳児もアミノ酸乳に切り替えられた。すべての症状は静脈内補液後の数時間以内に軽快し、体重増加が見られた。
■ さらに2週間後に、一般人工乳を摂取すると症状が再燃したため、FPIESと確定診断した。
■ 予後を確認するために、生後12ヵ月でオープン経口負荷試験を実施したが、大量嘔吐と下痢の症状を呈し、ICUに収容された。最終的に2歳で摂取可能となった。
症例2
■ 新生児期から母乳で育てられ、成長障害と血性下痢を呈していたが、生後2.5ヵ月で下痢、脱水症、ショック症状でICUに入院した。sepsis work-upは陰性だった。
■ 母の食事から乳と乳製品を除去するとすべての症状は軽快し体重が増加し始めたため、児に対してはアミノ酸乳が開始された。
■ 乳ベースの人工乳で誘発試験を行ったところ大量嘔吐と下痢を発症し、FPIESと診断され、生後15ヶ月時に乳を摂取できるようになった。
新生児・乳児消化管アレルギーは、母乳栄養児にも発症する。
■ これらの患者では特異的IgE抗体価と皮膚プリックテストは陰性であり、確定診断は2週間の母の乳除去と経口食物チャレンジによったそうです。すなわち、今回の2症例は母が摂取した牛乳によって赤ちゃんが発症したFPIESであったといえます。
■ 本邦ではFPIESよりも「新生児-乳児消化管アレルギー」が名称として定着しており、診療の手引きがあります(http://nrichd.ncchd.go.jp/imal/FPIES/icho/pdf/fpies.pdf)。
■ 今回の2症例は血便が見られず体重増加不良があることから、今回報告された例はクラスター3と言えるでしょう。クラスター3症例は、もともと診断に難渋することがあるとされており、私も普段の診療でも診断に苦慮しています。