高度加水分解乳(低アレルゲンミルク)で即時型反応を呈した2例

Chauveau A, et al., Immediate hypersensitivity to extensively hydrolyzed formulas: An important reminder. Pediatr Allergy Immunol 2016; 27:541-3.

低アレルゲンミルクにも色々段階があります。

 ■ 牛乳アレルギーの児にとって、低アレルゲンミルクはとても重要な栄養源となります。高度加水分解乳では、多くの場合は問題なく摂取できますが、確かに稀に症状が出現します

■ しかし即時型反応が出現する場合は少ないです。なお、本論文に登場するPeptijunior、Alfare、 Galliageneは海外版の高度加水分解乳ですので本邦ではなじみがありません。

■ 本邦では、MA-1、MA-miなどが一般的でしょう。

 

 

高度加水分解乳で症状を来たした2例。

症例1

 ■ 完全母乳栄養の男児。

■  生後2ヵ月時に、3回目の人工乳の摂取時に数回嘔吐した以降は完全母乳となり、生後4ヶ月にヨーグルト摂取後に嘔吐と蕁麻疹を発症した。そのため、完全母乳栄養を継続し、離乳食は開始されたが乳は除去した。

■  母は料理に含まれるバターやクリームや乳は摂取していた。

■  生後9ヶ月時に皮膚プリックテストで乳、卵、魚が陽性だった。生後12ヵ月時にeHF(Peptijunior )30ml負荷し、アナフィラキシーはなかったが全身蕁麻疹を発症し陽性だった。

 

症例2

■  出生時からアトピー性皮膚炎を発症しており、人工栄養は開始されていた。

■  生後1ヶ月時に血液検査でカゼイン特異的IgE抗体価陽性であり、eHFに変更されたが、皮膚症状は改善していなかった。

■  生後8ヵ月での皮膚プリックテストでは動物のフケ、卵、乳に感作されており、喘息も発症した。

■  生後12ヶ月時に負荷試験を勧められたが家庭の事情で実施されず、生後36ヶ月でeHFによる負荷試験が実施された。初回の30ml負荷は問題なかったが、2回目負荷の数分後に腹痛を伴う嘔吐、全身の紅斑、鼻閉、喘鳴、チアノーゼを伴う活気不良を呈した

 

低アレルゲンミルクが解析された。

■  Peptijunior以外の2種類のeHF(Alfare、 Galliagene)と比較し分析した。

 ■ 12kDaより大きい可視バンドがなく3種のeHFが加水分解物であるということを示したが、その加水分解のレベルはそれぞれ異なった

 ■ Alfareが最も加水分解されており、次にGalliagene、さらにPeptijuniorが続いた

■  さらにPeptijuniorがIgE反応性ペプチドを含有しているかどうか乳清特異的IgEに対するELISA阻害を調べたところ、Peptijuniorにおいて症例1で74%、症例2で87%阻害された。同様の結果がGalliageneで観察されたが、Alfareでは認められなかった。

 

低アレルゲンミルクに関し、どの抗原性のものを選択するかはアレルギー専門医のウデの見せ所と言えましょう。

■  IgE依存性乳アレルギー児では、eHFでも即時型反応が起こりうることに留意しなくてはならないとまとめられます。

■  論文中に記載されていましたが、2000年に米国小児科学会は、extensively hydrolyzed formulas (eHFs; 高度加水分解乳)は3000Daより小さい分子量でオリゴペプチドのみを含有し、乳アレルギーのある児の少なくとも90%に症状を出現させないようにと推奨したそうです。

■ eHFsに残存しているアレルゲン性による症例報告はほとんどが持続性の消化器症状やアトピー性皮膚炎であり、即時型反応は20年以上前に報告された以降なく、久しぶりの症例報告なのだそうです。

■  ただ、実際の臨床では、MA-1でも極まれに、即時型反応の経験をすることがあります。極めて稀とは思いますが、友人である相模原病院の柳田先生に聞いてみると、「負荷試験で症状が出る子はいるよ」とのことでした。ただ、極めて稀とも言えますし、エレメンタルフォーミュラで症状が明らかであったお子さんの経験はありません(エレンタールPは稀にあります)。

■  今回症状がでたPeptijuniorは本邦では市販されていませんが、製品によって抗原性の残存が違うということですね。

■  抗原性がないとされるアミノ酸乳は高価でもあり、一般には加水分解乳(場合によってはペプチドミルク)が選択されます。今回のようなアレルゲン性を低下せる場合、加水分解とは分子量を小さくする方法と考えてください。

■  種類によって少し異なりますが、アミノ酸は1個あたり分子量が100Da(ダルトン)前後になります。多くの加水分解乳の最大分子量が1000~2000Da程度ですから、アミノ酸が10-20個連なっていると考えられます。アレルゲンになりやすい蛋白質の分子量は数万Da程度で、これくらいの分子量に分解すると、アレルギー症状を起こしにくくなります。

■  本邦では「MA-1(森永乳業)」「ペプディエット(雪印ビーンスターク)」などが加水分解乳にあたり、最大分子量が1500Daになります。「ミルフィーHP(明治)」はペプチドミルクとなり、最大分子量3500Daです。分子量が大きい場合がリスクがあるとは必ずしもなりませんが、注意を要する分子量であることがわかります。こういった説明をアレルギー専門医の卵達に説明すると納得していただけるので、私は良く使う説明方法ですね。

食物アレルギーの栄養指導の手引2011より引用。

■ ただし、ペプチドミルクのほうが風味が良く飲みやすいという面もあるので、一概に危ないからダメではありません。”安全第一”は重要とはいえ、低アレルゲンばかり追求すると栄養・味・コストを蔑ろにしていいわけではありません。

■  何事もバランスで、アレルギー専門医のウデの見せ所といえましょう。

■  とかいいながら、私も良く悩むんですけどね。

 

 

Instagram:2ヶ月で10000フォロワーを超えました!!!

Xでフォローしよう