McDermott BP, et al. Acute whole-body cooling for exercise-induced hyperthermia: a systematic review. Journal of athletic training 2009; 44(1): 84-93.
熱中症・熱射病の身体冷却法。
■ 「熱中症」とは暑い環境で生じる健康障害の総称です。
■ 熱中症の予防・対応は、佐久医師会の先生方((教えて!ドクターチーム)が作成したフライヤーをご参考下さい(PDFです)。
佐久医師会の先生方が作成したフライヤーは下のリンクから。
■ ここで紹介されている身体冷却は、「家庭で行う、極めて現実的・具体的な方法であり重要な方法」です。一方で、医療者が行う場合には、エビデンスにも配慮する必要があります。
■ 以前、身体冷却に関して調べようとしたのですが、結局良い文献に行き当たりませんでした。それが最近、TwitterでNS先生が紹介されていた文献がとてもそのテーマに沿っていましたのでご紹介いたします。
熱中症・熱射病に関し、身体冷却治療法を検討した論文をシステマティックレビューした。
目的
■ 労作性高体温治療における身体冷却の方法ごとの有効性に対処する、先行研究を評価する。
データソース
■ 2007年4月に、MEDLINE、EMBASE、Scopus、SportDiscus、CINAHL、Cochrane Reviewsデータベース、ProQuestの論文を検索し、制限をせず身体を冷却する治療法を評価した研究を特定した。
■ キーワードは、クーリング、クライオセラピー、水につける、冷水につける、氷水につける、アイシング、送風、入浴、浴槽、冷却方法、熱中症(heat illness)、熱中症(heat illnesses)、労作性熱射病(exertional heatstroke)、労作性熱射病(exertional heat stroke)、熱疲労、高体温(hyperthermia)、異常高熱(hyperthermic)、異常高熱(hyperpyrexia)、エクササイズ、労作、ランニング、サッカー、軍隊、ランナー、マラソン選手、身体活動、マラソン、サッカー、テニス。
データ合成
■ 2人の独立した査読者が、それぞれの研究をPhysiotherapy Evidence データベース(PEDro)スケールに等級分けした。
■ 研究論文89件のうち7件がPEDro基準におけるすべての基準と10点中4点の最小スコアを満たしていた。
論文から引用。
症例報告と批評的にレビューされた報告からの冷却平均速度。
許容できないと定義される冷却平均速度は<0.078°C/分であり、許容できる冷却平均速度はは0.078°C〜0.154°C/分、理想の冷却平均速度は≧0.15°C/分である。a) 氷水(2℃)につける(n = 7):0.35℃/分
b) 氷水(1-3℃)につける(n = 14):0.2℃/分
c) 冷水(20℃)につける(n = 7):0.19℃/分
d) 冷水(8℃)につける(n = 7):0.19℃/分
e) 微細な水噴霧(温度は未報告)(n = 2):0.175℃/分
f) 冷水(14.03℃)につける(n = 17):0.16℃/分
g) 氷水(5.15℃)につける(n = 17):0.16℃/分
h) 送風しながら水を浴びる(n = 52):0.15℃/分
i) 冷水につける(温度は未報告)(n = 39):0.15℃/分
j) 冷水(14℃)につける(n = 7):0.15℃/分
k) アイスバッグによるマッサージをしながら継続的に浴びる(n = 5):0.14℃/分
l) 冷水(7℃)につける(n = 7):0.129℃/分
m) 凍ったウェットタオル(n = 7):0.11℃/分
n) 静脈輸液と主要動脈に対するアイスパック(n = 1):0.107℃/分
o) 下向き噴霧(n = 2):0.102°C/分
p) 静脈輸液と凍ったウェットタオル(n = 1):0.097℃/分
q) 静脈輸液(n = 1):0.076℃/分
r) 微細な噴霧、圧縮空気、送風(n = 6):0.076°C/分
s) 送風しながら微細な噴霧(n = 6):0.073°C/分
t) 21.1℃の便座に座る(n = 6):0.066℃/分
u) 送風しながら3分間微細噴霧する(n = 6):0.05°C/分
v) 冷却した静脈輸液および水を浴びる(n = 1):0.05℃/分
w) 水をあびる(n = 1):0.044℃/分
x) 冷水(14.4℃)につける(n = 6):0.044℃/分
y)静脈輸液とハロペリドール(n = 1):0.041℃/分
z)送風と圧縮空気(n = 6):0.04℃・min/分
aa)主要動脈のアイスパックと送風(n = 5):0.036°C/分
bb)送風と時々水をあびる(n = 5):0.035℃/分
cc)体をアイスパックで覆う(n = 5):0.034°C/分
dd)主要動脈のアイスパック(n = 5):0.028℃/分
ee)ストレッチャーに横たわる(n = 5):0.027℃/分
ff)送風のみ(n = 6):0.02℃/分
gg)胃洗浄を繰り返す(n = 1):0.018℃/分
hh)輸液とパラセタモール(n = 1):0.015℃/分
ii)胸部に氷の塊を置く(n = 1):0.008℃/分
jj)冷却した毛布(n = 1):0.0076℃/分
kk)冷却した毛布(n = 1):0.0℃/分
結論
■ 労作性高体温治療のための身体冷却に関し、利用可能な研究を広範かつ批判的検討すると、氷水につける方法が最も効率的な冷却を提供すると結論付けられた。
■ 他の許容可能な手段を特定するためには、全身冷却の方法を比較するさらなる研究が必要である。
■ 氷水につけることが不可能な場合、より高度な冷却手段を使用できるようになるまで、患者に送風することと組み合わせ、水を連続的に浴びせることが代替される方法である。
■ 将来に、労作性高体温治療に対する他の容認できる全身冷却方法を特定するまで、氷水につける、および冷水につける方法は、最も速い冷却速度を有することが証明された方法である。
結局、何がわかった?
✅熱中症・熱射病に対する治療における身体冷却に関し、氷水につける方法が最も効率的に冷却できると結論された。
✅氷水につけることが不可能な場合、送風に組み合わせて、水を連続的に浴びせることが代替される方法である。
氷水や水につけることは簡単ではないため、高度治療が実施できるまで有効な身体冷却を行う必要性があります。
■ このような報告をご紹介すると、「氷水につけないと意味がない」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、そういう意味ではありません。ベストな方法が選択できない場合にはベターな方法で迅速な処置を行うべきと思います。
■ 例えば、3点冷却をして、霧吹きなどで水をかけてクーラーに当てる(冷たい空気を送風)ことも一つの方法であることははっきりしているでしょう。
■ 一方で、ただ寝かせる(ストレッチャーに横たわる 0.027℃/分)、扇風機に当てるのみ(送風のみ:0.02℃/分)、氷を胸に置く(0.008℃/分)は有効ではありませんし、胃洗浄(0.018℃/分)、解熱薬+輸液(0.015℃/分)も誤った対応といえそうです。
■ それにしても、Twitterには、教えてドクター!チームの先生方やNS先生といった、素晴らしい先生方がいらっしゃって、いつも勉強になります。感謝いたします。
※ 2018/7/21 12時追記。リノ先生の「殻付きのゆで卵の内部をいかに早く冷ますか」という表現が言い得て妙でしたので引用させていただきます。このイメージでしょう!
ほむほむ先生のこちらの記事がとても分かりやすくタメになります(いつもありがとうございます‼️)。
— Dr.リノ🦏 (@awaguni_deko8) July 20, 2018
イメージとしては【殻付きのゆで卵の内部をいかに早く冷ますか】
表面にパッと冷水を掛けただけでは内部の熱は全然下がりません。
「断続的に」
「広い面積を」
冷却し続けることが大事です。 https://t.co/ycLRbIGvGv
今日のまとめ!
✅熱中症・熱射病では、氷水につけるのが最も有効な体温低下の方法だが、3点冷却や霧吹きをしてクーラーの下に寝かせるなども迅速に実施してよい方法と思われる。