以下、論文紹介と解説です。
Dattel AR, et al. Face Mask Effects of CO2, Heart Rate, Respiration Rate, and Oxygen Saturation on Instructor Pilots. The Collegiate Aviation Review International 2020; 38:1.
インストラクターパイロット32人に対し、布製マスク・紙製マスクを装着してCO2、酸素濃度などの変化を測定した。
背景
■ COVID-19のパンデミックでは、ウイルスの蔓延を緩和するための新たな対策が求められている。
■ 保健機関、官公庁、大学からのガイドラインが普及している。
■ これらのガイドラインを遵守することは、飛行訓練においてこれ以上に重要なことはない。
目的
■ この研究では、5,000フィートまでの酸素濃度でフェイスマスクを着用した場合のCO2、心拍数、呼吸数、酸素飽和度へのフェイスマスクの影響を調査した。
方法
■ 32人のインストラクターパイロット( instructor pilot; IP)が研究へ参加すると申し出た。
■ IPは、布製マスクもしくは紙製マスクを着用しながら、基準気圧室内で90分間過ごした。
■ 参加者は、部屋に入る前、15分後、45分後、90分後に測定され、最終的な測定のために部屋を出た後にマスクを取り外した。
結果
■ マスクのタイプには違いはなかった。
■ マスクの着用は、IPにおける健康や安全上の潜在的な問題を示さなかった。
論文から引用。生理学的な指標におおきな変化なし。
■ しかし、IPは、マスクを着用することに対して、中程度の嫌悪感(例えば、快適さ、疲労、動きの制限)を報告した。
結論
■ マスクは不快かもしれないが、模擬高度5,000フィートでの健康や安全上の問題は生じていないようである。
スポンサーリンク(記事は下に続きます)
ユニバーサルマスクが感染拡大を防止するための効力を持つことは最近あきらかになりつつあり、普通の使用方法で低酸素を起こす可能性は極めて低いですが、『頭痛』『熱中症のリスク』『2歳未満へのマスク』などには配慮する必要があるでしょう。

■ なお、さらに長時間のデータとしては、『大手術をする外科医』に対する報告があります (Neurocirugia 2008; 19:121-6.)。わずかに酸素飽和度が下がるようですが、臨床的に問題になるような程度ではないと報告されています。もちろん、N95マスクをして激しい運動をするようなことは、呼吸抵抗が増える状況ですので難しいですよ(当たり前ですね)。
■ マスクと低酸素脳症は、まあ普通に考えてデマなのですが、大元の情報を探して見ると、『いかにもなサイト(ここでは提示しませんが海外のサイトです。日本語のサイトは大手っぽいサイトもふくめ、信憑性を評価するのも厳しい印象でした)』に突き当たりました。
■ 出典を提示してそれらしく書いてあるのですが、N95マスクなどの個人防護具を長時間装着すると頭痛が発生するという文献(Journal of Head and Face Pain 2020; 60:864-77.)を引用しつつ、文献では『長時間の装着による圧迫での頭痛』を論じているのに、『いかにもなサイト』では『低酸素で起こっていると考えられる』と解釈をすすめて、そのまま低酸素脳症(マスクで起こっているわけではない)に話題をすすめていく…という展開の記事でした。
■ もちろん、N95マスクをもって、ふつうのマスク(サージカルマスク)のハナシを進めていくことも難しいですが(ぜんぜん違うマスクです)、低酸素ではなく頭痛をテーマにしている文献をひっぱってきて低酸素の話題にもっていくという…文献の誤用ですよね。
■ なるほど、日本も海外も、こういう記事ってでているものなのだなあ…と考えてしまいました。
■ その『いかにもなサイト』には、2012年のシステマティックレビューが提示され『効果がない』としていました。その後、2017年のシステマティックレビューでは『有効だ』とされています。『まだ十分なデータがなかった時期のデータを持ち出す』のも、こういう手法があるのかなあと思いました。
■ とはいえ、マスクに関しては、新型コロナが流行する前までは十分な研究がなかったのが現状だったと思っています。
■ しかし、新型コロナが流行してから、研究が進み始め『ユニバーサルマスク』が有効であるとわかってきています。
■ 一方で、『マスクによる頭痛』『状況に応じた熱中症のリスク』『低年齢(特に2歳未満)における窒息』などには配慮する必要があります。
■ また、2m以上の間隔があればマスクを外してもよいという考えかたも、これからのマスク社会には必要だろうとも思います。
■ 当然、マスクは『不快』と感じる方も多いのです。マスクが不快と強く思う方は、『マスクが害』であったり『マスクをしなくても良い』という情報に頼りたくなるのかもしれないなあ…と考えた次第です。
今日のまとめ!
✅ マスクで低酸素脳症を起こす可能性は低いと考えられるものの、マスクを不快と感じる方が多いことも確かであり、熱中症や低年齢児に対する配慮などは必要だろうと思われる。

















