
Gerber JS, et al. Association of Broad- vs Narrow-Spectrum Antibiotics With Treatment Failure, Adverse Events, and Quality of Life in Children With Acute Respiratory Tract Infections. Jama 2017; 318:2325-36.
耐性菌の問題は、確実に大きくなってきています。
■ 抗生剤の不適切使用は、耐性菌(抗生剤の効果が乏しい菌)の増加につながり、将来の耐性菌による感染症のリスクが懸念されています。
vol.4 子どもの風邪対策から薬剤耐性を予防しよう ~知ろうAMR、考えようあなたのクスリ~
■ 多くの軽症感染症に対する抗菌薬の予防的な使用の必要性は低く、約7000人に一人程度、「治療可能な感染症」の発生を減らすくらいと推定されています。
■ さらに、抗生物質を使用しなければならないときでも、多くの場合は狭域抗生物質(例えばペニシリン)で十分であることがほとんどです。
■ 今回は、狭域抗生物質と広域抗生物質の使用に、治療結果や有害事象に差があったかを検討した報告を御紹介いたします。
小児の急性呼吸器感染症に対する治療として、狭域抗生物質と広域抗生物質を比較し、治療結果と有害事象を比較した。
重要性
■ 急性呼吸器感染症は小児における抗生物質曝露の大半を占め、急性呼吸器感染症に対して処方される広域抗生物質の使用が増加している。
■ しかし、広域抗生剤による治療が狭域抗生剤治療と比較して治療結果の改善と関連しているかどうかは不明である。
目的
■ 小児の急性呼吸器感染症に対する、広域および狭域抗生物質治療の有効性を比較する。
方法、セッティング、参加者
■ 2015年1月から2016年4月に、ペンシルバニア州とニュージャージー州の小児プライマリケアを行う31施設において、急性呼吸器感染と診断されて経口抗生物質を処方された6〜12歳の患児の臨床転帰を評価するレトロスペクティブコホートおよびプロスペクティブコホート研究。
■ 臨床医および患者の特徴によるそれぞれの交絡因子により、層別化およびpropensityスコアマッチング分析が両方のコホートに対して実施された。
曝露
■ 広域抗生物質と狭域抗生物質。
主要アウトカムと測定
■ レトロスペクティブコホートにおける主要アウトカムは、診断の14日後の治療失敗および有害事象であった。
■ プロスペクティブコホートでは、主要アウトカムは、QOL、他の患者中心のアウトカム、患者が報告した有害事象であった。
結果
■ レトロスペクティブコホートにおける30159人(急性中耳炎19179人、A群溶連菌咽頭炎6746人、急性副鼻腔炎4234人)のうち、4307(14%)が アモキシシリン - クラブラン酸塩、セファロスポリン、マクロライドを含む広域抗生物質が処方された。
■ 広域抗生物質による治療は、治療失敗率を低くしなかった(広域抗生物質3.4%、狭域抗生物質3.1%、full matched analysisによるリスク差 0.3%[95%CI、-0.4%~0.9 %])。
■ プロスペクティブコホートに組み入れられた2472人(急性中耳炎1100人、A群溶連菌咽頭炎705人、急性副鼻腔炎667人)のうち868人(35%)が広域抗生物質を処方されていた。
■ 広域抗生物質は、患児のQOLをわずかに悪化させた(広域抗生物質90.2点、狭域抗生物質91.5点、full matched analysisによるスコア差 -1.4%[95%CI、-2.4%〜 -0.4%])が、他の患者中心のアウトカムとは関連しなかった。
■ 広域抗生物質は、臨床医が報告した有害事象のリスクをより高くした(広域抗生物質3.7% vs 狭域抗生物質2.7% ; full matched analysisによるリスク差 1.1% [95% CI, 0.4% to 1.8%])。
■ また、広域抗生物質は、患者によって報告された有害事象とも関連していた(広域抗生物質35.6%、狭域抗生物質25.1%、full matched analysisによるリスク差 12.2%[95%CI、7.3%〜17.2%])。
結論と妥当性
■ 急性呼吸器感染症に罹患した小児に対する広域抗生物質は、狭域抗生物質と比較して、臨床的または患者中心のアウトカムと関連性がないうえ、有害事象の発生率が高かった。
■ これらのデータは、急性呼吸器感染症に罹患した大部分の小児に対し、狭域抗生物質を使用することを支持する。
結局、何がわかった?
✅一般的な小児呼吸器感染症(急性中耳炎、A群溶連菌咽頭炎、急性副鼻腔炎)の治療において、広域抗生物質(アモキシシリン - クラブラン酸塩、セファロスポリン、マクロライド)は、狭域抗生物質と治療結果に差はなく、有害事象は多くなった。
一般的な小児の呼吸器感染症に対する広域抗生物質は考えて使う必要性がある。
■ 一般的な感染症において、広域抗生剤は狭域抗生剤に治療効果で優るどころか副作用が多いとまとめられます。
■ もちろん、この検討で扱われた感染症が急性中耳炎、A群溶連菌咽頭炎、急性副鼻腔炎であったこともこの結果に影響しているとは思われますし、国・地域によっても耐性菌の状況は異なるため、全員にこのプラクティスがあてはまるとは言えないでしょう。
■ しかし、広域抗生物質を使う場合は考えて使うべきなのは、私が言うまでもなかろうかと思います。そのことを教えてくれる重要な研究結果と思います。
■ 広域抗生物質と狭域抗生物質を説明するのに、私はトランプゲームに例えることがあります。
■ 我々に与えられているトランプは上位のものから下位のものまで沢山あります。しかし、この先、このトランプに新しいものが加えられることはありません。感染症に勝ち抜くためにには、この札をどう効率よく使っていくかが大事です。
■ でも、もし他の人が、強い札ばかり先にだして、弱い札は全く出さないとすればどうでしょう? 弱い札ばかり残ってしまって、途中でゲームを投げ出してしまったら?
■ 「その人は、トランプが下手だ」と思いませんか? 残った札が弱い札ばかりでは勝負に負けてしまうでしょう。強い(広域)抗生物質を何も考えずに先に出していると、その先は負けが待っています。
■ ・・・まあ、あんまりうまい例えではないかもしれませんが、結構納得いただいています。
今日のまとめ!
✅小児の一般的な感染症に対する広域抗生物質使用は、狭域抗生物質に比較して、治療結果に差がないどころか有害事象を増やすリスクさえある。