【部分訳】皮膚は、アトピーマーチ予防のターゲットか?(第2回/全6回)~皮膚症状とアトピーマーチとの関係~

Lowe AJ, et al. The skin as a target for prevention of the atopic march. Annals of Allergy, Asthma & Immunology 2018; 120(2): 145-51.

アトピーマーチ予防を皮膚から、というコンセプトを述べたレビューの2回目。

■ 昨日、アトピーマーチの概念の紹介と、二重抗原曝露仮説からとらえるとアトピーマーチの端緒がアトピー性皮膚炎ではないかという説明がつくという、イントロダクションをご紹介しました。

【部分訳】皮膚は、アトピーマーチ予防のターゲットか?(第1回/全6回)~イントロダクション~

■ 今回は第2回目。皮膚がアトピーマーチの発症のきっかけになりうるかというテーマによる臨床研究の結果をご紹介いたします。なお、原文の一段落が長かったので、読みやすいようにいくつかに分けました。

 

皮膚からアトピーマーチに繋がるというエビデンスはあるか? 繋がるなら、本当に皮膚のバリア障害から起こっているのか? 皮膚症状が長くなるほど、アトピーマーチは始まりやすいか?

皮膚が、感作やその後のアレルギー疾患の発症起点になることはあるか?

■ アレルゲンへの感作は、アトピー性皮膚炎(Atopic dermtitis; AD)に関連した障害をうけた皮膚を介して起こることがあり、食物アレルギーおよび他のアレルギー疾患の発症リスクを増加させるとの仮説が立てられている。

■ 皮膚は、外部環境に対する非常に重要なバリアである。このバリアは最初(乳児期)はより透過性があり、年齢の増加とともにより有効性があがる。

■ 乳児期のバリア機能低下は、少なくとも部分的には角質層中のセラミド低値によるものであり、セラミド濃度は出生後数週間で増加する。

■ 湿疹皮膚はまた、セラミドの低下を特徴とする。

■ 症状のない皮膚でさえ、皮膚バリアはADにおいては損なわれている。生後1週間の皮膚バリア機能の障害は、家族歴およびフィラグリン(FLG)遺伝子変異の影響を考慮しても、生後12カ月までのADのリスク増加と関連している

■ 興味深いことに、2歳で食物アレルギーを発症した乳児では、生後2日には経表皮水分蒸散量の増加が検出される(管理人注;経皮水分蒸散量(TEWL)は、皮膚バリアの指標です)。

皮膚バリア障害は、生来の免疫活性化とも関連してアレルゲンおよび細菌などの無害な環境抗原に対する免疫応答不全をおこし、次いで望ましくない皮膚炎症につながり、アレルゲン感作につながる

■ これらの免疫応答の調節不全は、バリア機能をさらに障害し、それによって進行中の炎症や傷害のフィードバックサイクルが確立される

 

アレルゲン感作が皮膚バリアの障害によって起こり得るという概念を裏付けるデータが蓄積されている。

■ マウスの研究により、傷害された皮膚に、卵やピーナッツアレルゲンを曝露すると感作(特異的IgEおよびIgG1の増加)を誘導することが示されている。

■ マウスモデルでは、卵アレルゲンに対し皮膚を反復暴露すると、AD様の皮膚病変だけでなく、卵エアロゾル(微粒子)へ曝露した後の喘息様気道過敏症を誘発した。

■ 同様に、おむつかぶれのためにピーナッツ油を含有するクリームを使用すると、ピーナッツアレルギーのリスクが増加した

皮膚バリア機能を損ない、ADのリスクを増大させるFLG突然変異は、食物アレルギー、および喘息のリスクを増加させる

■ 総合的に考えると、アレルゲン感作やアレルギー疾患にむけたアトピーマーチの開始は、皮膚バリア機能障害およびADから始まることを示唆している。

■ さらに、環境中のピーナッツアレルゲンに対する曝露は、ピーナッツ感作および食物アレルギーのリスクが増加する。

家庭内で消費されるピーナッツの量は、家庭用粉塵および幼児用寝具におけるピーナッツアレルゲンのレベルと関連している。

■ 環境ピーナッツアレルゲンのレベルが高いほど、FLG変異またはADのある小児のピーナッツ感作およびアレルギーの危険性が増加するが、これらの危険因子のない小児ではそうでない。

■ 皮膚バリア機能が損なわれた(FLG突然変異またはADに起因する)小児に対し、環境中のピーナッツアレルゲンへの曝露が高まると、環境アレルゲンに対する感作が皮膚を介して生じることを強く示唆している。

 

アトピー性皮膚炎(AD)は新たに発症する食物感作のリスクを高めるというエビデンスがある。

■ ADを発症しているが食物感作を伴わない生後6ヶ月以内の乳児では、生後1〜2歳で新たに発症する食物および吸入アレルゲンへの感作リスクが高い。しかし、食物アレルギーを発症する大部分の児にはFLG変異がないことは注目に値する。

■ 最近、アレルギー性疾患の発症に及ぼすADの診断および重症度の年齢の影響が調査されており、生後1歳までのADは、生後12ヶ月での食物アレルギーの危険性が著しく増加する。

■ これらの関連は、生後3ヶ月までにADを発症し、ステロイド外用薬を必要とする乳児(管理人注;重症度が高いということを示唆)において特に強かった。実にこれらのうち50.8%が食物アレルギーだった(図1)。

図1。早期にアトピー性皮膚炎を発症し、ステロイド外用薬を必要とする(重症度が高い)アトピー性皮膚炎を発症した方が、食物アレルギー発症リスクが高い。

 

■ さらに、乳児期早期の発症(6ヶ月未満)や持続したADは、18歳までの喘息および鼻炎のリスクの増加と最も強く関連した。

早期発症と重症ADにおける、これらの強い関連は、早期に開始された場合に予防的治療が有効である可能性を強調している

 

結局、何がわかった?

 ✅生後早期の皮膚バリア障害があると、アトピー性皮膚炎の発症リスクが増加する。

 ✅皮膚バリア障害は、アレルゲンおよび細菌などの本来無害な環境抗原に対する免疫応答をおこし、次いで皮膚の炎症、アレルゲン感作につながる。

 ✅生後早期にアトピー性皮膚炎を発症し、ステロイド外用薬を必要とするような重症の湿疹を発症した乳児ほど、食物アレルギーの発症リスクが高い。

 ✅早期発症した重症アトピー性皮膚炎で他のアレルギー疾患との関連が強いことから、乳児期早期に治療を開始されると予防的治療となるかもしれない。

 

 

アトピー性皮膚炎が早期に発症するほど、重症であるほど、アトピーマーチが進行しやすくなるようだ。

■ アトピーマーチに関し、早期発症で重症であるとアレルゲン感作や他のアレルギー疾患のリスクをあげるという報告は、最近とても多く発表されています。

■ 早期治療が良いかどうかのランダム化比較試験は、今のところ結果はでていませんが、現在本邦で進行中であり、次回以降にご紹介いたします。

【部分訳】皮膚は、アトピーマーチ予防のターゲットか?(第3回/全6回)~保湿剤によるアトピー性皮膚炎予防研究~

 

 

今日のまとめ!

 ✅生後早期のアトピー性皮膚炎や湿疹は、早期に発症するほど、重症であるほど、感作や食物アレルギーのリスクになる。早期に加療を開始した方が良い可能性があるが、そのテーマの報告はまだない。

 

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