経皮免疫療法(EPIT)が注目されています。
■ EPITは皮膚にパッチを貼ることで、食物アレルギーを改善させようとする試みで、商用利用が目標にされています。
The epicutaneous immunotherapy company
■ とても有望な治療法ではありますが、当然限界もあります。JACIにとても分かりやすいレビューが掲載されていて、しかも全文がフリーで読めるので、おおむねの全文訳をしてご紹介いたします。
Katz Y, Goldberg MR. Is epicutaneous immunotherapy only skin deep? J Allergy Clin Immunol 2017; 139:1135-6.
ピーナッツアレルギーの増加と経口免疫療法(OIT)。
■ ピーナッツ食物アレルギーは、罹患率の増加、自然寛解率の低さ、比較的高い致命的な事故率のために、公衆衛生の重大な懸念事項であり、患者とその家族のQOLを大幅に低下させる。
■ ピーナッツにおける食物アレルギーの増加は、少なくとも部分的には医原性である。その増加は、ハイリスク群へのピーナッツ摂取開始を遅らせるという、以前の国際的な勧告によって強化された。最近、新しい勧告が公表されたが、その実施には大きなコストと実行する際の課題を提起している。
■ したがって、望まれている罹患率の減少より先に、罹患率は増えるかもしれない。
■ ピーナッツアレルギーに治療は、長年にわたり、除去と同時にアドレナリン自己注射器を所持することが唯一の選択肢であり、スタンダードである。しかし、細心の注意を払っても、しばしば生命を脅かす可能性のある反応が起こる。
■ 2005年以降、様々なプロトコールを用いた、多数のピーナッツ経口免疫療法(OIT)の論文が発表されている。
■ ピーナッツOITは、高率に(70%〜85%)脱感作を誘導できる。脱感作は、自由にピーナッツ摂取をしても安全であると考えられるピーナッツタンパク質を摂取できる能力と定義される。
OITを最適化するためには、いくつかの問題がある。
■ 第一に、治療中や脱感作に達した後でさえ有害事象(AE)率が無視できない。AEの大部分は軽症であり、これらのAEの頻度は時間と共に減少するが、アドレナリンの使用を必要とする重篤な反応は起こり得る。
■ 第二に、治療が成功した患者の多くはsustained desensitization(持続性脱感作)を獲得してはいない。ピーナッツを定期的に摂取しなくなると、反応の閾値は徐々に低下する。
■ 第三に、治療自体が長期間であり、実施コストも高く、漸増段階での医療的な管理が必要である。
■ 最後に、脱感作状態に関与する免疫機構は完全には解明されておらず、特定されている検査でさえ一時的である傾向があり、必ずしも臨床的反応と対応しない。
Jonesらは、新規の免疫療法形態であるepicutaneous immunotherapy(EPIT)を用いた多施設試験の結果を報告した。
ピーナッツ経皮的免疫療法(EPIT)は有効である: ランダム化比較試験
■ EPITは、経口経路または舌下経路を通してではなく、抗原の経皮輸送に基づく。
■ 今回の研究では、ピーナッツアレルギーのある小児および若年成人における、Viaskin Peanut(VP; DBV Technologies、France、Montrouge)をプラセボと比較した。
■ プライマリエンドポイントは、52週間の治療終了時に、摂取された用量が試験開始時より10倍増加するかどうかだった。
■ このエンドポイントは、VP100群およびVP250群のそれぞれ45.8%および48.0%で達成されたが、プラセボ群では12%のみであった。
■ しかし、厳密な定義を用いたpost-hoc解析では、治療された患者の15%未満しか、試験開始時の用量の10倍の増加(少なくとも1044mgのピーナッツタンパク質を摂取できる)を示していなかった。
■ さらに、11歳以上の参加者は、いずれの基準についても治療が成功していなかった。
EPITの限界にもかかわらず、この調査からは、いくつかの有望なメッセージがある。
■ 第一に、AEは極めて少なく、ほとんどが軽症であり、局所的なかゆみだった。また、少数の参加者であるためかもしれないが、アナフィラキシー様の胃腸関連AEは記録されなかった。
■ 第二に、少なくとも小児においては、ピーナッツに対する反応閾値が有意に増加した。 VP免疫療法によって達成されたAEの少なさは、ピーナッツが混入した製品の不注意な接触または消費によるピーナッツアレルギーの子どもたちに対して、ある程度の安心感を与えるかもしれない。 それによって、ピーナッツアレルギー児と家族をともに、社会生活を改善するかもしれない。
■ 第三に、比較的軽度で忍容性のある局所的副作用のために、VP免疫療法は治療へのアドヒアランスが高かった。
■ 最後に、ピーナッツタンパク質特異的IgG4およびIgG4 / IgE比の上昇および、治療中にTh2および好塩基球反応の低下するといった、VPによって誘導される免疫学的変化のいくつかは、経口OITで観察される現象と類似していた。
■ EPITがアナフィラキシーを防ぐというマウスモデルは、脱感作のメカニズムをさらに解明するためのモデルを提供している。
EPITの主要なlimitationは、そのベネフィットが低年齢層に限られていることである。
■ 例えば、低年齢群では、OITはAEが比較的低率で高い完全脱感作率を達成することが実証されている。
■ 比較的高い年齢の患者では、オマリズマブの併用により、AEの問題を最小限に抑え、治療プロトコールを加速することができる。
■ あるいは、舌下免疫療法により、摂取量がより少なく使用することができる。
■ 好酸球性食道炎は治療を中止することで改善できる。
■ Table Iは、様々な食物免疫療法が、それらの長所と短所の概要を明らかにするために定性的に比較している。
Table1(論文から引用)。11歳で分類して、OIT、SLIT、EPIT(VP)の違いを示している。
■ 検体サイズ、調査した患者の特徴(例、年齢、リクルート基準、除外基準)の違い、および一対一比較の不足のために、我々は様々なOIT治療の各パラメータの頻度を推定した。
EPITのメリットを考える前に、いくつかの未解決の疑問に答える必要がある。
パッチにしみこませたアレルゲンの用量を高くすると、副作用の頻度が増えたり重症化することなく、さらなる利益が得られるだろうか?
■ VP250がVP100に勝る利点を認めなかったため、今回の研究に基づくと、この質問に対する答えは、おそらくnoである。
若年の参加者では、介入期間が長くなるほど摂取できる量が多くなり、比較的高い年齢の患者にはさらに大きな効果をもたらす可能性があるだろうか?
■ この質問には明確な答えはないが、比較的高い年齢の参加者であっても、改善傾向にあった(Jonesらの論文の図2B参照)。
■ OITで持続的達成が良好であっても、EPITの長期間にわたるコンプライアンス率が高いことは、この治療法を支持するかもしれない。
■ しかし、長期的なパッチのアドヒアランスが問題となる場合は、より高年齢群での使用が制限される。
■ 最後に、EPIT対OITのコスト/便益比を評価する必要がある。
■ オマリズマブを用いたOITの主な欠点はコストが高いことであり、予想されるEPITの長期的コストとの比較を評価する必要がある。
EPITには制約があるにもかかわらず、ピーナッツアレルギー治療の発展における、武器の重要な追加であることは明らかである。
■ この治療法はOITと同等のレベルには達しないかもしれないが、重篤なピーナッツアレルギーの患者に許容可能な閾値を上げるための初期治療法として、確かに可能性がある。
■ これは実際に偶発的な曝露に起因するアナフィラキシーを避けることにより、命を救うことができるかもしれない。また、OITのようなその後の免疫療法プログラムへの導入を可能にするかもしれない。
結局、何がわかった?
✅経口免疫療法(OIT)には、いくつかの問題がある。摂取による有害事象(AE)、定期的な摂取を中断した後の、閾値の低下、治療自体が長期間、実施コストが高い、漸増段階での医療的な管理が必要などである。
✅経皮免疫療法(EPIT)は、4割以上のピーナッツアレルギー患者で閾値の上昇を認めたが、11歳以上では効果はなかった。しかし、有害事象は少なくアドヒアランスが高いというメリットもある。
✅EPITはOITほどの効果はないかもしれないが、初期導入に有用性があるかもしれない。
EPITの限界と有用性に関しての優れたレビューと思います。
■ 私は、OITもEPITも重要な免疫療法と思っています。
■ とくに、EPITの安全性や簡便性は他の治療にないものでしょう。また、「維持」のためにも有用な可能性があります。
■ しかし、「最後まで治療を完遂するための治療ではない」ことも承知するべきかと思います。
今日のまとめ!
✅経皮免疫療法(EPIT)と経口免疫療法(OIT)は、それぞれ長所と短所がある。
✅EPITのみで食物アレルギーの治療を完遂することは難しいようではあるが、導入時や維持に有用性が高いと思われる。