Tran MM, et al. Predicting the atopic march: Results from the Canadian Healthy Infant Longitudinal Development Study. J Allergy Clin Immunol 2017.[Epub ahead of print]
アトピー性皮膚炎は、アトピーマーチの起点になりやすいことが報告されています。
■ アトピーマーチとは、「アトピー素因のある人に、アレルギー性疾患が次から次へと発症してくる様子」をマーチ(行進曲)に例えたものです。
■ 経皮感作の概念が教科書的になってくるにつれ、アトピー性皮膚炎がそのマーチの最初になることが報告されるようになりました。
■ そして、アトピー性皮膚炎が年少時に発症するほど、期間が長くなるほど、重症度が高くなるほど、その先のアレルギー疾患の発症リスクが高くなることが、様々なコホート研究で明らかとなりました。
■ では、アトピー性皮膚炎を発症したとして、感作するかしないかで、その先の発症リスクに影響するのでしょうか?
カナダにおける出生コホート研究に参加した2311人に対し、1歳時点での感作と3歳時点でのアレルギー疾患の発症リスクの関連を調査した。
背景
■ アトピー・マーチは、幼児期のアトピー性皮膚炎から、幼少期の喘息およびアレルギー性鼻炎への進行を説明する。
■ カナダの出生コホートにより、アレルギー感作が併発すると、3歳におけるアレルギー疾患の発症を促進するかどうかを調査した。
方法
■ 参加者は1歳で皮膚プリックテストを実施された。
■ 10種類の吸入または食物アレルゲンのいずれかに対して陰性コントロールによりも2mm以上径が大きい場合、感作と判断した。
■ 参加者はまた、UK Working Partyの診断基準を用いてアトピー性皮膚炎を評価された。
■ そして、3歳時点で、喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎の評価を受けた。
■ 結果として、2311人のデータが利用可能だった。
結果
■ アトピー性皮膚炎でもアレルギー感作を伴わない場合、一般的な交絡因子で調整した後、3歳時点での喘息リスク上昇と関連していなかった(相対リスク[RR]、0.46; 95%CI、0.11-1.93)。
■ 逆に、アレルギー感作しているアトピー性皮膚炎では、喘息のリスクが7倍以上に上昇した(RR、7.04; 95%CI、4.13-11.99)。
■ アトピー性皮膚炎やアレルギー感作は、付加的(相互作用による相対的超過リスク 5.06; 95%CI、1.33-11.04)および乗法的(RR比 5.80; 95%CI、1.20-27.83)に喘息リスクが増加した。
■ アトピー性皮膚炎とアレルギー感作には食物アレルギーリスクに対し、正の付加的な相互作用があった(相互作用による相対的過度リスク 15.11; 95%CI、4.19-35.36)。
論文から引用。1歳時点で感作がなければ、アトピー性皮膚炎があってもぜん息・鼻炎・食物アレルギーのリスクはほとんど上がらない。
結論
■ アトピー性皮膚炎にアレルギー感作を伴わない場合、喘息のリスク増加とは関連していなかった。
■ アトピー性皮膚炎およびアレルギー感作は、3歳における喘息や食物アレルギーの両方のリスク増加に強く影響した。
結局、何がわかった?
✅ アトピー性皮膚炎でもアレルギー感作を伴わなければ、3歳時の喘息リスクは上昇しない(相対リスク[RR]、0.46; 95%CI、0.11-1.93)。
✅ 感作しているアトピー性皮膚炎では、喘息のリスクが7倍以上に上昇した(RR、7.04; 95%CI、4.13-11.99)。
小児期のアトピー性皮膚炎に対する治療介入は、タイトに(厳しく)行うか、ゆるく行うか?
■ アトピー性皮膚炎など、アレルギー疾患を発症した時期に感作が大きく進むことは、最近コホート研究で明らかにされました。
■ 確かに、小児期のアトピー性皮膚炎は自然寛解のある疾患です。しかし、成人まで持ち越すと、明らかに寛解はのぞみにくくなるという報告もあります。
■ しかも、感作が始まる前に治療できれば、今回の報告のように、他のアレルギー疾患の発症リスクを下げられる可能性が指摘されています。
■ 三段論法的な考えですので、この考えを証明するにはランダム化比較試験を要すると思います。私は、小児期、とくに年少時のアトピー性皮膚炎にはタイトコントロール(きっちり治療)が原則だと思っています。
■ しかし、「ステロイドがいや」「スキンケアは面倒」という考えもあるでしょう。中途半端なスキンケアしかしていただけない場合は、逆にステロイド外用薬をプロアクティブ(しっかり使用してからゆっくり使用間隔をのばす)には使いません。おそらくステロイド外用薬の不利益が大きくなるからです。しかし、そうして経過をみていると、ほとんどの方が、感作が大きく進みます。そして、その後の喘息や食物アレルギーの治療に難渋することになります。
■ 私は、「ステロイドを使わない治療」に関し、否定する気はありません。アトピー性皮膚炎が自然寛解傾向がある以上、選択肢にはなりえます。しかし、その他のアレルギー疾患を次々の発症することを経験して、さらにこれらのデータが明らかになってきている以上、「ステロイド外用薬の副作用を最小限にしながら」、アトピー性皮膚炎の治療にあたった方が、子どもたちの将来へ落とす影がすくないと思っています。
今日のまとめ!
✅アトピー性皮膚炎を発症しても、感作がなければ、他のアレルギー疾患発症リスクは低く、一方で感作が進むと他のアレルギー疾患の発症リスクが大きく上昇する。