Lack G, et al. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. The New England journal of medicine 2003; 348(11): 977-85.
アレルギー専門医の中では有名な論文で、いまだに引用されることの多い報告。
■ 「経皮感作」は、教科書的な用語になりました。
■ 経皮感作が脚光を浴びたのは、今回ご紹介する論文の筆頭著者であるLack先生が提唱された「二重抗原曝露仮説」からでしょう(Lack G. Epidemiologic risks for food allergy. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2008; 121:1331-6. )。
■ そして、今回は少し古い報告になりますが、経皮感作の鏑矢になった疫学研究です。
コホート研究に参加した乳幼児13971人に関するピーナッツアレルギーの発症リスクを検討した。
背景
■ 近年、ピーナッツアレルギーの罹患率が増加しているようにみえる。
■ ピーナッツアレルギーの家族歴やアトピーの存在以外に、既知の危険因子がなかった。
方法
■ 地理的に限定されたコホート研究であるAvon Longitudinal Study of Parents and Childrenのデータ(就学前児13971人)を使用し、ピーナッツアレルギーにおける説得力のある既往歴と二重盲検ピーナッツ負荷試験に陽性だったサブグループを特定した。
■ 最初に、コホートに関する全データを前向きに収集し、ピーナッツに反応歴がある小児、そして、対照(コホートからの無作為サンプルと、母に湿疹の既往歴があり、生後6ヶ月に児自身に湿疹ががあった小児)の2群から、小児の両親からの面接によりレトロスペクティブに詳細な情報を集めた。
結果
■ 49人にピーナッツアレルギーの既往歴があった。
■ ピーナッツアレルギーは、ピーナッツ負荷試験を実施した36人の23人で確認された。
■ 母の食事からの出生前からの感作の証拠はなかった。また、ピーナッツ特異的IgE抗体価は臍帯血から検出できなかった。
■ ピーナッツアレルギーのリスク因子は、豆乳または大豆配合粉ミルクの摂取(オッズ比2.6、95%信頼区間1.3〜5.2)、関節および皮膚のしわの湿疹(オッズ比2.6、95%信頼区間1.4〜5.0) 、出血性・痂皮性発疹(odds ratio、5.2; 95%信頼区間、2.7〜10.2)で有意だった。
論文から引用。湿疹があるとピーナッツアレルギーが多い。
■ 面接データの解析は、ピーナッツオイルを含有するスキンケア用品の使用(オッズ比、6.8; 95%信頼区間、1.4〜32.9)とピーナッツアレルギーに独立した有意な関連を示した。
論文から引用。ピーナッツオイルを塗布していると、ピーナッツアレルギーのリスクが高い。
結論
■ ピーナッツ蛋白質に対する感作は、ピーナッツオイルを炎症を起こした皮膚に塗るすることによって小児に惹起される可能性がある。
■ 大豆蛋白質との関連は、共通のエピトープによる交差性の感作から生じる可能性がある。
■ 将来の研究でこれらの危険因子が確認されれば、その後のピーナッツアレルギーの危険性がある乳児の感作を予防するための新しい戦略につながる可能性がある。
結局、何がわかった?
✅乳児期のピーナッツオイルを含むスキンケア用品の使用は、ピーナッツアレルギーの発症リスクを6.8倍にし、湿疹も有意なリスク因子となる。
経皮感作における疫学研究として金字塔といえる研究でしょう。
■ この研究は後日、やはりLack先生らのグループによる疫学研究で、証明されることになります。
■ さらに、二重抗原曝露仮説のもう一つのルートの「経口免疫寛容」に関し、やはりLack先生らのグループが、イスラエルに住むユダヤ人と英国に住むユダヤ人のピーナッツアレルギーが、早期に離乳食導入するイスラエルで1/10であるという報告(Du Toit G, et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J Allergy Clin Immunol 2008; 122:984-91.)により注目されることになります。
■ そして、やはりその後、介入研究(LEAP試験)で証明されました。
■ Lack先生のすごいところは、疫学的に推論された結果を臨床研究で証明し、さらに基礎研究でも裏付けしていくという一連の検討を長い時間をかけて証明されておられるところです。正にアレルギー界の巨人のお一人といえましょう。
■ 以前、私はLack先生と同じセッションで講演したことがあります。そのジェントルな雰囲気に一発でファンになりました。第一線級の先生は、人間的にも素晴らしい先生が多いと思っています。
■ だからではありませんが、ここ15年以上にわたる経皮感作と経口免疫寛容の一連の研究を読むにつけ、Lack先生がその中心となって丁寧に証明された過程の最初にある研究結果を、さらに感動して拝見することができます。
今日のまとめ!
✅湿疹のある児にピーナッツオイルを塗ると、ピーナッツアレルギーの発症リスクになるかもしれない。