以下、論文紹介と解説です。

Ramakrishnan S, et al. Inhaled budesonide in the treatment of early COVID-19 (STOIC): a phase 2, open-label, randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600(21)00160-0. doi: 10.1016/S2213-2600(21)00160-0. Epub ahead of print. Erratum in: Lancet Respir Med. 2021 Apr 14;: PMID: 33844996; PMCID: PMC8040526.

新型コロナの軽症の症状を発症してから7日以内の成人146人を、通常ケア群、ブデソニド群(1回400μg1日2回)にランダム化し、新型コロナによる緊急医療機関への受診率などを比較した。

背景

■ COVID-19を発症して入院した患者に関する初期の複数の報告によると、慢性呼吸器疾患の患者がこれらの集団では有意に少ないことが示された。

■ そこで、これらの患者において吸入ステロイドが広く使用されていることがこの知見の要因と仮定し、吸入ステロイドがCOVID-19の初期治療に有効であるかどうかを検証した。

 

方法

軽症のCOVID-19症状が発現してから7日以内の成人を対象に、吸入ブデソニドを通常の治療と比較する非盲検並行群間第2フェーズランダム化対照試験(Steroids in COVID-19; STOIC)を実施した。

■ 本試験は、英国オックスフォードシャー州で実施された。

■ 参加者は、年齢(40歳以下、40歳以上)、性別(男性、女性)、合併症の数(1以下、2以上)で層別化され、ブデソニド吸入群と通常ケア群にランダム化された。

■ ランダム化は、ランダムシーケンス生成を用いたブロックランダム化であり、1:1比で行われた。

■ ブデソニドドライパウダーは、ターボ式吸入器を用いて、1回吸入につき400μgを投与された。

■ 参加者は、症状が軽快するまで1日2回、2回吸入を行うよう求められた。

主要評価項目は、COVID-19に関連した緊急医療機関への受診(救急部への受診や入院を含む)であり、per-protocol集団とintention-to-treat(ITT)集団の両方について解析した。

■ 副次評価項目は、自己申告による臨床的軽快(症状の消失)、Common Cold Questionnare(CCQ)およびInFLUenza Patient Reported Outcome Questionnaire(FLUPro)を用いて測定したウイルスによる症状、体温、血中酸素飽和度、SARS-CoV-2ウイルス量だった。

■ 本試験は、独立した統計的検討の結果、参加者を増やしても試験結果は変わらないと判断され、早期に中止された。

■ この試験は,ClinicalTrials.gov(NCT04416399)に登録されている。

 

調査結果

■ 2020年7月16日から12月9日にかけて、167人がリクルートされ、適格性が評価された。

■ 21人が適格性基準を満たさず、除外された。

146人をランダム化そ、73人を通常ケア群に、73人をブデソニド群に割り付けた。

■ per-protocol集団(n=139)では、主要評価項目(COVID-19に関連した緊急医療機関への受診)は通常ケア群では70人中10人(14%)、ブデソニド群では69人中1人(1%)に起こった(割合の差 0.131; 95%CI 0.043~0.218; p=0.004)。

■ ITT集団では、主要評価項目は、通常ケア群で11人(15%)、ブデソニド群で2人(3%)に発生した(割合の差0.123; 95%CI 0.033~0.213; p=0.009)

■ COVID-19による増悪を抑制するための吸入ブデソニドによる治療の必要数は 8人だった。

ブデソニド群では、通常ケア群に比べて臨床的回復が1日短かった(中央値でブデソニド群7日[95% CI 6~9]、通常ケア群 8 日 [7~11]; log-rank 検定 p=0.007)

論文より引用。主要評価項目のper-protocol集団における臨床的軽快までの期間。

■ 最初の14日間に発熱した日数の率の平均は、ブデソニド群(2%; SD 6)が通常ケア群(8%; SD 18;Wilcoxon test p=0.051)よりも低く、1日以上の発熱があった参加者の率は、通常ケア群と比較してブデソニド群で低かった。

論文より引用。ブデソニド群と通常ケア群における最高体温のバイオリンプロット図。

■ ブデソニド投与群では、必要に応じて解熱剤を投与する必要があった日数が、通常のケアを受けた群に比べて少なかった(27%[IQR 0.50] vs 50%[15~71]; p=0.025)。

ブデソニド投与群では、通常のケア群に比べて、14日目と28日目に症状が持続した患者が少なかった(割合の差 0.204; 95%CI 0.075~0-334; p=0.003)

■ CCQおよびFLUProの14日間の総スコア変化の平均は、通常ケア群に比べてブデソニド群で有意に良好だった(CCQ平均差 -0.12; 95%CI -0.21~-0.02[p=0.016]、FLUPro平均差-0.10; 95%CI -0.21~-0.00[p=0.044]).

論文より引用。FLUProアンケートを用いた14日間の平均。(A)症状全体、(B) 全身症状、(C)鼻の症状、(D)喉の症状、(E) 胸部の症状、( F)目の症状、(G)胃腸症状。

■ 血中酸素飽和度やサイクル閾値で測定したSARS-CoV-2負荷量は、両群間で差がなかった。

■ ブデソニドの安全性は高く、self-limitな有害事象を報告したのは5人(7%)のみだった。

 

解釈

■ 吸入ブデソニドの早期投与は、初期のCOVID-19における緊急医療を必要とする可能性を低減し、回復までの時間を短縮した。

 

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吸入ステロイド薬をCOVID-19に適応するかどうかは、保険適応のない段階でもあり個々の医師の判断にまかせるしかないように思われる。

■ シクレソニドではむしろ肺炎増悪率が高く、ブデソニドでは悪化が減った理由に関しては、Discussionには触れられていませんでした。

■ 現在、新型コロナ感染症における吸入ブデソニドの効果に関しては、非盲検試験(ISRCTN86534580、NCT04355637、NCT04331054)が実施中です。

■ さらに。吸入シクレソニドの効果を検討している他の試験(NCT04330586、NCT04377711、NCT04381364、NCT04356495)も進行中ですので、結果を待つ必要性があります。

■ 現状では、どのように扱うかは難しい判断ですが、すくなくともブデソニド吸入薬の保険適用は喘息に限られています。

■ つまり、自費でつかうかどうかはそれぞれの医師の判断と言えるだろうと思います。

■ そして、本当に現在必要な喘息患者さんの吸入ステロイドが不足する事態になってはいけませんし、シクレソニドのように逆の結果も今後報告される可能性もあります。

■ この結果に飛びつくのは尚早で、もうすこし他の研究結果がそろうのを待ったほうがいいのかもしれません。

 

今日のまとめ!

 ✅ 新型コロナ感染初期からのブデソニド吸入が、増悪を減らしたり改善までの期間を短縮する可能性はあるものの、まだ結論は急げないかもしれない。

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