以下、論文紹介と解説です。

Martinez MW, et al. Prevalence of Inflammatory Heart Disease Among Professional Athletes With Prior COVID-19 Infection Who Received Systematic Return-to-Play Cardiac Screening. JAMA Cardiol 2021; 6:745-52.

新型コロナに感染した既往のあるプロスポーツ選手789名に、検査で検出可能な炎症性心疾患の有病率を評価した。

重要性

■ 北米の主要なプロスポーツリーグは、新型コロナウイルス(coronavirus disease 2019; COVID-19)のパンデミックの際に、いち早く本格的なスポーツ活動を回復させた。

■ スポーツ選手のCOVID-19感染後の有害な心臓後遺症の発生率が不明であることから、これらのリーグは、COVID-19の検査で陽性となったすべてのスポーツ選手に対して、American College of Cardiologyの推奨に沿った保守的なReturn-to-Play(RTP)心臓検査プログラムを実施した。

 

目的

■ COVID-19に感染したことのあるプロスポーツ選手における検出可能な炎症性心疾患の有病率を、現行のRTPスクリーニングの推奨事項を用いて評価する。

 

試験デザイン、セッティング、参加者

■ この横断研究では、COVID-19が陽性であったプロスポーツ選手に対して2020年5月から10月の間に実施されたRTP心臓検査を概観した。

■ プロスポーツリーグ(メジャーリーグサッカー、メジャーリーグベースボール、ナショナルホッケーリーグ、ナショナルフットボールリーグ、男女ナショナルバスケットボール協会)は、COVID-19の検査で陽性となったすべての選手に対し、チームが主催するスポーツ活動を再開する前に、心臓検査の義務化を実施した。

 

暴露

■ COVID-19検査で陽性となった後、トロポニン検査、心電図検査、安静時心エコー検査を実施した。

■ リーグ間で、盲検化された心臓データをプールし集団分析を行った。

■ スクリーニング検査の結果が異常であった者は、心臓磁気共鳴画像法や負荷心電図法などの追加検査を受けた。

 

主な結果と測定方法

■ COVID-19関連の心筋梗塞の可能性があるRTP検査結果の異常の有病率、初回のスクリーニングで生じた追加検査の結果と検査。

 

結果

■ プロスポーツ選手789名(平均[SD]年齢25[3]歳、男性777名[98.5%])を対象とした。

■ 460名(58.3%)が症候のあるCOVID-19の既往があり,329名(41.7%)は無症候性またはpaucisymptomatic(最小限の症状)だった。

■ 検査は、(COVID-19の)検査が陽性になってから平均(SD)19(17)日(範囲 3~156日)後に実施された。

30名(3.8%)の選手にスクリーニング結果の異常が認められ( トロポニン 6名[0.8%]、心電図 10名[1.3%]、心エコー 20名[2.5%])、追加の検査が必要となった

最終的に5名(0.6%)の選手に、炎症性心疾患を示唆する心臓磁気共鳴画像の所見が認められ(心筋炎 3名、心膜炎 2名)、プレーを制限することになった

論文より引用。

■ 心臓スクリーニングを受け、プロスポーツへの参加を再開した選手には、心臓に関わる有害事象は発生しなかった。

 

結論と妥当性

■ 本研究では、現行のRTPスクリーニングの推奨事項を実施することで、関連するCOVID-19関連の心疾患の有病率を評価する大規模データを提供した。

■ 長期的な追跡調査は継続中であるが、炎症性心疾患の症例はほとんど検出されておらず、これまでのところプロスポーツ活動への安全な復帰が達成されている。

 

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新型コロナに罹ること自体が、心筋炎・心膜炎を起こすリスクとなる。そのリスクはmRNAワクチンによる心筋炎・心膜炎のリスクの1000倍程度にもなるかもしれない。

■ 友人からの情報で、シンガポール保健省はmRNAワクチン接種後1週間の激しい運動を避けるようにガイドラインを更新しています。

シンガポール保健省のページから引用。

■ この方法が正しい方法かどうかの根拠ははっきりはしませんが、接種後数日間での心筋炎や心膜炎のリスクがあることから、そのような安全策が取られているのだろうと思われます。

■ 一方で、このリスクは決して高くはなく、最近の研究でも主に2回目の接種後数日以内に若い男性に発症し、その発生率は100万人あたり約4.8例(Myocarditis and Pericarditis After Vaccination for COVID-19. JAMA 2021)や、12~39歳の2回目のmRNAワクチン100万回接種あたり約12.6件(Circulation 2021; 144:471-84.)となっています。

 

■ しかし実際に新型コロナに罹患した場合の心筋炎・心膜炎のリスクはより高いと考えられます。

■ 本研究でも、0.6%に発生してプロリーグに戻る制限がかけられていますし、別の報告でも新型コロナ感染後にスクリーニングを受けた米国の競技スポーツ選手1597名を対象としたコホート研究で2.3%の選手が心筋炎と診断されています(Prevalence of Clinical and Subclinical Myocarditis in Competitive Athletes With Recent SARS-CoV-2 Infection: Results From the Big Ten COVID-19 Cardiac Registry. JAMA Cardiol 2021)。

■ すなわち、100万人中でいえば(ワクチンを接種して心筋炎・心膜炎を起こしやすい年齢・性別対象に偏っていることを鑑みたとしても)6000人から23000人が発症する可能性があるということです(もちろん、同じ群を比較したわけではないので、この比較はざっくりのイメージになることはご了解ください)。

 

■ 現状までの結果では、心筋炎や心膜炎の心配からワクチン接種をさけるのは合理的ではないと思われます。

■ 一方で、接種後の一定期間、運動制限なども考慮したほうがいいのかもしれません。

■ これは専門家の考えなどをお伺いしたいところです。

 

■ 個人的には、12歳以降のワクチン接種はメリットがデメリットを上回るというCDCの推奨を推していますが、すくなくとも成人のワクチン接種をすすめたあと、状況を鑑みて小児のワクチン接種率を上げていくというのが筋のように思います。

■ こどもを大人が守るのが、正道だと考えているからです。

 

今日のまとめ!

 ✅ 新型コロナによっても心筋炎・心膜炎のリスクはあり、米国のプロリーグ選手を対象にしたところ、0.6%にプレーの制限がかけられた。

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