生物学的製剤による難治性喘息治療のパラダイムシフト~喘息の置かれた背景 (第1回/全3回)

Katial RK, et al. Changing Paradigms in the Treatment of Severe Asthma: The Role of Biologic Therapies. J Allergy Clin Immunol Pract 2017; 5:S1-s14.

 アレルギー領域にも生物学的製剤の波が訪れようとしています。

■ 当ブログはすでに400本以上の論文や話題を紹介してきました。

■ これまで炎上することもなく穏やかに成長してきているブログではありますが、その中でも比較的アクセス数が多いのが、生物学的製剤に関する話題です。

デュピルマブはアトピー性皮膚炎に有効か?:メタアナリシス

オマリズマブ(ゾレア)はアトピー性皮膚炎に効果があるか?:システマティックレビュー&メタアナリシス

ヌーカラは、好酸球性重症喘息による入院率を約半分にする: メタアナリシス

ネモリズマブ(IL-31受容体抗体)は、アトピー性皮膚炎に効果があるか?:ランダム化比較試験

■ 生物学的製剤に関して、私は極めて限られた経験しか持っていないのですが、この波に関する知識はUPDATEしておくべきと思っていますし、このブログへのアクセスもそのように思っていらっしゃる方が多いのかもしれません。

■ 今回ご紹介する論文は、まさにパラダイムシフトが訪れようとしているアレルギー治療のうち、喘息に関する生物学的製剤を解説したレビューです。すでに全文がフリーでアクセスできるようになっています。

■ ほぼ全体を読んだのですが、一部を端折りながら3回に分けてご紹介したいと思います。

 

 難治性喘息の疫学と病態生理。

背景

■ サイトカインアンタゴニストは、難治性喘息に対する新たな治療選択肢を提供するモノクローナル抗体である。しかし、ある特定の喘息サブタイプの患者にのみ有効であるため、複雑さが増している。

■ 難治性喘息の臨床および炎症の不均一性は、疾患の管理と特定の患者に適した生物学的治療を決定することを困難にする。このレビューの目的は、難治性喘息患者の生物学的治療の使用方法を明確にするためのデータによるディスカッションの場を提供することにある。

■ まず、難治性喘息の疫学と病態生理についてディスカッションする。

■ 次に、好酸球性またはタイプ2喘息のバイオマーカーに関する現在のエビデンスを理解し、臨床医が特定の喘息フェノタイプにおけるその有効性を、知識に基づいて患者の治療法を決定できるようにする。

■ さらに、承認された生物学的治療法の有効性、安全性、および作用機序に関する臨床データを評価する。

■ そして、難治性喘息の潜在的なフェノタイプやエンドタイプを議論し、難治性喘息の患者の治療において生物学的療法がどのように役割を果たすことができるのかについて、結論を出したい。

 

難治性喘息患者の特定

■ 重症喘息、難治性喘息、重症難治性喘息、難治/治療抵抗性の喘息、治療困難な喘息、コントロール不良喘息といった多くの用語によってコントロール不良喘息を示している。これらの用語の定義は、しばしば重複するが、必ずしも同じ患者集団ではない。

■ 2000年のATS Workshopでは、5%未満の喘息患者は良好な喘息コントロールを維持するために薬物療法多く必要とするか、薬物療法を多く使用しても持続性の症状もしくは増悪・気道閉塞を呈すると推定している。

■ さらに、前年の入院と挿管既往歴を考慮すると、コントロール不良の喘息の成人と小児は医療受診を要する可能性が有意に高い(Am J Respir Crit Care Med。2012 ; 185:356-362)。

 

喘息の不均一性

■ 臨床的には、症状、呼吸機能、気管の構造、気道過敏性、炎症の程度と種類、増悪の感受性、ステロイドに対する反応性の点で患者間に差がある。

■ 過去50年間で利用できるようになった新しい治療法に関係なく、メルボルン喘息研究(1964年から始まった長期のコホート研究)は気道閉塞(FEV1)が生涯を通じて持続することを報告した(J Allergy Clin Immunol。2002 ; 109:189-194)。

■ 最近報告された難治性喘息におけるクラスター分析は、臨床症状における喘息の不均一性を強調した(Am J Respir Crit Care Med.2008 ; 178:218-224)(J Allergy Clin Immunol. 2014 ; 133:1549-1556)()PLoS One.2014 ; 9:e102987。

■ 重篤な喘息がフェノタイプ的に類似しているかもしれないが、全身性ステロイドに対する不均一な反応があることがあるとすれば、基礎となるエンドタイプは、臨床医が全身ステロイドをステップアップすることから利益を得る人を特定することを助けることを理解することになる。

 

難治性喘息の悪化リスクの予測因子

■ Severe Asthma Research Programによる最近の研究は、好酸球、気管支拡張薬の反応性、BMI、慢性副鼻腔炎、胃食道逆流症が増悪を起こしやすい喘息と関連することを報告した(Am J Respir Crit Care Med。2017 ; 195:302-313)。

 

難治性喘息における免疫応答の要素

■ 難治性喘息はステロイド治療に対する絶対的または相対的耐性と密接に関連している。しかし、この単純な相関は、気道上皮、気道平滑筋、免疫細胞、IgEを含むステロイド不応性疾患に寄与する因子およびサイトカイン、ウイルス感染、喫煙などの環境曝露、薬物療法、ならびに遺伝的および併存疾患などの患者の特徴を含んでいる。

■ さらに、難治性喘息における免疫応答の複雑さは、異なるタイプの免疫細胞による上皮および気道平滑筋の相互作用と、これらの因子が過度の粘液産生および気道リモデリングのような重症喘息のフェノタイプ発現をどのように決定するかを読み解くことを難しくしている(図1)

 

論文から引用。

喘息における気道炎症の病理図が示されている。

LT: ロイコトリエン; MMP: マトリックスメタロプロテアーゼ; NE: 好中球エラスターゼ; ROS: 活性酸素; TSLP: 胸腺間質性リンパ球新生因子。

 

 

 

結局、何がわかった?

 ✅難治性喘息は、喘息全体の少なくとも5%未満にあり、既存の治療では十分な治療結果が得られていない。生物学的製剤は難治性喘息への治療効果が期待されている。

 ✅しかし、生物学的製剤は、特定の喘息サブタイプの患者にのみ有効であるため、理解するべき内容の複雑さが増している。

 

 

 まずは、生物学的製剤が注目される背景となる難治性喘息のまとめ。

■ 生物学的製剤は、すべての喘息に適応するものではありません。全体のごく一部の喘息患者さんに適応するべきものです。

■ しかも、生物学的製剤はやみくもに使用しても効果は上がりません。そのため、「どこに効果がでるのか」「どんなバイオマーカーが参考になるのか」を理解してから進めていく必要があります。

■ そのため、この治療のパラダイムシフトにキャッチアップするためには、病態生理まで踏み込んで理解しなければなりません。

■ 私は、そういった基礎的な分野はとても苦手なのですが、避けて通れない以上、勉強するしかありません。今回、皆さんと一緒に勉強させていただきたいと思います。

■ 明日は、「バイオマーカー」を、明後日は「現在承認されている(あくまで米国の話ですが)生物学的製剤」に関して翻訳を進めてまいりたいと思います。

生物学的製剤による難治性喘息治療のパラダイムシフト~バイオマーカー(第2回/全3回)

■ なお、生物学的製剤に対応するバイオマーカーに関しては、最近JACIに優れたレビューが掲載されています(Berry A, Busse WW. Biomarkers in asthmatic patients: Has their time come to direct treatment? Journal of Allergy and Clinical Immunology 2016; 137:1317-24.)。これもすでに全文がフリーで確認できるようになっていますが、最近このレビューも読んだので、機会をみてご紹介したいと思います(リクエストがあれば早めにいたします)。

 

 

 

今日のまとめ!

 ✅生物学的製剤が脚光をあびつつあるが、その使用は喘息の範疇では難治性に限られ、効果はある特定のサブタイプにしか効果はないため、その機序を知る必要性がある。

 

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