以下、論文紹介と解説です。
Simonte SJ, et al. Relevance of casual contact with peanut butter in children with peanut allergy. J Allergy Clin Immunol. 2003 Jul;112(1):180-2. doi: 10.1067/mai.2003.1486. PMID: 12847496.
重篤なピーナッツアレルギー(ピーナッツ特異的IgE抗体価 50 kIU/L以上、ピーナッツ特異的IgE抗体が陽性で臨床的なアナフィラキシーがある、吸入・接触によるアレルギー反応の既往、ピーナッツに対する二重盲検プラセボ対照経口負荷試験陽性のいずれか)のある児30人に対し、安定した皮膚との接触によるピーナッツバター曝露および吸入曝露試験を実施した。
背景
■ ピーナッツバターのガスを偶然皮膚に接触させたり、吸い込んだりすると、重篤なピーナッツアレルギーの児にアレルギー反応が起こることが報告されており懸念されているが、系統的な研究は行われていない。
目的
■ ピーナッツアレルギーを持つ児において、吸入もしくは皮膚接触によるピーナッツバターへの曝露との臨床的妥当性を明らかにすることを目的とした。
方法
■ 重篤なピーナッツアレルギー(最近のピーナッツ特異的IgE抗体価 50 kIU/L以上、もしくはピーナッツ特異的IgE抗体が陽性で臨床的なアナフィラキシーがある、吸入・接触によるアレルギー反応の既往、ピーナッツに対する二重盲検プラセボ対照経口負荷試験陽性のいずれか)のある児に、二重盲検プラセボ対照無作為化負荷試験(安定した皮膚との接触によるピーナッツバター曝露(0. 2mLを1分間押し付ける)および吸入(6.3平方インチのピーナッツバターを顔から12インチの距離で10分間))により、ピーナッツバターに曝露した。
■ プラセボ負荷は、ヒスタミンを混ぜた大豆バターを用いて行い(接触)、香りは大豆バター、ツナ、ミントでマスキングした(吸入)。
結果
■ 30人が負荷を受けた(年齢中央値7.7歳; ピーナッツIgE値の中央値100kIU/L以上; 接触の既往歴13人; 吸入による反応歴 11人)。
■ 全身性・呼吸器系の反応を示した者はいなかった。
■ 紅斑(3人)、紅斑を伴わないそう痒(5人)、膨疹・紅斑(2人)は、ピーナッツバターと皮膚が接触した部位にのみ生じた。
■ この被験者数から、96%の信頼性をもって、ピーナッツアレルギーのある感受性の高い児の少なくとも90%は、ピーナッツバターに偶然触れても、全身・呼吸器系の反応は起こらないと述べることができる。
結論
■ ピーナッツバターに偶然接触しても、重篤なアレルギー反応を引き起こす可能性は低い。
■ しかしこの結果は、より大きな曝露や、他の形態のピーナッツ(粉末やローストピーナッツ)との接触に一般化することはできない。
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この結果をもって全身性の症状が起こりえないとはいえないが、リスク評価をしながら集団での食事を考えていく必要があるだろう。
■ 摂食や吸入では、全身性の症状が起こる可能性は低いといえます。
■ 論文中にも触れられているように、ピーナッツバターがついた指で目をこすればピーナッツバターが眼球粘膜に接触して,眼瞼腫脹が生じてもおかしくはありません。これを重篤な反応と解釈されることもあるでしょう。
■ ただし、大規模な調査を行えば、きわめて重篤なアレルギーならば起こり得るとも言えます(あくまで96%の信頼性、という結果です)。
■ 論文の考察にも述べられていますが、接触してもその箇所のみの反応しかない量のピーナッツバターでも、意図せずに口に入るとアナフィラキシーを引き起こす可能性があり、重篤なピーナッツアレルギーの児が、他の児と同じ場所で摂食して重篤な症状が起こらないとは言えません。
■ 園などの環境では、よほど重篤なアレルギーでないかぎり同室での摂食は可能とおもっていますが…、低アレルゲンミルクを1mL摂取しただけでも強い症状を起こす方、『ホコリの中に含まれる食物アレルゲン』でさえ症状がはっきりあると推測される方、Ara h2が100以上となっているけれどもピーナッツ負荷試験は実施できていないなど、極めて重篤な方がいらっしゃるのが食物アレルギーです。
■ 触れた部分に紅斑などは起こってもリスクはそこまで高くはないこと、そして一方では慎重な対応を考えつつ対応していくしかないテーマです。
今日のまとめ!
✅ 重篤なピーナッツアレルギーがあっても、摂食や吸入では局所的な反応はあっても全身性の症状がおこる可能性はさほど高くなさそうだ。ただし、『絶対おこらない』ではないので慎重な対応も必要である。