以下、論文紹介と解説です。

Liu Y, Rocklöv J. The effective reproductive number of the Omicron variant of SARS-CoV-2 is several times relative to Delta. J Travel Med 2022;29.

オミクロン株の実効再生産数と基本再生産数(ReとR0)の推定値を明らかにするために、迅速レビューを実施した。

背景

■ 新型コロナウイルス(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2; SARS-CoV-2)の懸念される変異株(variants of concerns; VOC)は、ウイルスが大きく広がっている環境で進化し、以下の特性のいずれか、または組み合わせの証拠がある変異型と定義される。
すなわち、感染性の増加、より深刻な疾患(例:入院または死亡の増加)である。

■ VoCのリストに新たに加わったのは、オミクロンであり、これでアルファ(B.1.1.7)、ベータ(B.1.351)、ガンマ(P.1)、デルタ(B.1.617.2)、オミクロン(B.1.1.529)となる。

■ オミクロンは、2021年11月にボツワナと南アフリカで採取された検体から初めて検出された。

■ オミクロンは重症化しにくいようではあるが、このVoCの感染力はこれまでのすべてのVoCと比較して高い。

■ オミクロンは世界各地で目にも止まらぬ速さで拡散し、2022年2月にはオミクロンは支配的なVoCとなった。

■ そこで、オミクロンの実効再生産数と基本再生産数(ReとR0)の推定値を明らかにするために、迅速レビューを実施した。

 

方法

■ ReとR0は、感染症疫学の中心的な概念で、感染症の流行拡大の可能性を表す。

■ R0/eは、簡単に言えば、ウイルスの感染力と曝露された集団の接触パターンとの組み合わせで構成される。

■ R0は、全くナイーブな集団において、感染者が生み出す新規感染者の平均数を表している。

■ R0>1であれば感染者数は増加し、R0<1であれば感染力は低下して病原体は風土病となり、アウトブレイクは収束すると考えられる。

■ Reは、非医療的介入や、ワクチンや自然感染の結果、曝露された集団の免疫の背景において、同じ解釈を持つ類似の量を表している。

■ 2021年11月1日から2022年2月9日まで、PubMed、Web of Science、bioRxivとmedRxiv、Google、Baidu、China National Knowledge Infrastructure (CNKI)、Wanfangデータベースとそれらの関連文献に、検索語「B.1.1.529」または「Omicron」を使用してアクセスした。

■ 包含基準は、オミクロン変種の基本再生産数または実効生殖数、オミクロンとデルタの再生産数の比を報告する研究、または明示的な式を与える研究だった。

■ 英語または中国語で発表された研究のみを対象とした。

■ 除外基準は、レビュー論文、限られた部分集団のみを調査した研究、英語または中国語以外の論文、全文が掲載されていない研究である。

■ 検索結果はEndNote X9(EndNote version X9, Thomson Reuters, California)に取り込み,上記の包含・除外基準に従って文献のスクリーニングを行った。

■ 筆頭著者(YL)が検索を行い、タイトルと抄録で研究の適格性を審査し、含まれる研究の全文をレビューし、データを抽出した。

■ このレビューに含まれる論文は、誤りを減らすために同一人物によって2回分析された。

■ フロー図に示すように、Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analysesガイドラインに従った(補足図S1、補足データはJTM onlineで閲覧可能)。

■ この検索基準で、PubMedから471件、Web of Scienceから630件、bioRxivから293件、medRixvから520件、計1914件の研究が検索された。

 

結果

■ その結果、15件の適格研究18件の推定値を確認し、オミクロンの基本再生産数(8件の推定値)と実効再生産数(10件の推定値)を得ることができた。

■ 表1では、Omicron変異体の実効再生産数および基本再生産数は、デルタ変異体よりもそれぞれ3.8倍および2.5倍高い伝播性であることが示された。

オミクロン変異体は、平均基本再生産数が9.5で範囲は5.5から24(中央値10; 四分位範囲; IQR: 7.25, 11.88)だった。

オミクロンの平均実効再生産数は3.4で、範囲は0.88から9.4(中央値2.8; IQR 2.03~ 3.85)である。

■ 南アフリカ共和国の最高R0である24は、免疫回避がないと仮定した場合の理論上の上限値である。

 

考察

■ この結果から、オミクロンはデルタ変異体やオリジナルのSARS-Cov-2ウイルスと比較して、平均的な実効再生産数、そしておそらく基本再生産数が高いことがわかった。

■ デルタと比較して高い再生産数は、内在する感染性が高く、さらにその免疫逃避能力によって部分的に説明できると考えられる。

■ ヨーロッパ(デンマークとイギリス)でオミクロン変異体が急速に広がったのは、既存の集団レベルの免疫から自然またはワクチン接種によって逃れる能力があるためと考えられる。

■ オミクロンの変異体の上昇により、多くの国で流行が再来している。

■ 予備的な推定では、ワクチンによる免疫が低いこと、子どもの方が接触者の数や頻度がはるかに多いことから、子どもの方が感染力が高い可能性がある4,5。

■ R0とReの正確な推定値は、非薬物的介入や事前の免疫の程度など、国内および国間で異なる交絡因子のため、決定することは困難である。

■ オミクロンのような再生産数の多い変異体は、Reを1以下にするために集団レベルの免疫閾値を高くする必要があるとしても、より早く地域社会を席巻し、アウトブレイクのピークに達するだろう。

■ オミクロンは抗原的にオリジナル株から最も遠く、現在利用可能な新型コロナウイルスワクチンは、軽症の感染に対するワクチンの効果は低い。しかし重症化に対する防御の証拠が示されている。

 

結論

■ オミクロン変異体は、デルタ変異体よりも急速に広がっているが、これは、以前の変異体と比較して高い再生産数で測定される感染性の増加、さらに免疫逃避能力の高さが複合的に作用していると思われる。

■ オミクロンの平均再生産数は5.08で、デルタより高い。

■ この結果は、Leung GMの知見と一致している。

 

オミクロン株の平均再生産数はデルタ株より高い。

■ 論文の参考文献としてあったLeung GM. Omicron is the Most Contagious in a 100-Year Pandemic. 1 February 2022. http://www.mingshengbao.com/van/article.php?aid=803103 [Accessed 10 February 2022, date last accessed].にあった図がわかりやすいので引用します。

Leung GM. Omicron is the Most Contagious in a 100-Year Pandemic.

■ オミクロン株の感染性の高さは一時、水痘なみという報告もありましたが、そもそも基本再生産数は背景因子におおきく影響されるため、このあたりに落ち着くということでしょうか…。

■ 今後、さらに検討がすすんで下がる可能性はあるものの、きわめて高い基本再生産数といえます。

■ オミクロン株は感染性を大きく増し、病原性は(デルタ株よりは)オリジナルの新型コロナウイルスとは異なったウイルスといえます。

 

■ オミクロン株をインフルエンザと比較する方がいらっしゃいますが、流行性感冒(そもそもの語源は『星の影響』という意味である『influenza』ですが)と翻訳されるほどのインフルエンザですら、季節性インフルエンザの基本再生産数は1.28(IQR:1.19-1.37)、1918年のスペイン風邪(インフルエンザと考えられている)が1.80(IQR1.47-2.27)、2009年の新型インフルエンザが1.46(IQR:1.30-1.70)です。

■ インフルエンザに比較しても、感染力は非常に高いといえます。

 

■ 病原性はというと、たしかにデルタ株に比較すると下がっています( Menni C, Valdes AM, Polidori L, Antonelli M, Penamakuri S, Nogal A, et al. Symptom prevalence, duration, and risk of hospital admission in individuals infected with SARS-CoV-2 during periods of omicron and delta variant dominance: a prospective observational study from the ZOE COVID Study. The Lancet 2022;399:1618-24)。

 

■ しかし、0~11歳の小児に対するオミクロンBA.2優位の流行期の香港からの検討によると、そう楽観視もできないようです。

■ 21例(1.8%)が PICU 入室を必要とし、そしてインフルエンザウイルスよりもオミクロン株のほうが相対リスクは高かった(調整 RR 2.1; 95%CI 1.3-3.3)とされています。

 

■ そもそもインフルエンザと新型コロナを比較するもいかがなものかとも思いますが、それでも新型コロナの感染力はインフルエンザと比較できないほど高く、(ワクチンを接種していない、もしくは感染歴がない場合は特に)感染したときのリスクは高いといえます。

■ また、新型コロナの後遺症に関してもインフルエンザとは比較にならない頻度といえます。

■ 『できればかかりたくはない』ですし、『かからせたくない』ともいえます。

 

■ そしてこの感染力ですので我々医療者の感染予防策も高くしていく必要性があります。

■ インフルエンザに関しては手洗いや一般的なサージカルマスクで診療ができても、新型コロナの流行期では、N95マスクやアイガード、診察の手技(喉をみるなど)にも配慮しなければなりません。

■ 自分自身を感染からまもることは、ひいては患者さんへの感染リスクを減らすことでもあるからです。当然、これらの感染防御作は、医療への負荷をおおきくします。

 

■ 新型コロナに関してはなんらかの形で暴露(感染する機会といいかえてもいいかもしれません)されることは、すべての人に平等に訪れることになるでしょう。

 

■ たしかに、当初、新型コロナワクチンにより集団免疫が達成できるのではないかと期待されました。

■ それは、きわめて基本再生産数の高い麻疹や水痘の予防接種なみに、新型コロナワクチンの性能が高いと見積もられたからです。

■ しかし、(もちろん予防接種の効果は十分期待できますが)度重なる変異により、予防接種のみによる集団免疫への期待はもちにくくなりました。

 

■ これは、波をかぶること自体を回避できる期待が低くなり、その波をかぶることを考えつつ、その波の被害をどこまでへらすことができるのかと言いかえることもできます。

■ すなわち、集団の防御力をどこまで高めた上で、どのような時期に感染の波をかぶるのかということともいえます。

■ 予防接種をしていないうちに罹れば、とくに『免疫的に弱い方』を中心に、重症化リスクや後遺症リスクが上がることになります。

■ おおきく流行し、医療的な負荷が大きくなっているときに罹れば、十分な医療を受けられない可能性が高くなりますし、そして、もともとの体質や年齢にも影響されつつ、予防接種が未接種のひとといった、相対的に『免疫的によわいひと』のリスクが上がることになるということです。

 

■ すでに大きな流行の波を先にかぶり、すなわち多くの犠牲者をだし、そして結果として『次の波』に対するリスクが低くなった地域は、リスクを負いつつ社会的合意のもとに以前の生活にちかづけようとしています。

■ しかし、日本では感染の拡大がこれまで海外に比較して少なく、まだ、予防接種をうけていないひと、免疫的に弱いと考えられる人を中心に取り残されるリスクが大きいといえます。

■ その接種していないのは、子どもが中心です。そのため、今回の波では、とくに子どもの感染が大きく広がりました。

■ オミクロン株の目標臓器が喉頭より上が中心になったぶん、肺炎でなくなるかたは少なくなるかもしれませんが、コロナによる重症度分類では軽症ながら、中等症以上の症状というわかりにくい状況となっています。

■ より重篤化した方がすくなく、そしてその後の後遺症の方がすくなく、この波をこえられることを願っています。

 

 

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