以下、論文紹介と解説です。
Altarawneh HN, Chemaitelly H, Ayoub HH, et al. Protective effect of previous SARS-CoV-2 infection against Omicron BA. 4 and BA. 5 subvariants. New England Journal of Medicine. 2022;387(17):1620-1622.
カタールの医療施設で実施されたPCR・迅速抗原検査を含む全国SARS-CoV-2データベースから、診断陰性例コントロールデザインで新型コロナ感染既往の効果を推定した。
はじめに
■ 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2; SARS-CoV-2)B.1.1.529(omicron)亜型のBA.4・BA.5亜型は、中和抗体から逃れる能力を示している。
■ これらの亜型の存在は、2022年5月初旬までにカタールで顕著になり(補足付録の図S1、このレターの本文とともに NEJM.org で公開)、6月8日までに優勢な亜型となった(図S2)。
方法
■ BA.4・BA.5亜型の再感染を防ぐためのSARS-CoV-2の感染既往の効果を、診断陰性例コントロールデザインで推定した(セクションS1)。
■ カタールの医療施設で実施されたPCR(polymerase-chain-reaction)と迅速抗原検査のすべての結果を含む全国SARS-CoV-2データベースから、SARS-CoV-2検査、臨床感染、ワクチン接種、人口統計学的詳細に関するデータを抽出した。
■ 過去に感染既往は、新たな陽性所見の90日以上前の検査で陽性であった場合と定義し、陰性者はコントロールとして使用した。
■ カタールにおけるSARS-CoV-2感染リスクの違いを調整するために、性別、10歳ごとの階級、国籍、併存疾患の数、検査暦週、検査方法、検査理由によって症例と対照をマッチングさせた。
■ 感染既往はさらに、2021年12月19日のオミクロン波開始以前にカタールで発生したもの(オミクロン前感染)とそれ以後のもの(オミクロン後感染)に分類された。
■ この解析では、2022年5月7日から7月28日のPCR検査におけるS-gene target failure(SGTF)を用いて、BA.4またはBA.5への再感染に対する既感染者の有効性を推定した(図S3)。
■ SGTFは、オミクロン亜型BA.1、BA.4、BA.5に共通するS遺伝子のコドン69と70が欠失したことを示すものである。
■ BA.1の発生率は、シークエンスで確認されたように、研究期間中はごくわずかであったため(セクションS2)、SGTFはBA.4またはBA.5感染の代理マーカーとして使用された。
■ SGTFによって特徴づけられた他の変異体の発生率は、研究期間中に無視できる程度だった。
■ また、2022年6月8日から7月28日に診断されたSARS-CoV-2感染は、この期間に支配的な亜種であったため、すべてBA.4またはBA.5感染であると仮定して効果を推定した。
結果
■ 研究集団に関する詳細は、図S3およびS4に示す。
■ 研究集団のベースライン特性は表S1に示す通りである。
■ 研究集団は、カタールの人口を広く代表するものであった(表S2)。
■ 症状のあるBA.4・BA.5の再感染に対するオミクロン株以前の株への感染既往の効果は35.5%(95%信頼区間[CI]12.1~52.7)、症状の有無にかかわらずBA.4・BA.5の再感染に対する効果は27.7%(95%CI、19.3~35.2)(表1)だった。
論文から引用。
■ 症状のあるBA.4・BA.5再感染に対する、オミクロン株感染後感染の効果は76.2%(95%CI 66.4~83.1)、あらゆるBA.4・BA.5再感染に対する効果は78.0%(95%CI 75.0~80.7)だった。
■ 診断された感染症がすべてBA.4またはBA.5であると仮定した感染既往の効果に関する解析でも、主解析と同様の結果が得られた。
■ また、感染既往からの期間により層別化した有効性の解析では、時間経過とともに予防効果が低下することが示された(S3,表S3)。
■ ワクチン接種の有無で調整し、ワクチン接種回数でマッチングさせて行った感度分析により、主解析の結果を確認した(表S3、S4)。
■ ワクチン接種の有無によって分類した解析でも研究結果は確認されたが、ワクチン接種者ではいくらか効果が高くなる可能性が示唆された。
論文から引用。
■ 研究デザインの限界はセクションS1で議論している。
■ BA.4・BA.5の再感染に対するSARS-CoV-2の既感染からの防御は、既感染がプレオミクロン亜種に起因する場合はわずかであったが、ポストオミクロン亜種(BA.1またはBA.2含む)に起因する場合は強くなった。
■ BA.4・BA.5亜型の再感染に対する感染防御力は、BA.1またはBA.2亜型の再感染に対する防御力よりも低い。
■ これは、BA.4およびBA.5亜型の免疫防御力が時間とともに低下し、免疫系の回避能力が高くなることが原因である。
感染既往があっても、ワクチンの追加接種は有効。ただし、BA4/BA5に関しては従来ワクチンの効果が低くなってきているようだ。
■ ワクチンの追加接種の有用性を崩すものではありませんし、一定の効果があることは確かですが、従来株対応ワクチンではブースター効果が不十分といえるかもしれません。
■ すなわち、オミクロン対応ワクチンの追加接種が必要になる可能性が高いということです。
■ 古瀬先生が、こんな報告も紹介されていました。
若者がオミクロンに感染しない度 from Lancet Infect Dis誌
— Yuki FURUSE 古瀬祐気 (@ykfrs1217) November 26, 2022
ワクチンなしで初期型に感染:33%、アルファに感染:37%、デルタに感染:52%、オミクロンに感染:59%。
自然感染なしでワクチン3回:63%、感染+ワクチン:80~90%https://t.co/NsssVcBBA3
■ 残念ながら小児へのワクチンは次の波には間に合いそうにありませんが、成人が2回接種8割を超えており、さらにオミクロン対応ワクチンが接種できるようになっている現在、オミクロン対応株ワクチンの接種をすすめていくことも重要と思われます。
■ オミクロン対応ワクチンは、現在のところ、従来のワクチンを2回以上接種した12歳以上の方です。
■ ですので、残念ながら、いままで接種していない方は、これからオミクロン対応のワクチンから接種を開始することができません。
■ すくなくとも、自分自身の5回目のワクチン接種はしておいて良かったと思っています。
基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。
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