保湿剤の塗布は、アレルギーマーチを予防するかもしれない

保湿剤で予防できる?アトピー性皮膚炎とアレルギーマーチ。

■ アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎といったアレルギー疾患は、特に先進国を中心に少なくない病気です。
■ アレルギー疾患は、特に小さい子どもの時にアトピー性皮膚炎から始まり、気管支喘息やアレルギー性鼻炎を発症するといった、いわゆる『アレルギーマーチ』を起こすことがあります。

■ とくに、アトピー性皮膚炎が、より低年齢ではじまり、重症であり、そして長期間続くこと、もしくは皮膚バリア機能の低下しやすい体質、血中IgE抗体が高いなどといった要因が、アレルギーマーチに移行するリスクを高めると考えられています。

■ 皮膚がうまく外部からの刺激を防げなかったり、炎症が起きやすかったりするのが、アトピー性皮膚炎の問題といえます。
■ これには、環境や遺伝的な素因が関係し、皮膚を守る機能が壊れたり、免疫系が過剰に反応していき、悪い方に加速していくことになります。

■ そして、アレルギー体質そのものが、皮膚の炎症を起こしやすくなり、さらにアレルギー疾患の進行が加速することになります。

■ アトピー性皮膚炎を治療するひとつの方法として、皮膚バリア機能を回復させ、病気が再発するのを防ぐために、保湿剤がよく使われることになります。
■ しかし、アトピー性皮膚炎の発症予防効果に関しては、意見がわかれる結果になっています。

■ 我々の研究や、オーストラリアからの報告 (PEBBLES試験)、アイルランドからの試験(STOP-AD試験)では、新生児に保湿剤を使うことでアトピー性皮膚炎を減らすことが報告されました。

■ しかし、英国ではその効果は確認できなかったのです。

■ しかも、保湿剤によりアレルギーマーチまで減らすかどうかは、すくなくともヒトを対象とした研究では十分にわかっていません。

■ 最近、マウスを使って、保湿剤によりアトピー性皮膚炎や「アトピーマーチ」へ影響するかをみた検討が報告されました。

アトピー性皮膚炎モデルマウスを、正常コントロール群、アトピー性皮膚炎モデル群、リノール酸とセラミドを豊富に含む保湿剤を塗布したアトピー性皮膚炎モデル群の3群に分けて検討した。

Zhang J, Xu X, Wang X, Zhang L, Hu M, Le Y, et al. Topical emollient prevents the development of atopic dermatitis and atopic march in mice. Experimental Dermatology 2023; 32:1007-15.

背景

■ アトピー性皮膚炎(AD)モデルマウスにおいて、エモリエント剤がアトピーマーチに及ぼす影響を調査した。
■ カルシポトリオール(MC903)とオボアルブミン(OVA)を塗布してADを誘導した後、一群のマウスにリノール酸-セラミド含有エモリエント剤を塗布し、別の群のマウスにはエモリエント剤を投与しないことで疾患の対照群を設定した。

目的

■ エモリエント剤の塗布が皮膚病変の重症度、炎症細胞の浸潤、アトピー性皮膚炎に関連する遺伝子発現にどのような影響を与えるかを明らかにする。

結果

■ 28日後、エモリエント外用剤は皮膚病変の重症度と炎症細胞の浸潤を顕著に減少させた。

■ また、自然炎症、ケモカイン、表皮透過性バリアに関連するアトピー性皮膚炎関連遺伝子の発現を有意に低下させた(発現遺伝子1450中286)。
■これには、 innate inflammation (S100a8/a9, Il1b, Defb3/6, Mmp12)、ケモカイン (Cxcl1/3, Ccl3/4)、表皮透過性障壁 (Krt2/6b/80, Serpinb12, Lce3e,Sprr2)などが関連していた。
■ 発現が低下した遺伝子は、ミトコンドリアのOXPHOS関連経路に多く、発現が上昇した遺伝子は主に軸索ガイダンスとタイトジャンクションに多かった。

■ さらに、エモリエント剤塗布はIL-4の血清レベルを減少させ、IgEと胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)も大幅に減少した。

■ さらに、肺組織で上昇した275の遺伝子のうち187の遺伝子も有意に低下した。
■ これには、白血球のケモタクシス(Ccl9、Ccr2、Retnlg、Ccl3、Cxcl10、Il1r2など)および好塩基球の活性化(Mcpt8、Cd200r3、Fcer1a、Ms4a2)が関与していた。

結論

■ エモリエント外用剤は皮膚の炎症を抑制するだけでなく、TSLPとIgE抗体を低下させることで全身の炎症を緩和する効果がある。
■ また、エモリエント外用剤は肺におけるケモカインの産生及び好塩基球の浸潤と活性化を減少させることが示された。

 

 

※論文の背景や論文の内容の深掘り、個人的な感想は、noteメンバーシップにまとめました。

※登録無料のニュースレター(メールマガジン)も始めています。5000人以上の登録ありがとうございます。

 

このブログは、私の普段の勉強の備忘録やメモを記録しているものですので、細かい誤字脱字はご容赦ください。
基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。

知識の共有を目的に公開しておりますが、追加して述べる管理人の意見はあくまでも個人としての私見です。
所属するいかなる団体の立場も代表するものではありませんし、すべての方に向いているという情報でもありません。予めご了承いただきたく存じます。

このブログの『リンク』は構いません。
しかし、文章やアイデアを盗用・剽窃・不適切な引用したり、許可なくメディア(動画を含む)に寄稿することはご遠慮ください。
クローズドな場での勉強会などに使用していただくことは構いません。
Instagram:2ヶ月で10000フォロワーを超えました!!!

Xでフォローしよう