ライノウイルス感染が喘息発作のきっかけになることが報告されています。
■ 以前、アレルゲン感作している子どもは、その後の寛解(治る)率が低いことをご紹介いたしました。
■ 今回は、ライノウイルスによる喘息発作にアレルゲン感作が関与し、さらに喘息発作時にIgEが上昇するかもしれないという報告を御紹介いたします。
■ レター(短報)ではありますが、すでに全文がフリーで読めるようになっており、詳しめです。
Kantor DB, et al. Rhinovirus and serum IgE are associated with acute asthma exacerbation severity in children. J Allergy Clin Immunol 2016; 138:1467-71.e9.
前向きコホート研究に参加した小児183人の喘息発作時のライノウイルス感染と喘息重症度を確認した。
背景
■ 小児における喘息増悪の80%以上が呼吸器ウイルス感染と関連しており、ヒトライノウイルスはそのようなエピソードの3分の2までを占める。
■ ライノウイルスが喘息増悪のトリガーであることは明らかであるが、ライノウイルス感染が喘息増悪の急性期の重症度を調節する際に果たす役割は、よく分かっていない。
■ そこで、ライノウイルス誘発の喘息増悪が、他の非感染性、おそらくアレルゲンがトリガーとなった原因と比較しより重症の急性重症度と関連していることを示し、ライノウイルスとアレルゲン感作状態間の相互作用が、急性増悪の重症度における個体間の差に寄与すると仮定した。
方法
■ この前向きコホート研究では、医師が診断した喘息を有する6歳から17歳の183人の被験者を登録し、急性喘息増悪時およびベースラインに回復した時の両方におけるフェノタイプを調査した。
■ PCRにより、鼻腔スワブを12種類の一般的な呼吸器系ウイルスを見つけるために検査された。
■ マウス(Mus musculus 1 [Mus m1])およびダニ(被験者の寝室か採取したハウスダスト中のDermatophagoides farinae 1 [Der f1])レベルを測定し、アレルゲン曝露カットオフは、Mus m1が0.5μg/ g、Der f1は2μg/ gとした。
■ アレルゲン感作は、0.35kU / L以上の特異的IgE抗体価として定義された。
■ 急性重症度スコアは、β刺激剤治療の頻度を合わせた複合スコアであるModified Pulmonary Index Score 2(小児喘息における疾患重症度の指標)が使用された。
■ ライノウイルス感染についてのみ陽性であった対象と、呼吸器ウイルスパネル中のすべてのウイルスについて陰性であった対象(ウイルス陰性)を比較し、複数のウイルス陽性の被験者は除外した。単変量および多変量回帰を用いて、急性重症度スコアと予測変数との関連性を調べた。
結果
■ ライノウイルス感染(N = 95)被験者は、ウイルス陰性(N = 60)の被験者よりはるかに高い急性重症度スコアであったことが示唆され(図1)、一般的な危険因子のために調整された後でも、喘息重症度と関連していた。
図1A。ライノウイルス感染時のほうが喘息重症度が高い。
■ 我々また、他の複数のタイプのアウトカム変数を調査し、各ケースで、ライノウイルス感染症は有意に高い急性期重症度と関連していた。したがって、ライノウイルスと急性喘息増悪の重症度の関連性は強いと考えられた。
■ ライノウイルスがアトピー性喘息児の喘息増悪を引き起こす可能性がより高かっため、アレルゲン感作に焦点を当てて、急性喘息悪化の重症度の個人差に寄与する要因を調べた。
■ 試験開始時のマウス特異的IgE抗体価とダニ類特異的IgE抗体価がともに、重症度に影響する際にライノウイルス感染症と相互に作用することを示す。アレルゲン感作の程度が増すほど、ライノウイルスをトリガーとした喘息増悪はより厳しくなった。
図1BC。試験開始時の感作の程度が強いほど、ライノウイルス感染時の喘息重症度が高い。
■ アレルゲン特異的IgE抗体価は対応するアレルゲンに対する曝露によって部分的に決定されるため、アレルゲン曝露とライノウイルス感染症の間の環境相互作用の可能性が高くなり、喘息増悪重症度に影響すると考えられる。
■ 我々は、喘息重症度、寝室のアレルゲン曝露、アレルゲン特異的IgE抗体価の相互作用を調査し、この可能性を調査した。
■ まず、寝室アレルゲン曝露とアレルゲン特異的IgE抗体価に有意な相互作用があり、感作対象のベースラインの喘息症状に影響していることが判明した。しかし、同じタイプの相互作用は急性増悪重症度には影響していなかった。
■ 次に、急性喘息増悪時のIgE抗体価を、試験開始時の抗体価と比較した。喘息増悪時に、ライノウイルス陽性であった被験者は、マウス特異的IgE、ダニ特異的IgE、総IgEが、ウイルス陰性の被験者で観察される増加より有意に大きかった(図2)。この血清IgEの増加は、IgE抗体価に影響を及ぼすことが知られている因子で調整した後も依然として有意であった。
図2。ライノウイルス感染時に感作が上昇する。
結論
■ ライノウイルス感染症が単なる小児喘息増悪のトリガーではなく、有意により強い急性喘息増悪症状の発症と強く関連していることを示した。
■ さらに、マウス特異的およびダニ特異的IgE抗体価は、ライノウイルス感染で上昇し、この上昇の大きさは、ライノウイルスによる喘息増悪の重症度と強く特異的に関連する。
■ あわせて、我々の結果は、急性喘息増悪の重症度の相当な部分が、ライノウイルス感染とアレルゲン感作の組み合わせに起因しており、IgEは急性重症度の調整において原因的役割を果たす可能性があることを示している。 (1)アレルゲン感作の程度は、最近のアレルゲン曝露の程度よりも急性喘息悪化の重症度とより密接に関連しており、(2)最近の環境アレルゲン曝露以外の因子がまた、アレルゲン特異的IgE抗体価に影響する可能性もある。
結局、何がわかった?
✅アレルゲン感作が強いほど、ライノウイルス感染による喘息発作時の重症度が有意に高い。
✅ライノウイルス感染時にアレルゲン感作は有意に増強される。
ライノウイルス感染時の悪化しやすい群を特定しやすくなるかもしれない。
■ ライノウイルスは極めて普通の風邪ウイルスですが、100種類以上と多く、ワクチンの製造は困難とされています。
■ 以前、「喘息予防ワクチンは製造可能か?」というレビューでもお示ししましたが、研究は行われていますがまだ現状では作成は難しいようです。
■ 喘息発作時に、さらに感作が進み、感作が強いほど喘息発作が強くなる理由が見えてきているように思いました。
■ 以前ご紹介しましたように、「早く感作されるほど」喘息が寛解しにくいことからも、「感作される前の」対策が必要なように思います。
■ 一方で、環境整備に関して、「良い」結果と「無効」な結果があり、効果的な環境整備方法が求められているともいえましょう。
今日のまとめ!
✅アレルゲン感作が強いほど喘息発作が悪化し、喘息発作時に感作も悪化する。そのサイクルを止めるためにも環境整備や免疫療法が注目されてくるかもしれない。