食物と免疫寛容の関係とは?
■ 免疫寛容は、食物アレルギーの予防・治療において重要な現象です。食物アレルギーの予防に対し、「少しずつ食べておいた方がよい」というのは皆さんもよくご存じでしょう。
■ しかし、その詳細や定義、機序に関しても十分明らかになっているとは言えません。やや治療や予防が先行しているとも言えましょう。
■ そこで、昨年発表された経口免疫寛容をテーマにしたレビューを読んでみました。全文がフリーで読めるので、全訳してご紹介したいと思います。
■ 参考文献のいくつかは、すでにこのブログでご紹介した論文もありますので、リンクいたします。ご参考まで。
Anagnostou K, Clark A. What do we mean by oral tolerance? Clinical & Experimental Allergy 2016; 46:782-4.
経口免疫寛容とその研究結果、そしてこれから。
経口免疫寛容とは
■ 1946年にチェイス(Chase)は、経口寛容とは、「a state of active inhibition of immune responses to an antigen by means of prior exposure to that antigen through the oral route (経口ルートによる抗原への事前曝露により、抗原に対する免疫反応の活性を阻害する状態である)」と述べた。
■ 腸は定期的に非常に多数の抗原に曝露されるため、体内で最大の免疫学的臓器として、有害な刺激から有益な刺激を区別して適切に対応する必要がある。
■ 胃腸に提示される多大な抗原曝露にもかかわらず、経口寛容が発達するため食物アレルギーを発症する患者はほとんどいない。
■ 経口的な耐性誘導は、宿主の恒常性を維持する目的で、無害な刺激に対する無反応状態の自然発生を指す用語といえる。
■ 抗原提示細胞(樹状細胞など)およびT細胞(調節T細胞など)を含む種々の細胞が、このプロセスに関与している。
■ 食物摂取後は、タンパク質が消化され、しばしばアレルゲン性が低下する。
■ 消化に対する耐性または特定の生化学的な因子(すなわち、糖鎖形成、線状エピトープ、70kd未満の分子量)は、食物タンパク質のアレルギー誘発性を増加させたり経口寛容の中断をもたらし得る。
■ 食物過敏症の発症に寄与する別の要因は、胃腸バリアの不完全性(表皮機能不全)であり、感作を増やしTh2反応性が上昇する。
■ さまざまなマウスモデルで示されるように、マイクロバイオームも重要な役割を演ずる。ここで、抗体産生応答の機能障害と経口耐性障害を示す。
■ 抗原への曝露の用量および時期も重要な役割を果たすことが示されている。
■ マウスモデルでの高用量の早期抗原曝露は、リンパ球アネルギーを誘導することができるが、低用量の反復曝露は免疫調節を誘導する上での成功したメカニズムにつながるT調節細胞の発達に関連する 。
■ 経口耐性という用語は、アレルギー予防的介入の予期される結果を説明するためにも使用されている。
最近の研究
■ 最近の研究(LEAP、LEAP-On、EAT)は、経口寛容が誘発されアレルギー発症が防止され得るかどか、乳児期の免疫系を変容する可能性を調べた。
■ LEAP研究は、ピーナッツアレルギーの発症のリスクが高い群に焦点を当てていたが、EAT研究は一般乳児を調査した。
■ LEAP研究では、重篤な湿疹と卵アレルギーをもつ乳児640人をランダム化した(5歳までピーナッツタンパク質を6gを摂取する群、またはピーナッツを避ける群)。
■ その結果、5年後には、ピーナッツアレルギーが、摂取群は3.2%であったのに対し、除去群では17.2%であった(P <0.001)。
■ この研究には、ランダム化時におけるピーナッツに対する皮膚感作のない乳児と、皮膚検査で1~4mmの膨疹を持つ児が含まれていた。すなわち、一次および二次予防的効果が示されている。
■ LEAP-On研究は、離乳食へのピーナッツ早期導入が長期的な耐性をもたらすかどうかを調査した。
■ 5歳以降の12ヶ月のピーナッツ回避は、ピーナッツアレルギーの罹患率の上昇と関連していないことが示された。
■ EAT研究は、完全母乳の乳児1303人を、生後3カ月から6種の一般的な食物アレルゲン(ピーナッツ、卵、牛乳、ゴマ、ゴマ、白身魚、小麦)を開始するか、6ヶ月間は完全母乳を継続するかでランダム化された。
■ ITT解析では、標準的導入群7.1%および早期導入グループの5.6%と統計的に有意な差は見られなかった。しかし、per-protocol解析では、早期導入群と比較して標準導入群の食物アレルギーの累積有病率に統計的に有意な差が見られた(6.4%、2.4%、P = 0.03)。
■ 事をさらに複雑にするために、「Sustained unresponsiveness(持続的な不応答性)」という言葉も作り出された。
経口寛容とSustained unresponsiveness(持続的な不応答性)の違いとは何だろうか?
■ 両方とも、任意にアレルゲン摂取をした場合の反応性の欠如といえる。
■ 前者は永続的な耐性を意味し、第二者は耐性期間が不明であることを意味する。通常は治療介入(すなわち、免疫療法または早期導入)の結果として達成される。
■ 免疫療法の場合、「寛容」および「脱感作」の用語の間にも異なる意味である。
■ 耐性とは対照的に、脱感作は、アレルゲン反応性の閾値の上昇を意味し、維持されるためには定期的な治療を必要とする。
■ Sustained unresponsiveness(持続的な不応答性)は、免疫療法後にも認識される、短期間では任意に摂取することが十分に許容されるようになった状態である。
■ 長期免疫寛容を誘導するための食物免疫療法の能力は未だ不明であり、研究中であるが、Sustained unresponsiveness(持続的な不応答性)は、いくつかの研究で立証されている。
■ 脱感作そのものは価値ある治療目標であり、そのような状態を達成したQOLの改善を示す研究結果がある。
■ 卵経口免疫療法の無作為化比較試験では、参加者が全22ヶ月間維持療法を受け、4-6週間の経口免疫療法の中止をしたあと、卵に対する反応が持続しているかどうかを調査した。
■ 参加者の28%が臨床的耐性を維持することができ、アレルゲンを自由に摂取するようにできたことが示された。そして、卵を自由に摂取するように指示されたすべての被験者(上記のグループの28%に相当)は、6-12ヶ月の追跡調査後にも臨床的耐性を維持していた。
■ 米国の研究において、ピーナッツOITを5年間受けた小児24人は、1ヶ月間経口免疫療法を中止した。そしてピーナッツタンパク質5gの負荷をおこなったたところ、50%はピーナッツに対する反応を認めなかった。負荷に失敗した参加者も、症状誘発閾値(中央値:3750mg)は、試験開始時のピーナッツ閾値よりもはるかに高いことが判明した。
■ 全体として、経口免疫療法にうよる長期間にわたるSustained unresponsiveness(持続的な不応答性)は、治療対象の多くで起こるようである。
■ 免疫療法の成功およびSustained unresponsiveness(持続的な不応答性)の誘導の基礎となるメカニズムは依然として研究中である。
■ しかし、先行研究では、食物免疫療法と関連し、アレルゲン特異的Th2応答のダウンレギュレーション、Th1反応の増加、制御性T細胞の誘導が示されている。
■ 特に、食物免疫療法が成功した場合、アレルゲン特異的IgEが減少し、皮膚プリックテストが改善し、アレルゲン特異的IgGおよびIgG4が増加し、IL-4、IL-5、IL-13がの減少し、IL-10、TGF-bサイトカイン産生が増加することが示されている。
■ マイクロアレイによるデータは、患者T細胞でいくつかのアポトーシス経路における遺伝子のダウンレギュレーションを示した。しかし、これらの変化が末梢血T細胞と同様に抗原特異性細胞のアポトーシスを含むのかは明らかではない。
■ Sustained unresponsiveness(持続的な不応答性)の指標は、抗原誘発調節性T細胞におけるFOXP3のCpG部位の脱メチル化に関連している。
■ これらの免疫学的変化は、環境アレルゲンに対する免疫療法を受けている患者に見られる変化と類似している。しかし、食物の脱感作、反応の持続性および長期耐性の根底にある機構を解明するためには、より多くの研究が必要である。
LEAP-On研究の「卒業生」はどう定義できるだろうか?
■ 彼らは明らかにSustained unresponsiveness(持続的な不応答性)を達成した。しかし彼らは寛容となったと言えるだろうか?
■ 彼らのほとんどは、ピーナッツを1年間回避してから、1回の負荷試験を通過した。
■ まだ一部はピーナッツに感作されているが、多くは感作されていなかった。そしてそれらの群は、LEAP中にピーナッツを回避した群よりも血清ピーナッツIgGレベルが高い。
■ 未解決の問題は、ピーナッツの任意の摂取が試みられるとき、何があるかということである。すなわち、対策が緩んだ時、ピーナッツが家庭環境に再導入されるときに起こることである。
いつピーナッツアレルギーを発症するウィンドウは終わるのか?
■ 規則的にピーナッツを摂取せず、しかも皮膚バリアが障害されている人にとって、再感作の危険性はどうだろうか?
■ 更なる免疫的なフェノタイプに対する研究が期待される。そして、それはリスク層別化をある程度可能にするかもしれない。
■ おそらく、これらの子供の大部分は、ピーナッツに対して臨床的に耐性があり、少数は感作されているものの臨床的には反応がなく、臨床的なアレルギーを発症するものもほとんどない。
■ これらの小児の詳細なフォローアップは、これらリスクのあるサブグループのマーカーを同定することを目的とし、長期耐性をうまく誘導するための適切な食事療法に関するアドバイスを定義することが重要である。
結局、何がわかった?
✅経口寛容を示す、さまざまな臨床研究結果が示されるようになった。
✅永続的な耐性を意味する経口寛容、耐性期間が不明であるSustained unresponsiveness (持続的な不応答性)を厳密に定義することも難しい。そのメカニズムを解明するためには、より多くの研究が必要である。
✅長期耐性を誘導するために適切な食事療法のアドバイスをできるような定義が今後必要である。
まだ不明な点は多いですが、さまざまな研究が発表されており、現在進行形と言えましょう 。
■ このレビューは2016年のものであり、現在はさらに検討が進んでいます。
■ しかし、経口寛容とSustained unresponsiveness (SU;持続的な不応答性)の問題に関しては、まだ解決したともいえない状況と言えましょう。
■ 現状では、LEAP研究とLEAP-ON研究からある程度分かっているように、Golden Timeはおそらく1歳未満にあり、その時点で始めた食物に関しては”耐性”となるのではないかと思います。
■ 実際、5歳以降で開始した卵免疫療法を行った児に関しては、4年継続しても中断すると半分は摂取できなくなるとされています。
■ 臨床経験的にも、1歳以降で「治療として経口寛容を誘導した場合」はSUにすぎない可能性が高いのかもしれません。
今日のまとめ!
✅経口寛容に関し、現在の知見がまとめられていた。
✅経口寛容とSustained unresponsiveness (SU;持続的な不応答性)、そして耐性といった用語に関し、よく理解する必要性がある。