インフルエンザワクチン集団接種は、インフルエンザによる死亡数を減らしていた

インフルエンザ集団接種の効果による、集団免疫の効果に関してご紹介します。

■ 図らずも、インフルエンザワクチンやインフルエンザに対する話題が続いています。季節ということ、また、この時期に自分自身のUPDATEをすることが多いので、ご容赦ください。

■ さて、最近、小児に対するインフルエンザワクチンの効果をご紹介してきました。直接の効果は、十分ある(ただし、接種したご家族の期待値までは達していないかもしれない)と考えられます。

■ 一方、我々が小さい時、インフルエンザワクチンが集団接種されていたことは記憶に新しいでしょう。目的は、集団接種を行うことで集団免疫(全体の免疫をあげる)ことでした。いわゆる、「コクーン(繭)」の考え方です。繭(まゆ)とは、若い人は知らないかもしれないですが、絹の原料になる、蚕(かいこ)玉のことで、周囲の免疫をあげることで、中の弱いひとを守っていこうという戦略を繭に例えています。

予防接種の本当の意味 ”集団免疫”とは何か

■ しかし、当時、インフルエンザ集団接種は、中止となりました。色々な考えがあることは承知していますが、集団接種を中止することで起こったことは明らかになっています。

■ 日本全国での超過死亡率が明らかに上昇したことです。超過死亡率、というのは簡単に言うと、インフルエンザが流行したために余分に死亡した率、と言えばいいでしょうか?インフルエンザのみではなくインフルエンザによって発生した肺炎で死亡した方も含むことになります。

超過死亡とは、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す、推定値である。 この値は、直接および間接に、インフルエンザの流行によって生じた死亡であり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%であるなら、ワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味する。

感染症情報センターHPより

■ このことはすでに2001年にNEJMに報告されていますが、思った以上に、この論文は知られていないようです。そこで、今回は少し古い論文ではありますが、ご紹介したいと思います。

 

Reichert TA, et al. The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza. New England Journal of Medicine 2001; 344:889-96.

1949年から1998年にかけて、インフルエンザに起因するすべての死亡原因と日米両国の予防接種率に関する月別死亡率を分析した。

背景

■ インフルエンザの流行は、主にハイリスクの高齢者やその他の人々の死亡率の増加をもたらすため、インフルエンザ対策の労力はこのグループの予防接種に焦点を当てている。

■ しかし、日本は一時期、インフルエンザ対策の方針として、児童に対する予防接種を掲げており、1962年から1987年まで、ほとんどの日本の小学生はインフルエンザワクチン接種を受けていた。

■ 10年以上にわたって、予防接種は必須とされていたが、その法律は1987年に緩和され、1994年に廃止された。

■ そのため、その後、ワクチン接種率は低水準に低下した。

■ 大多数の学童が予防接種を受けていたため、その時期、日本ではインフルエンザに対する集団免疫が達成されていた可能性がある。

■ これが正しいならば、インフルエンザ発生率とインフルエンザに起因する死亡率の両方が、高齢者の間で減少していた可能性がある。

 

方法

■ 私たちは、1949年から1998年にかけて、肺炎とインフルエンザに起因するすべての死亡原因と国勢調査データと、日米両国の予防接種率に関する月別死亡率を分析した。

■ 冬のシーズン毎に、試験開始時の11月の中央死亡率を上回る月ごとの死亡数を推定した。

 

結果

■ 肺炎およびインフルエンザによる過剰死亡率およびすべての原因による死亡率は、非常に相関していた。

■ 米国では、これらの率は、時期を問わず、ほぼ一定であった。

■ 日本の児童生徒に対するワクチン接種プログラムの開始に伴い、超過死亡率は米国の3倍から4倍から米国と同等に低下した。

日本の児童生徒に対する予防接種は、年間約37,000〜49,000人の死亡を予防し、すなわち、予防接種を受けた児童生徒約420人に対し1人の死亡を予防した。

※管理人注;児童に対する予防接種が直接児童に効果があったかをみている訳ではなく、児童420人に接種することで、高齢者やハイリスク群も含む方が1人死亡が減ったという意味。

■ 小学生の予防接種が中止されると、日本の超過死亡率は増加に転じた。

論文から引用。インフルエンザ予防接種(グレーの棒グラフ)と超過死亡率(折れ線グラフ)。上段が日本で、下段が米国で、予防接種量が増加すると超過死亡率が低下し、集団接種が終了後、超過死亡率が上昇している。

 

結論

■ インフルエンザにおける死亡率への影響は、米国よりも日本でははるかに大きく、肺炎やインフルエンザに起因するすべての死亡原因による死亡率についてもほぼ同様に評価することができる。

■ インフルエンザに対する予防接種は、予防を提供し、高齢者のインフルエンザによる死亡率を減少させる。

 

 

結局、何がわかった?

 ✅1949年から1998年にかけてのインフルエンザワクチン集団接種は、年間約37,000〜49,000人の超過死亡を予防していたと推定された。

 

 

集団免疫の概念を理解することが必要でしょう。

■ このインフルエンザ集団接種に関する論文は、いくつかの疑問点も提示されていますが、覆すまでには至っていません。

Vaccinating Japanese Schoolchildren against Influenza

■ すなわち、日本のインフルエンザワクチン集団接種は、集団免疫により死亡率を低下させていたことになります。集団免疫に関して考える報告として重要と思います。

■ 例えば、小さい集団(例えば家族)でも、まだインフルエンザワクチンが出来ない(もしくは効果の低い)乳児がいらっしゃる場合は、家族全員でワクチンをしようとか、そういう考え方は重要でしょう。

■ なお、最近、乳児に対してもインフルエンザワクチンが有効であることは、すでに大規模なランダム化比較試験(!)で明らかになってきています(ただし3割程度と低め)。

■ また、生後6か月未満のインフルエンザによる重症化のリスクは、同居している祖父母の方の予防接種により低下させるのではないかという報告もされました。

 

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今日のまとめ!

 ✅インフルエンザワクチンの集団接種は、インフルエンザによる超過死亡を減らしていた。

 

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