ネコ飼育に関し、アレルギーを予防/悪化するという矛盾した結果となる理由は何か?【全訳】

アレルギーにおいて、ペットは良いのか?悪いのか? 実はその結論を出すことは難しい状況ですが、その理由の一端を示した研究結果が発表されました。

■ 私にとって、ペットに対する説明はいまだに難しいと感じます。

■ 例えば、ペットを新しく飼育を開始することで喘息やアトピー性皮膚炎が悪化するといった臨床的な経験は少なくありませんが、一方で、出生前からペットを飼っていると、むしろアトピー性皮膚炎の防御因子になるかもしれないという報告もあるからです。

■ 現状ではまだ、「こうするべき」と明らかにお話しすることがむずかしい問題ではあるのですが、その問題に一部答えるかもしれない結果が、最近JACIに報告されました。全文がオープンアクセスでしたので、重要論文と考えて全訳を試みました。

 

Ihuoma H, et al. Cat ownership, cat allergen exposure, and trajectories of sensitization and asthma throughout childhood. J Allergy Clin Immunol 2018; 141:820-2.e7.

乳児期にペット曝露の有無が確認でき、少なくとも1種類の感作の結果を確認できた、縦断的なコホート群1051人のうちの1004人のデータを解析した。

背景

■ ほぼ20年間にわたり、ネコへの曝露は、様々な、そしてしばしば矛盾する結果になっている

■ いくつかの出生コホート試験は、ネコアレルゲンへの曝露が早期にふえると就学前のネコへの感作のリスクが増加すると報告した。

■ 対照的に、年齢の高い小児や成人に対する横断研究では、ベル型の用量反応関係がある、ネコ感作に対しアレルゲンに強く曝露した場合の防御効果が報告されている。

■ ネコの所有とネコ特異的感作との関連についても、同様に不一致が報告されている。

 

方法

■ 我々は、ネコへの早期曝露が感作に及ぼす影響の違いになると仮説した。例えば、下記の要因である。

(1)時間の経過とともに、ある特定の年齢での横断的分析からの効果が普遍化することにより、潜在的な誤解を招いている。
(2)ネコ由来の様々なアレルゲン性タンパク質。
(3)アレルギーに対し様々なリスクを持つ小児。

■ この仮説に焦点を当てるために、小児期の感作や喘息の縦断的な検討に対し、生後1歳のネコの曝露の影響を調査した。

皮膚プリックテスト(SPT)やネコアレルゲンFel d1、Fel d2、Fel d4特異的IgE (ImmunoCAP ISAC)は、6時点(1、3、5、8、11、16歳で入手可能であった。

■ SPTが3mm以上の径の膨疹を陽性と定義し、Component-resolved diagnostics(IgE / CRD)については、IgE抗体価が0.3IU以上が少なくとも1種類あれば、感作とした。

■ 幼児期のネコの所有状況を調査票で確認し、ELISAを用いて、生後1年以内に家で集めたハウスダストサンプル中のFel d 1を定量化(μg/ g)した。

■ 一般化された推定方程式(component-resolved diagnostics;GEEs)を用いて縦断分析を行った。

■ 多変量GEEsモデルの平均予測値に基づき、ネコの所有と期間の相互作用により、乳幼児期から青年期への感作の典型例を生成した。

 

結果

乳児期に曝露が確認され、少なくとも1種類の使用できる感作の測定値がある観察コホート群1051人のうち1004人のデータを分析した。

■ この論文のオンライン・リポジトリ(www.jacionline.org)の表E1は、研究参加者の人口統計学的および臨床的特徴を示している。

■ 横断分析では、乳幼児期のネコの飼育は、就学前のネコに対する感作リスクが有意に高かったが、その後はそうではなかった(図1を参照。www.jacionline.org)。

論文より引用(図1)。早期からネコを飼育していた児と飼育しなかった児における、ネコ感作の縦断的な経過。

A: SPT、B: ネコに対するCRD感作、C:CRDコンポーネント。

■ 多変量縦断モデル(図1;この記事のオンラインリポジトリwww.jacionline.orgの表E2を参照)では、ネコを早期に所有することは、ネコの感作リスクを有意に高めた (オッズ比 [odds ratio; OR], [95% CI]: SPT; 2.50 [1.37-4.55; P = .003; IgE/CRD 3.13 [1.62-6.07]; P = .001)

しかし、ネコの飼育者と比較して、ネコを飼育していない児では、SPTによる感作率は1〜16歳での増加率は6%高く(95% CI, 1% to 11%; P = .02)、また、IgE / CRDの感作については8%高く(95%CI 2%~14%; P = 0.005)、ネコの所有と期間に相互作用がみとめられた

小児期にネコに対する感作を発症した、家庭でネコを飼育している児の大部分は、1歳までに感作された。

■ 1年後、ネコを飼育している児の感作率の上昇は非常にゆっくりであり(SPT、図1、A)か、または変化しなかった(IgE / CRD、図1、B)。

■ 対照的に、ネコを飼育していない児は、就学前の感作率は低かったが、経時的な経過は著しく異なり、年齢が高くなるに従って感作が有意に増加した。

思春期までには、ネコを飼育している児とネコを飼育していない児において、ネコに対する感作率にの差はなくなった(図1)

■ ネコの所有率は、Fel d1、Fel d 4に対する感作のリスクを有意に増加させたが、Fel d 2(P = .39)はそうではなかった。

■ また、ネコの飼育と期間に対し、Fel d 1に対するIgEに関連し(p=0.008)、Fel d 4は限定的で(P = .06)、Fel d2では有意ではない相互作用があった(図1、C)

■ Fel d 1は939家庭で測定された。

■ 横断的分析では、乳幼児期ににおいてFel d1の曝露が増加すると、就学前での感作の可能性を有意に高めたが、その後はそうでなかった(この記事のオンラインリポジトリwww.jacionline.orgの表E3を参照)。

■ 多変量GEEsモデルでは、早期のFel d1曝露とネコに対する感作に有意な関連がみられた(この記事のオンラインリポジトリの表E4を参照)。

Fel d1濃度の対数単位の増加あたりのリスク増加は、SPTで15%(95%CI、4%〜28%; P = 0.008)、IgE / CRDで22%(95%CI、10%〜36 %; P <.001)だった

■ しかし、ネコの所有と同様、Fel d 1に対する曝露と期間には有意な相互作用が観察され、年長時での曝露の影響は年齢が長じるにつれ有意に減少した(SPT: OR [95% CI], 0.99 [0.98-1.00], P = .04; IgE/CRD: 0.98 [0.98-0.99], P < .001)。

アレルギーのある親をもつハイリスク児では、感作率が一貫して高かったが、ネコの所有やアレルゲン曝露に関連した経時的な変化率は、ハイリスクと低リスク児で有意差はなかった(図2;表E2、表E3、表E4)

論文から引用。図2。ハイリスク児と低リスク児の縦断的な感作。 A:SPTによる感作。 B:IgE/CRDによる感作。

■ 最後に、ネコ以外のアレルゲン感作においてネコの所有は影響せず、喘息に対し有意な影響はなかった(図2のオンラインリポジトリ、www.jacionline.orgを参照)。

乳幼児期における曝露量は、喘息発症と有意な関連はなかった(0.98 [0.89-1.07]; P = .61)

 

考察

■ ネコへの曝露と喘息に関連性がないことは、ヨーロッパ出生コホート11研究のプール解析と一致しており、ネコへの早期曝露がネコへのアレルゲン特異的免疫学的反応が発揮されることを示唆している。

■ 本研究での対象では、ネコを飼育している児の18%が妊娠中もしくは児の最初の誕生日までにネコを手放した。

■ 同時曝露の分析を調整したところ、結果にはわずかな差しかなかった。

■ この研究の限界については、この記事のオンライン・リポジトリ(www.jacionline.org)を参照を推奨する。

■ この検討における知見は、乳幼児期の初期におけるネコの曝露と特異的な感作との関連は変化する性質をもち、転帰の評価の時期に対する重要な役割を強調している。

■ これらの結果は、以前の文献における不一致のほとんどを説明することができる。

■ 例えば、出生コホート研究の報告では、ネコアレルゲン曝露と特異的感作の用量 - 反応関係に加えて、ネコの所有を危険因子として特定している。

年長児および成人における横断的および症例対照研究では、ネコに対する曝露との関連性や予防効果が見出されていない

■ これは私たちの感作経過と完全に一致している。

■ この研究で16歳での感作率は、乳幼児期にネコ飼った小児では数値的に低値だったが、この差は統計学的に有意ではなかった。

■ 我々は、25%〜30%と予測される感作率である成人のデータを推定にもちいれば、ネコの飼育には重要な保護効果が見られると提案する。

 

結論

■ これらから、ネコへの曝露は、評価の年齢、試験デザイン、試験集団の選択に依存しており、リスクの増加または保護をもたらす可能性もあるし、または効果がないとも言える

■ したがって、以前の研究の知見が明らかに矛盾しているという事実は、それらが間違いとは言えないものの、ネコを所有していない児と比較してネコを乳幼児期に所有している児のライフコースを通したネコに対する感作の様々な経過の結果である。

 

 

結局、何がわかった?

 ✅乳幼児期のネコの飼育は、1歳までに多くは感作され、就学前のネコに対する感作リスクが有意に高かった (皮膚プリックテストによるオッズ比 2.50 [1.37-4.55; P = .003]、 IgE/CRDによるオッズ比 3.13 [1.62-6.07; P = .001])。

 ✅しかし、その後の感作率は飼育をしていない児と差が徐々になくなった。

 

 

「ペットを飼ってもいいか」に関する質問に答えることはかなり難しいです。この研究はその難しさの一端をしめしたものといえましょう。

■ 「ペットを飼ってもいいか」に関する質問に答えることはかなり難しく、この研究はその理由を一部示したといえましょう。

■ 例えば、出生前からのペットの飼育が、喘息発症予防に関連するかもしれないという報告もあります。

■ 一方で、ペットへの感作は、その後の喘息の持続に関連するという報告も複数あります。

■ そして、低年齢での感作は、その先のペットに対する症状のリスクでもあるという報告もありますし、感作されている場合は喘息発作のリスクにもなります。

■ 私は、アトピー性皮膚炎を発症していないのであれば、飼育に関しては低年齢から開始しても良いと思いますが、アトピー性皮膚炎を発症している、もしくはすでに感作されている場合は小児期に飼育を開始しない方がよいというスタンスを取っています。

 

今日のまとめ!

 ✅乳幼児期のネコの飼育は、就学前のネコに対する感作リスクを有意に高めるものの、その後は、飼育していない児との差がなくなった。

 

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